3月30日、バルセロナ・クラブはコロナウイルス危機が続く限り社員が給与の100%受給を保障するために選手が自らの給与の7割を削減することが日本でも報じられた。しかし、その説明がどれも十分ではない。その詳細を以下に説明しよう。
(参照:lavanguardia.com)
コロナウイルスの感染拡大に伴うスペイン全国レベルで企業活動の停止が実施されて市民は今も軟禁状態にある。その影響で学校は休校し、スポーツの試合なども一切停止されている。そのため、生産と営業活動が中断させられた企業は社員の一時的解雇を実施している。企業による社員の一時解雇を容易にするために危機の継続期間中は政府が企業に代わって給与の7割を支給することになっている。
今回のバルセロナ・クラブの選手による7割給与削減は、社員が受け取る残り3割の給与の支給を保障するためのものである。そうすることによってバルセロナ・クラブの社員は100%給与が保障されたことになる。
ただし、選手の7割の給与削減というのはあくまでコロナウイルス危機の期間中だけに限定されている。今のところはそれを2か月と見ている。例えば、メッシは毎月税込み830万ユーロ(9億9600万円)を稼いでいる(参照:marca.com)。
当面、コロナ危機は2か月と見ていることから、メッシは2か月分の税込み1660万ユーロ(19億9200万円)の7割を社員の給与支払いに割くということになる。ちなみに、スペイン政府は半年間7割の給与の支給を保障している。
バルセロナというクラブはフットボール以外にバスケットボール、ローラーホッケイ、ハンドボール、フットサルのプロチームを抱えている。今回の選手の7割給与削減はこれらすべてのバルサチームの選手による合意なのである。もちろん、バルセロナ・クラブのすべてのチームのリーダーはバルサ・フットボールのキャプテンであるリオネル・メッシとなっている。
バルセロナ・クラブはスペインのスポーツクラブとしての社員数は最大で、およそ1000人がクラブの日常の業務をこなしている。彼らが一時解雇されることから、選手はこの社員全員の給与の3割の保障をしたということだ。残り7割の給与は政府が負担することになっている。
当初、クラブのフロントは選手が給与削減に応じることには懐疑的であった。だから、クラブのジェネラル・マネジャーであるオスカル・グラウは選手の方から自主的に給与削減を決めてもらうのではなく、フロントが強制的に選手に協力させるような圧力をかけようとしたのである。それが選手をより不快にさせた。というのも、選手の方はそれぞれクラブのチーム間で調整して協力する姿勢にあったからだ。そのために時間を要したということだ。
何しろ、個々に選手の年俸は異なっている。フットボールやバスケット選手の年俸に比べ他の種目の選手の年俸はかなり低い。それをすべて均一に7割削減ということで合意するのは容易ではなかった。しかも、フットボールの選手の中でもジェラルド・ピケーはそれに反対していたという。その理由は明らかにされていない。同様にバスケットの選手の間でも可なり意見の相違があったそうだ。
だから、メッシが給与の7割削減を発表した時に、フロントは当初この削減が実現しない場合はそれをメッシのせいにしよとしていたというのだ。それに対して、メッシは他の選手との調整で合意に結びつけるまで容易ではなかったから回答が遅れたのだという理由を挙げてフロントを批判した。メッシがフロントとぎくしゃくしているのは、ネイマールを連れ戻すことをフロントが実現させなかった時点から始まったとも言われている。
一方、フロントが選手に圧力を掛けざるを得ない理由があった。何しろ、バルセロナは5億600万ユーロ(607億円)の短期負債を抱えている上に、今期はコロナウイルスの影響でリーグ戦そしてヨーロッパチャンピオンの試合が中止となり、入場券の販売収入が削減した。テレビ放映権も3割しか得ていない。クラブのミュージアムの収入とショップによる売り上げとを合わせても満足行く収入にはなっていない。
ということで、必然的にクラブの予算の大半を占める選手の年俸を削減して社員の給与の足しにするという手段しか選択の余地はなかったのであった(参照:vozpopuli.com)。
バルセロナ・クラブから一時解雇された社員の7割の給与保障であるが、コロナウイルス危機が2か月で解決する可能性は薄い。最低でも4カ月は必要と見られている。しかし、その後景気が回復する見込みは少ない。よって、バルサの場合は1000人余りの社員の内の完全解雇になる社員が出て来ることは必至である。