もはや上場会社の6月定時総会の延期は「待ったなし」だと考える

山口 利昭

14日午後2時のNHKニュースにおいて、(主に)上場会社の有価証券報告書の提出期限の一律延長の方針が報じられました。以下、NHKWEBニュースの要旨です。

新型コロナウイルスの感染拡大で企業の3月期決算の集計に遅れが出るおそれがあることから、麻生副総理兼金融担当大臣は、6月末までに提出を義務づけている「有価証券報告書」(有報)の提出を、一律に9月末まで延長することを明らかにした。・・・3月期決算の企業の場合は、6月末までに有報を提出する必要がある。麻生副総理兼金融担当大臣は、14日の閣議のあとの記者会見で、「緊急事態宣言の発令に伴い、3月期決算の企業の多くで決算や監査業務の作業が極めて困難になると思われる」と述べた。そのうえで、「企業や監査法人に十分な時間を確保しなければいけない。有価証券報告書の提出期限を一律、9月末まで延長できるようにする」と述べ、今後、内閣府令を改正して、有価証券報告書の提出期限を一律に9月末まで延長することを明らかにしました。(下線は私が引いたものです)

そして4月14日付けにて、「金融庁から新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」と題するリリースが公表されました。

通常、会計監査人(監査法人)は、金商法監査も会社法監査も同一チームが担当するわけですから、財務諸表監査や内部統制監査と同様、計算関係書類の監査についても期限を延期しなければ有報提出を延期した意味がありません(計算書類に適正意見を述べた後で、財務諸表に別の意見を付すことは至難の業であり、結果として会計不正を見逃すリスクが高い)。4月10日のこちらのエントリー(コロナ禍のもとで6月定時株主総会を開催するリスクはきわめて大きい)でも述べましたが、たとえバーチャル株主総会であったとしても、6月総会を断行してしまうのは、会計監査・監査役監査をあまりにも軽視するものであります。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

物理的な危険性についても問題があります。上場会社にとって、定時株主総会がきわめて重要な意思決定の機会であることは間違いありません。しかし、出勤8割(最低7割)削減、原則在宅勤務の要請を遵守する上場会社にとって、経理・総務・法務部門を中心に(コロナ禍のもとで)出社を余儀なくされ、有報についてはしっかりと監査する余裕が与えられた会計監査人が、計算書類の監査のために6月総会を強行したい会社の方針に従って出社を強要される、というのはあまりにも酷であり、社会の常識に反する行動です。

また、先日のエントリーでtyさんがコメントされているとおり、6月総会における議決権行使の準備のために、機関投資家をはじめ多くの社員、パート社員が総出で準備をします。つまりバーチャル株主総会であったとしても、その総会を開催するためには多くの人たちがリアルで密度の高い仕事をこなさねばならないのです。そこに思いを致せば、会計監査人による十分な監査体制の確保だけでなく、社員その他、総会開催に関わる人たちの生命・身体の安全のほうを優先すべきではないでしょうか。直前に延期してしまうのは関係者に多大な迷惑をかけますので、もし迷っておられるのであれば、すみやかに延期を決定すべきと考えます。

ところで、ではどうすれば6月の定時株主総会を延期できるのでしょうか。昨日(4月13日)に開催された金融庁・第2回「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」では、(こちらの税務研究会さんのニュースによると)「株主総会については,仮に決算が締まらない場合にどのような開催延期手段があるのかを確認した。たとえば,『継続』として決算のみ別日に総会を開いたり,臨時株主総会で対応する,議決権行使基準日を動かすなどのやり方が議論された」とのこと。やはり総会延期について、有識者の方々が知恵を絞っておられる様子が窺がわれます。もちろん、前回のエントリーでも述べたように、配当基準日を新たに決定し直す方法が一番素直ではないかと思います

しかし、「どうしても6月の定時株主総会を敢行したい」とする上場会社側の事情をくみ取らなければ、いくら「総会を延期することができますよ」と言っても延期に踏み切る上場会社は稀少ではないかと。結局のところ、決算日を基準日として、そこから3カ月以内に剰余金配当を決議しなければならない、とする法令と実務慣行を崩せない(決算日株主の利益と基準日株主を確定する会社の事務手続きの煩雑さ)ところにあると考えます。東日本大震災(2011年)の際に公表された経産省ガイドラインをみても、定款に記載された基準日の解釈は柔軟に考えられますが、会社法124条2項の「基準日から3カ月以内に議決権や配当請求の権利は行使されなければならない」という条文には例外が認められていません。また、取締役や監査役の退任時期がズレるとなると、新経営計画による事業がスタートできない、といったことも、延期に消極的になる理由のひとつかもしれません。

