緊急事態宣言など

石破  茂 です。

ここ数週間のコメント欄やホームページのご意見欄にお寄せいただく多くの皆様のお考えやお気持ちには、深く頷き、気付かされ、考えさせられるものがあり、心よりお礼申し上げます。

3月以降に予定されていた会合がほとんど中止・延期となったことに加え、外へ出る機会が激減してしまった中、ご提案やご意見、お怒りや憤りを率直にお伝え頂けることはとても有り難いことです。世の中の感覚と政治が乖離することが最も恐ろしいのであり、「与党議員や自民党本部に陳情に行ける者ばかりが社会的弱者だと思うな!」とのお声は本当に骨身に染みました。すべてに目を通し、可能な限り対応しておりますので、引き続き今後とも何卒よろしくお願い致します。

新型コロナウイルスは確かに恐るべき感染症であり、人類はこれに打ち勝つべく最大の知恵と力を費やさねばなりませんし、我が日本国も朝野を挙げて対応に取り組んでいるのですが、政府をはじめとする行政や立法府と国民・市民との間に危機認識や情報共有の齟齬があり、意識の乖離が起こっているのは何故なのか。三十年余りにわたって議員の立場にあった者として深く反省するとともに、今後何年かかってでも、再び強靭で心温かな日本国を創るために努めなくてはなりません。

地域社会や家庭は大きく様変わりし、持続可能性と連帯感を喪いつつあります。株主と経営者は豊かになっても、勤労者所得は減少して格差は拡大している。特に非正規労働者の賃金は低く、男女間の賃金格差は先進国最大であり、失業率が低下して総雇用者数と総所得は増えていても労働生産性は低いままに留まる。東京一極集中は一向に止まらず、地方の疲弊・崩壊が進行する。核家族化は極点に達し、単身世帯が激増した半面、共に扶け合う多世代家庭はその多くが消滅しつつある。

これらは天変地異によるものでも何でもなく、すべて政策選択の結果であり、一にかかって我々政治の責任です。一昨年の自民党総裁選挙の時も申し上げたことですが、人々が多様な価値観による幸せを実現することのできる国にするため、日本の設計図を根本から書き換えねばなりません。

1918年にアメリカ・カンザス州の陸軍兵営から発生し、全世界で1億人ともいわれる死者を出したスペイン風邪は、第一次大戦を終わらせる一因ともなりましたが、その後、1919年にナチス党の前身であるドイツ労働者党が設立され、1929年に大恐慌が起こり、1939年に第二次大戦が勃発しました。感染症は時に歴史を変え、時に極端な排外主義を生むことがあったのも事実です。

今もまた、歴史の変わり目にいるという認識を強く持ち、己を律していかねばならないのだと思っております。

7日火曜日に東京などの首都圏や大阪、兵庫、福岡などを対象地域とする緊急事態が宣言され、各都府県知事が実情に即した判断を行える法的な体制が整いました。「緊急事態」という言葉の持つ語感のせいなのか、未だに戒厳令のような捉え方が一部でなされているのはとても残念ですし、それを煽るかのような一部の報道姿勢にもいささか疑問を感じています。

緊急事態宣言発令に際して記者会見に臨んだ安倍首相(官邸HP)

例えば自衛権(個別的自衛権)の行使の場合には、事態の度合いに応じて「武力攻撃予測事態」→「武力攻撃切迫事態」→「武力攻撃事態」と自衛隊の対応を法律的に分けているのですが、感染症の分野ではいきなり「緊急事態」となりうる。しかし「緊急事態」はあくまでも諸外国とは異なり、都市封鎖ではなく、基本的に強制力を伴うようなこともない、というのは一般の人々には理解しにくいかもしれません。

また、今回の宣言によって法的に可能となる措置は、感染拡大と医療崩壊を阻止するために各都道府県の実情に即して行なわれるものであり、国が行う経済対策とは明確に分けて説明されなくてはなりません。混乱と困惑が広がらないよう、あらゆる努力をすべきです。

医師、看護師をはじめとする現場の医療関係者の方々は、自らも感染の危険と向き合いながら、最大限の働きをして過労死寸前の方も多くおられます。ここが崩れてしまうことのないよう、医療の現場の実態を正確に把握して対策を考えるべきです。

前線は呼吸器科と、第一対応を行う可能性の高い内科です。他の診療科は平常通りの体制を維持し、この前線の負担を少しでも軽くしなければなりません。そして差し迫った状況にある医療現場の支援をどのように計画的に行うかも喫緊の課題です。東京都の23区26市5町8村においてもそれぞれ事情は異なるはずですし、全国においても大きな差があるのではないか。全体像を把握し、政府・医師会・病院団体が一体となって的確な振り分けを行わなくてはなりません。これらは新型インフルエンザ等対策政府行動計画にも定められていることです。

五輪の延期によって当面使用されることのない首都圏の競技場や宿泊施設なども、医療目的の転用を進めるべきです。医療スタッフについても、引退された資格保有者、高学年の医学生や看護学生を後方支援要員とすることと併せて、ローテーションを考えるべきでしょう。

そして次回の補正予算では、今回の教訓を踏まえ、国民全てに一律(10万円程度)の給付金を支給すべきだと思っております。「世帯主の所得」、「コロナ禍により減収」、年収制限などにより、約2割の方々しか行きわたらないようでは、全国民に感染拡大阻止のための行動制限をお願いしていることとバランスが取れません。公務員や社会保障の受給者等については事後に調整すればよいのであって、大多数の困っている人に迅速に届くことの方が重要と考えます。

その手段として、マイナンバーの利用拡大と、マイナンバーカードの普及もこの際に徹底すべきですし、テレワーク、テレエデュケーション、テレメディスンも、明確に数値目標を定めて普及を促進しなければなりません。

党の会議がほとんど中止となったことから、党本部より所属各議員に対し、月曜日午後4時までに新型コロナ問題についての意見を書面で提出するよう指示がありました。今の段階で思っていることをこちらに載せておきますのでご高覧ください。

新型コロナウイルスの感染者が出ていないのは、今や鳥取県と岩手県の2県のみとなりました。人口が少なく、人口密度も低いという以外の正確な理由は不明ですが、平井知事をはじめとする鳥取県民の努力とその勤勉性によるところも大きいと思います。小さな県だけに、行政と住民との距離が近く、一体感を持ちやすいということもあるのでしょう。地方から日本を変える魁たるべく、県民の一人として努力したいと考えております。

鳥取砂丘をはじめとする県内の観光地は近隣からの若者を中心に意外な賑わいとなっているようですが、「ここは田舎だから新型コロナウイルスもないのだ!」などという心無い発言、思い上がったような言動は絶対に許すことができません。お越しの際には是非ともマナーやルールを厳守して頂きたいと思っております。

世の中が新型コロナの報道一色になる中、このほど発表された今年度の航空自衛隊のスクランブル(緊急発進)数はここ数年と変わらず、歴代3位の多さであったこと(特に中国機が顕著)、また先月30日夜に発生した中国漁船と海自艦「しまかぜ」の衝突事故についても、ほとんど報じられていないのではないでしょうか。このように報道がほとんどなされない重大な事案が生起しているのではないかと危惧しており、アンテナを極力高く保たねばならないと思っております。

皆様、今後とも十分にお気をつけて、ご健勝にてお過ごしくださいませ。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2020年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。