コロナ禍のもとで6月の定時株主総会を開催するリスクは極めて大きい

毎年、この時期は会社法に詳しい先生方が「今年の株主総会の傾向と対策」なるテーマで講演をされますが、今年はご存知のとおり「有事における株主総会」の話題一色です。おそらく6月総会を控えておられる会社の担当者の方々は、3月総会の様子を参考に、この「有事株主総会」を(平穏無事に)乗り切ることをお考えかと拝察いたします。しかし3月29日ころと現在では、もはや社会の状況は一変しています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

会社法に詳しい専門家の皆様は「定時株主総会は縮小してでも開催するほうがよい(望ましい)」とおっしゃています(ほぼ有識者の全ての方々のご意見だと思います)。しかし、東京や大阪に特措法に基づく緊急事態宣言が出され、国民に特措法45条1項違反(外出自粛要請違反)を推奨するような株主総会は、「開催することが望ましい」と本当に言えるのでしょうか?東京で181人、大阪で92人もの感染者(一日あたり 4月9日)が出る状況で、もはや株主総会の開催はあまりにも無謀と思います。

もちろん延期することのデメリットは大きいものがあります。退任予定の役員の方々に、もう少しだけ頑張ってもらわねばなりません。剰余金配当においても、権利付き最終日がずれることで(株価には配当分も織り込み済だ、として)投資家から批判されることもあります(現に、東証が「総会延期によって配当をもらえないことがある」と3月下旬に注意喚起して大騒ぎになったことは記憶に新しい)。事務手続きが増えて社員の方に負担をかけることも悩ましいです。

また、「まあ、そうは言っても6月下旬になったら収束しているかもしれないから、6月になって考えればいいのでは・・」といった楽観論もありえます。しかし、健康リスクに加えて、4月7日の日本公認会計士協会会長の声明は重い。重すぎます。私がリモート会議でご一緒している何人かの公認会計士の方々も「とうてい5月中頃までに計算書類の監査を終えることは困難」「会長はよくぞ声明を出してくれた」とつぶやいておられます。

テレワーク等、自宅での仕事が推奨される中で、どうやって経理や監査、会計監査人が5月中旬までに監査を終わらせることができるのでしょうか。たとえ物理的に可能であったとしても、切迫した状況の中で、不正の兆候を見つけた場合に声を上げる雰囲気などないと考えます。「監査や法務は二の次、ともかく例年通りにさっさと総会を終わらせろ」といった雰囲気で株主総会が開催されるとすれば、もはやコンプライアンスなど無いも同然です。「配当」が大切であることは重々承知しておりますが、株主の短期的利益に配慮するあまり、中長期的な利益をないがしろにする姿勢は、もはや昨今の企業統治改革の方針にも合致しません。

「延期したとしても、コロナ禍がいつ収束するのか見えないではないか」との声も聞かれます。いつまでも延期するわけにはいかないので、とりあえず6月総会の場合には7月末までに開催せざるを得ないでしょう。その際にこそ、先日公表された経産省・法務省連名によるQ&Aが(バーチャル総会の開催案も含めて)活かされると考えます。会計監査人の監査に(限定付き意見等)不十分な点が残るのであれば、会計監査の方法及び結果の相当性判断と財務報告に関する内部統制の相当性判断に責任を持つ監査役監査でカバーするしかないと思います。「いつコロナ禍が収束するかわからない不確実性」はありますが、6月総会を開催することによって感染者を出してしまう不確実性、会計不正事件が顕在化することの不確実性と比較すれば受容可能だと考えます。

有価証券報告書の提出期限の猶予、法人税および消費税の申告時期の延期についても、それぞれ「株主総会の延期」を見越してほぼ準備が整いました。これで、株主総会延期(7月総会)のためのインフラは揃いました。経路不明の感染が急増している現状からみますと、もはや「規模を縮小して、感染対策を万全に行う」というレベルの総会対策で国民の生命・身体を守れると考えることはリスクが大きすぎると思います(とくに出席株主には高齢者の方が多いことも心配です。基礎疾患がある方はご遠慮願う、といった対応では甘すぎるでしょう)。会計監査の重要性に目を背ける姿勢にも会計不正のリスクが大きく潜んでいます。

「延期したくでもできなかった」というケースと「延期できるのにしなかった」というケースでは、役員のリーガルリスクが異なります。また、緊急事態宣言が発出されたことで、株主および役員・従業員の感染の「予見可能性」も大きく変わりました。基準日と決算日を異にする実務慣行が日本企業には存在しないこと、株主確定コスト生じること、配当・税務スケジュールが遅延すること、第一四半期決算の時期が重なること等、様々なデメリットがあることは承知しておりますが、それらの弊害は「延期したくてもできなかった」ことの理由にはなりえません。コロナ禍の現状を踏まえますと、とりあえず6月に定時株主総会を開催する上場会社においては、開催時期を延期をして、考えられる弊害はトライアル&エラーで対応していくより方法はないと考えます。

なお、くどいようですが、上記は私個人の見解であり少数意見であります。どうしても6月総会を予定どおりに開催したいと考える場合のリスクについては重々承知のうえで実施に踏み切るべきでしょう。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。