WHOと台湾記者の「言論の自由」

長谷川 良

ウィーンに本部を置く国際新聞編集者協会(IPI)からニュースレターが届いた。IPIはジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長宛ての書簡(4月14日付)の中で、「台湾ジャーナリストの記者登録を認めるべきだ」とアピールしている。台湾出身の記者たちは過去6年間、WHOに記者申請を提出しても拒否されてきた。その結果、台湾ジャーナリストはWHOの最高意思決定機関「世界保健総会」(WHA)や記者ブリーフィングに参加できない。これは明らかに「言論の自由」の蹂躙だ。

▲WHOのテドロス事務局長に台湾ジャーナリストの記者登録を認めるように訴えるIPI(2020年4月14日、IPI公式サイトから)

▲WHOのテドロス事務局長に台湾ジャーナリストの記者登録を認めるように訴えるIPI(2020年4月14日、IPI公式サイトから)

国連機関の公式ブリーフィングや記者会見に参加できないことはジャーナリストにとって大きなハンディであることは当方も体験で知っているから、台湾ジャーナリストの立場を理解できる。「言論の自由」の尊重と叫びながら、記者クラブという既成メディアの権利擁護団体を造り、他のジャーナリストの「言論の自由」を蹂躙しながら、知らない顔をしている日本記者クラブなどは偽善丸出しの組織だ。

台湾ジャーナリストの「言論の自由」問題に戻る。IPIのバーバラ・トリオンフィ事務局長は、「台湾ジャーナリストの記者登録の拒否は新型コロナウイルス(covid-19)のパンデミックに関する自由な情報の流れを阻む。台湾のジャーナリストは2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大時にも価値あるニュースを発信し、感染病報道では体験を積んできている。その体験はグローバルな社会にとって非常に価値がある」と述べている。そして、「台湾ジャーナリストの記者登録拒否は台湾国民への情報を阻むことで、WHOは基本的な権利を蹂躙するだけではなく、国連の持続可能な開発目標アジェンダ2030に記述されている健康で豊かな生活促進の実現を拒んでいる」と強調する。

同事務局長の書簡を原文で少し引用する。

In these times of crisis, the public needs news that it can trust. It is critical at this stage that more support is provided to independent media, which are crucial allies in the fight against COVID-19.However, we are extremely concerned that journalists from Taiwan (Republic of China), where the government has done a commendable job in containing COVID-19 infections, have been shut out of the WHO. For the past six years, journalists working for Taiwanese media outlets have been denied accreditation to cover the World Health Assembly.

台湾の国民やメディアは2003年、17年前のSARS感染状況を生々しく記憶している。台湾は2009年、WHAにオブザーバーの資格で参加できるようになったが、習近平国家主席が権力につくと、16年以降、例えば、台湾の大手新聞社「聯合報」はWHAをカバーするために記者を派遣することができなくなった。

聯合報は昨年12月31日、武漢発新型コロナは人から人へと感染するといち早く報道したメディアだ。聯合報グループはSARS取材を体験した多くのジャーナリストを抱えている。SARS報道で受賞した記者もいる。一方、台湾政府は同日、同国の全土の空港に武漢からの飛行機便の乗客を体温検査計でチェックを開始。今年に入り、1月20日、台湾政府は中央感染症指令センター(CECC)を作動させ、疾患管理(台湾CDC)の事務局長を任命している。その翌日(21日)、台湾で最初の新型コロナウイルスの感染者が見つかった。その時には、台湾政府も同国の主要メディア関係者も新型コロナ対策で既に準備が整っていたわけだ。これがその後の台湾政府の新型コロナ対策での成果となって表れてきたのだ。

WHOは感染病取材で経験豊富な台湾ジャーナリストたちの取材認可を拒むだけではなく、新型コロナウイルスが人から人へと感染する恐れがあるという台湾からの警告を無視し、中国共産党政権の隠蔽工作に加担したわけだ(「台湾は親中派WHOの無能さを証明」2020年4月17日参考)。

先進7カ国首脳会談のテレビ会合が16日、開催されたが、議長国の米国側の説明では、加盟国首脳からWHOの改革を求める声が出たという。トランプ氏は15日、新型コロナへの対応でWHOを「中国寄り」と批判し、資金拠出の停止を表明したばかりだ。

繰返すが、WHOが台湾ジャーナリストの記者登録を拒否することで、「言論の自由」を蹂躙するだけではなく、新型コロナ報道の信頼性を揺るがす遠因ともなっているのだ。台湾ジャーナリストの不在はWHOの親中傾向をより一層助長させている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。