緊急事態でも生き抜ける事業家たれ

ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正会長兼社長が決算見込みの会見で「戦後最大の人類の危機だ」と述べました。正直、頂けない発言です。人類の危機なんていう表現はそうたやすく使うものではありません。同社が存亡の危機に立っているならともかくたかが38%減益見込みで何をおののいているのかさっぱりわかりません。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

日本を代表する企業家がそんな弱気で不安を掻き立てるような発言をしたら中小で明日が読めない経営者たちはどうなるのでしょうか?もっと言葉を慎むべきです。

私の住むカナダBC州で非常事態宣言が出たのは3月18日です。すでに3週間以上たっています。当初はあちらこちらで不安の声もありました。パニックになっている人もいました。ですが、そういう方々に私はこう申し上げました。「これはリーマンショックに比べて経済の処方箋ははるかに簡単です」と。

理由はリーマンショックは問題がどこにあるかわからない中で経済の仕組みそのもののが疑われたのです。今回の引き金は疾病であります。経済の仕組みは基本的に壊れていないのです。ですので私の答えは「今はPause(一時停止)の時期だからまたいつかPlayに戻ります。それまで英気を養うべきです」と申し上げております。

勿論、反発はあるでしょう。Pauseしている間、どうやって食っていくのだ、と。私はいつも「アリとキリギリス」の話を頭に描いています。そしてアリがその食べ物の隠し場所をあちらこちらに分散していれば更に安心でしょう。誰かに隠し場所を見つけれらてもほかのところがあるからです。

日本は大半が中小企業、そしてその企業の運営はお手盛りになっているところが多いのだろうと思います。お手盛りとは昔でいう「どんぶり勘定」と同じです。これが日本の中小企業が成長しない理由であり、中小企業を育てなかった経済産業省の長年の失策でもあります。

昔の八百屋さんには小銭の釣銭を入れる「ざる」が天井からぶら下がっていてお客が野菜を買うと売り上げをそこに入れていました。ところがそこに納入業者が集金にやってくるとそのざるからお金を渡します。奥さんがちょっと夕方の買い物に行くといえばご主人がそのざるから「ほれ、持っていけ」とお金を渡します。「ざる勘定」という言葉は正式ではないと思いますが、その「ざる」とはこの八百屋の例えから来ているのです。つまり事業と個人のお金がくちゃくちゃなのです。

私が見ている限り多くの個人事業者は事業を今日、明日の目線で見ています。そして時々大きな収入があるとボーナスだといって自分への褒美をお手盛りし、ぱっと使ってしまいます。会社が安定的に成長し継続するという発想がないのです。よって会社に蓄えがないのでこういう事態になると「もう事業を辞めます」になってしまいます。

これは個人事業主の会計をもっと厳しくしなかった当局の甘さ、大きな経済的打撃が起きたときの失業者の救済計画(失業保険がパッとでる仕組み)を作らなかったこと、よい時に事業拡大をささやき、貸し付けする金融機関が作り出した悪の循環であります。そしてそれ以上に経営者が勉強してこなかったのです。(長時間仕事をするのと勉強するのは意味が違います。)

では今回の緊急事態をどう生き延びるのでしょうか。マインドの持ち方だと考えています。長くても3カ月、早ければひと月程度ではないかと思います。まず、自分で出口までどうやれるか計画します。今年の利益はなくなっても仕方がありません。その利益分をこの1-2カ月に振り分けるというぐらいの発想です。もともと赤字のところは抜本的対策を考え、大変革をするか、事業を辞めるかのどちらかです。今までは実感こそないけれど景気は良かったのです。それで赤字ならそれは何年やっても赤字なんです。事業としては失敗。だからあきらめるべきです。

次に暗いことを考えずに前向きな発想に切り替えることです。いまこそポジティブシンキングです。今できたこの時間をどう過ごすかで再スタートを切った時、差のつき方が変わります。今までの贅沢もできないし、外食も控えるので支出も落ちるのです。ですので案外1週間もするとこの生活に慣れるはずです。そこで自分を変革できた人だけが勝ち抜けると思います。

日本には厳しい試練だと思いますが、絶対に乗り越えられます。この1-2カ月を有効に活用していただきたいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月10日の記事より転載させていただきました。