第三の働き方、ギグワーカーの行方

ギグワーカーという言葉を聞いたことがありますか?この言葉を知らなくても皆さんの周りにはギグワーカーがたくさんいるはずです。

gigをケンブリッジ辞典で引くとa single performance by a musician or group of musicians, especially playing modern or pop musicとあるのですが、アメリカの辞書では a job, esp. one as a performer or one that lasts only a short timeともあります。もともとの意味はケンブリッジ辞典のように「音楽の演奏家が単独の公演をしたりすること」を言ったようです。ところが後述のアメリカの辞書では「短期で終結するような出演者のような仕事」とあります。今、世にいうギグワーカーとはこのことを言うのです。

(shopblocks /flickr(編集部))

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ギグワーカーの走りはウェブサイトの制作、各種デザインあたりでその後、ウーバーやリフトといった配車サービス、更にはウーバーイーツなどのレストランからの配達(出前)サービスなどその範囲はどんどん広がりを見せています。アメリカでは2015年頃から顕著になり始め、現在では1500万人ぐらいがギグワーカーとされます。

ギグワークは日本では第三の働き方といってもよいでしょう。正社員と派遣社員はお分かりになると思いますが、ギグワークの場合には形の上では一種の個人事業主(自営業者)なのです。これはサービスを求める会社(例えば配車会社)と基本契約は結んでいますが、あとは自分が空いた時間、好きな時間にその契約内容に基づき、仕事ができるというものです。

今回の新型肺炎では在宅勤務が注目されましたが、実はギグワーカーはもともとが在宅勤務か、在宅勤務の選択肢がないかのどちらかです。「米労働統計局によると、自宅で仕事ができる米国人労働者の割合は25~65歳では全体の3分の1だが、15~24歳ではわずか7%にとどまる」(FTより)とありますが、若年層にギグワーカーが多いことを考えると働き方の融通が利かないともいえそうです。

また、本当の個人事業主ならそれなりに事業を行う準備を行い資産も持っているものですが、ギグワーカーの場合、それがクルマ、自転車、パソコンといった多くの人が普通に持っているアイテムのみが事業のための資産になります。

なぜギグワークが若者の心を捉えたのでしょうか?最大の理由は組織に入れない若者が増えている点だとみています。一度は会社に入ったもののその雰囲気に耐えらなかったといったトラウマ的な方、あるいは一人っ子でスマホを介して育ってきた人にとってリアル人間と仕事を対面で行うことが全く受け入れられない精神的、心理的疾病に近い状態の人が増大していることは要因の一つとしてあるでしょう。

もう一つはそれらを受け入れる社会基盤ができていることです。例えばギグワーカーの走りであるウェブ制作者は世界のどこにいても仕事ができるという強みを生かす「ノマドワーカー」として世界中に散らばっています。彼らは往々にして税金を払わず、一方で社会保障がないという今日を生きる生活になります。当然ながら結婚や将来のビジョンは薄く、今をエンジョイする人が多くなります。

日本では漫喫などがフリーターが泊まり歩く宿泊施設の社会基盤となっています。ネットカフェ難民は定義上は広義のホームレスです。ネットカフェ難民とギグワーカーを直接結び付けるのは乱暴ですが、ギグワークなどで不定期収入の一部を一泊2000円程度の宿泊費に充てることで日々をしのぐという働き方は否定できないでしょう。上野のそばに山谷というところがあり、日雇い労働者の人が泊まる安宿がありますが、その現代版だと思ってよいのでしょう。

私がウィワークの事業に否定的なのは基本的にはこのギグワーカーの上級者版がシェアオフィスに小さな机を一つ借りて事業をやっているかたちを見せているからなのです。事業の住所がないと顧客に信用されません。つまり多くのシェアオフィスの顧客の多くは住所欲しさであり継続性や安定性を含めた信用度は低いレベルにあるとみています。

ギグワークの業務形態はある意味、社会の中でうまく同質化できない人たちがその出発点にあります。しかしながら、この人たちを守るという社会的取り組みは必要でしょう。なぜなら彼らを正社員か派遣社員に戻れ、と言ってもできないからです。新たな働き方でありますが、一方でこれを強く推し進めると長期的に労働市場がこの変化に耐えうるのか、私には想像し難いのであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月16日の記事より転載させていただきました。