6月総会延期問題-「継続会方式」「バーチャル株主総会」はリスクが高い

いろいろと世間をお騒がせしております「6月定時株主総会は完全延期すべきである」シリーズでありますが、1週間ぶりに続編を書かせていただきます。ちなみに、これまで極めて高いアクセス数となりましたのは①コロナ禍のもとで6月の定時株主総会を開催するリスクは極めて大きい(4月10日リリース) 、②もはや上場会社の6月定時総会の延期は「待ったなし」だと考える(4月15日リリース) 、③6月総会延期問題に金融庁協議会声明リリース-それでもやはり6月株主総会は延期すべきである(4月16日リリース) の3つでございます。また、お時間がございましたら前エントリーもお読みいただき、ご異論・ご批判を含め、ご意見を頂戴できましたら幸いです。

(写真AC:編集部)

さて、緊急事態宣言の対象区域も全国に広がり、5月6日で宣言が解除されるのかどうか、政府もそろそろ見極めの時期となります。6日で解除となりましたら、6月総会の準備活動も少しは進みそうです。しかし「自粛期間延長」となれば、やはり剰余金配当議案の基準日変更も含めて潔く6月定時総会の完全延期をすべき・・・といった検討も本気で考えたほうがよろしいのではないかと。

この2週間ほど、大きな上場会社の社長、会長、相談役の皆さんとのリモート会議等で本件についてご提言・力説申し上げたところ、

どの社長、会長さんも曰く「いや~ウチの法務や経理や監査の連中が私にそんな腹立たしいこと言ってくることはないですよ、先生!(笑)」「そうそう、それでなくてもコロナで業績がどうなるかわからんというときに、総会くらい、すんなり終わってもらわんと」「まあ、彼らは自分たちがどうしたら評価されるか、ようわかっているから(笑)」

私「(;^ω^)・・・・・・ソンタクソンタク」

ということで(?)、社長・会長さんらのおっしゃるとおり、やはり3月末の株主に剰余金を配当しなければ株主とのトラブルになってしまう、剰余金配当議案に関する基準日変更などもってのほか、どんなことがあっても6月総会は6月下旬に開催しなければならない、といったお気持ちで準備を進めておられる会社がほとんどではないでしょうか(ただ、6月総会を予定している上場会社の3割程度は、先週末に「完全延期」を決めた東芝のように、会社法459条に基づいて取締役会で剰余金配当を決定できる企業なので、そういったところはスムーズに完全延期も可能かと思います)。

コロナ禍の長期化、そしてこれに伴う会計監査手続の未了ということで、どこの会社も6月総会をどうクリアすべきかと悩んでおられるようですが、よく話題になるのが「株主総会の二段階方式(継続会方式)」と「バーチャル株主総会の活用」です。いずれも金融庁・連絡協議会のリリース等で推奨されていることから、採用を検討しておられる上場会社も多いと聞いております。しかし真剣に悩めば悩むほど、やっぱりこれらの緊急時総会の処方箋には無理があるように考えられます。

5月の取締役会で計算書類等の承認が間に合わない場合を想定して、剰余金配当議案を決議するための6月総会スケジュールを考えてみますと、①6月上旬の招集通知発送(ただし事業報告・計算書類の記載なし)、②6月下旬に定時株主総会開催(配当議案のみ実施OR役員選任議案+配当議案の決議実施)、③7月上旬に継続会の招集通知発送(事業報告・計算書類のみ記載)、④7月下旬 総会・継続会開催(事業報告のみ実施OR役員選任決議)というのがモデルケースかと思われます。

計算書類なしの役員選任議案への決議実施が大問題であることは前も述べたとおりですが、計算書類なしで配当議案を通すことも問題が残ると思います。つまり分配可能利益が存在しない場合や、計算書類に欠損(分配可能額がマイナスになること)を生じる場合には、株主や取締役の支払い超過額の返還義務が認められやすくなる、というリスクが発生します。

たとえば計算書類が取締役会における承認を得ていない状態で配当決議がなされた場合、通常であれば欠損の補てん義務のない取締役について(定時株主総会での剰余金配当の場合は免責されますが)、免責の効果は得られません(会社法465条1項10号イ)。また、承認された計算書類、事業報告がないままに剰余金配当議案が決議され、剰余金が配当された場合に、後日、違法配当や欠損が明らかになれば、株主には配当金の返還義務が発生し(会社法462条1項)、補填した会社・役員から求償権を行使される可能性も出てきます(会社法463条1項)。

まあ、分配可能額が問題になるような事態はない、という上場会社であれば大きなリスクではないかもしれませんが、4年ほど前のHOYAのように「資本コスト」を意識した資本政策を行っている場合には、ついうっかり自社株の買い過ぎを失念していた、ということも考えられます。また、数年後に会計不正事件が発覚し、5年前まで遡って計算書類の訂正がなされるということになれば、決して安心してはいられないと思います。

そしてなんといっても、株主や役員の違法配当リスク・欠損リスクが顕在化するのは、ずいぶんと時間が経過した後、ということが大きい。なぜなら、配当金支払い前の監査機能(不正の未然防止機能)はほとんど期待できないからであります。6月総会で役員選任や剰余金配当の決議が通ってしまった状況で、もし会計監査人や監査役が会計処理や財務報告内部統制に疑惑を抱いたとき、「これっておかしいのでは?」と声を上げることは至難の業です。

たとえば、固定資産の減損処理の柔軟化等、有事の会計基準の処理方針が発出されていることをよいことに、ひょっとしたら「なんちゃってコロナ対応」に近い会計処理が、かなり明白に疑われる上場会社もあるかもしれません。コロナ禍で業績が見通せない中で、いい加減な将来見積もりに終始する社長さんがいらっしゃるかもしれません。しかし無限定適正意見が得られない、監査役のひとりでも計算書類に異議を述べた、となりますと、計算書類の承認を改めて総会議案として上程しなければなりません。役員選任が先行しているケースでは「詐欺ではないか」と株主から糾弾されるおそれもあります。

そういったことも考えますと、監査法人や監査役が「おかしい」と声を上げる(ちゃぶ台をひっくり返す)ためには相当の勇気が必要です。二段階方式で事業報告・計算書類の提出が後回しとなった場合は、よほど覚悟をもった監査法人、監査役でないかぎりは監査は機能しないと考えてよいと思います。例年どおりに決算期末の利益を受けとるのと引き換えに、株主の皆様方は、例年にはない「将来の違法配当リスク」「会計不正リスク」を背負うわけです。このあたりの判断は、もはや現場ではどうにもならず、経営者自身が考えるべきではないかと。

なお、6月総会をコロナ禍でもなんとか切り抜けるための総会戦略として「バーチャル株主総会」の導入が検討されています。しかし出席型にせよ、参加型にせよ、活用されるにはもう少し時間を要します。今のところ、バーチャル株主総会が活用されることで儲けにつながるのでは?と思われる企業さん(ソフト会社や通信関連事業者)だけが開催(もしくは開催を予定)しているのが現状です。しかも①別途コストがかかる(300万円~400万円)、②株主の通信環境の整備が進んでいない、③ID・パスワードの発行手続が必要で煩雑、④運営ノウハウが乏しく、緊急事態への対応が不安(決議取消リスク)、⑤開催状況から、参加株主数も数名から十数名ほどであり、効果は限定的といったデメリットの解消に決め手がありません。証券代行さんの話だと、問い合わせは多いが、導入を決めた会社はほとんどないとのことです。ということで、頼みの「バーチャル株主総会」も、やはり継続会に導入するには時期尚早ということのようです。

私がここまで「6月総会は完全延期すべきである」と繰り返し主張する底辺には、会計監査や監査役監査への思いが強すぎて、ポジショントークのきらいがあり、バイアスが働いているのかもしれません。しかし、コロナ禍での従業員の安全、株主の安全、そして代表取締役だけは絶対に感染させてはならない、といった関係者の安全を第一に考え、基準日をずらすことの訴訟リスクも低減される状況ならば完全延期すべき、とおっしゃる法律専門家もいらっしゃいます(ビジネス法務 緊急特集「新型コロナウイルス感染拡大に伴う株主総会の準備と検討」をウェブ公開版を参照) 。私も(監査の重要性に加えて)この意見に強く与したい。

私の当初からの主張のとおり、「時間を短縮して開催」「参加株主を制限」「消毒液を用意」といったレベルで関係者の感染リスクを低減できるといった風潮はもはや世間にはありません。世間から見れば、そのような総会対策は「自分たちはここまでやったんだから、感染が発生しても責任を問われない」といった責任逃れの言い訳にしか聞こえないので注意が必要です。誰が見ても「安全対策」というのであれば総会延期しかありえないでしょう。「人との接触、8割減の新提案」が出されるこの時期に、ふだん株主総会など全く関心のない人から見れば・・・想像しただけでもかなりヤバいことになりそうです。

決算発表の時期も延期が決定される頃なので、総会延期問題も、ようやく経営者がそのむずかしさをご理解いただく時期が到来したのではないでしょうか。

(4月23日午前10時 追記)

今朝(4月23日)の日経朝刊に、EY新日本有限責任監査法人の理事長へのインタビュー記事「監査遅れ 書類確認が負担」が掲載されていました。新型コロナの影響で、3月期決算の集計や監査が遅れている実情が示されています。このまま急いで6月総会を断行することは日本の資本市場の信頼を失ってしまう、延期もしくは二段階方式開催に期待する、とのこと。どうしても「紙ベース」の監査は避けられず、そこに在宅勤務制度の壁があると思いました。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。