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ここからは、法律家としてはあまりにも乱暴な議論であることは承知しつつ、パンデミック状況下における超法規的措置の可能性についてではありますが、3月末日時点での剰余金配当に関する基準日をそのままにして、7月~9月の定時株主総会を迎える(6月総会を延期する)ことに違法性阻却事由がある(3月末の剰余金配当に関する基準日の効力は消滅しない)ものと処理することの可能性について検討したいと思います。私が可能と考える理由は以下のとおりです。

まず、基準日の定めが「3カ月以内に基準日権利を行使しなければならない」とされたのは昭和49年の商法改正です。それまでは2カ月以内に行使しなければならない、とされていましたが、大会社の監査に会計監査人の監査が要求され、監査期間が伸長されたことによって3カ月に伸びました(「会社法 第三版」鈴木・竹内140頁、同356頁参照)。厳密にいうと、当時は(権利を行使できる株主を確定するための)基準日制度と並び、株主名簿の閉鎖制度があり、名簿の閉鎖によって株主の権利をあまり長く制限することは妥当ではない、ということから、株主名簿の閉鎖期間は会計監査手続に必要とされる「3カ月」とされ、基準日制度もこれに合わせたようです。これと同時に、昭和49年商法改正では決算日から3カ月以内に定時株主総会を開催する旨の条文ができました(「新版注釈会社法『4』」32頁参照)。

しかし、現在の会社法には名簿閉鎖制度は存在せず、また決算日から3カ月以内に総会を開催せよとする条文もなくなったわけですから、基準日制度についても昭和49年の商法改正の趣旨を尊重すべきです。つまり、会計監査のために株主名簿の閉鎖期間が3カ月とされたわけですから、会計監査手続が全国一律に支障が生じるような特段の事情があるのであれば、基準日から3カ月以内に行使せずとも基準日の効力は失わなわれないと解釈すべきと考えます。

つぎに、権利行使期間を経過した場合の基準日の効力の問題ですが、行使期限の徒過によって基準日は無効となるという説と、有効とみる説に分かれているようです。ちなみに、上記鈴木・竹内説は「配当金の支払いを受けるのは決算期現在の株主であり、その後に株主になった者は理論上は損害賠償請求できることになるが、本来、配当金の支払いを受けるのは決算期現在の株主であるから、その後に株主になった者には損害を生じていないことになる、法律関係の簡易さからいって有効とみるのが妥当」としています(前掲鈴木・竹内「会社法第三版」140頁参照 ただし前田雅弘先生は、決算日以降に株式を譲り受けた株主が、適法に基準日が設定された場合の権利行使の機会を奪われるといった不利益は無視できない、として反対意見 「会社法コンメンタール3」282頁参照)。このたびは、3月決算日時点では「決算日の株主が配当をもらえる」といった期待をもっていたと思いますので、私は基準日は有効と考えてもよいのではないかと考えます。

ちなみに基準日の3カ月の制限を徒過して、株主に権利行使をさせてことについて、とくに過料による処罰はありません。平時であれば、任務違背が問題となる可能性もありますが、有事対応となれば会社に損害を与える目的は認められないと考えます。

最後に、「(定時株主総会の)継続会」で議決権を行使するにあたっては、あまり反対意見もなく基準日から3カ月を超えていても基準日の効力は否定されていません。おそらく株主総会さえ3カ月以内に開催されていれば、総会の効力がその後の延会にまで継続していることによるものかと思います。しかし「権利行使しようと思っても行使できなかった」という事情は、パンデミック下の事情でそもそも6月開催ができなかった場合と同じと評価できます。ちなみに「3カ月以内に権利を行使する」という意味は、剰余金配当のケースでは、基準日から3カ月以内に配当の交付を受ける、という意味ではなく、剰余金配当請求権を具体化させる決議に参加する、という意味です(上記「会社法コンメンタール3」283頁参照)。

なお、上記のような超法規的措置は、今回のパンデミックのような特殊な事情を考慮したものです。そもそも(基準日と権利行使日はできるだけ近接させるべき、との趣旨から)配当基準日を株主総会の直後とすべき、という意見も有力ですし、また、会社法459条に基づいて、剰余金の配当を取締役会で決定できるようにすべき(定款変更の必要あり)、との提言もありますので、それらは、投資家の皆様の意見も反映させながら、平時の定時株主総会の在り方として、今後検討されるべきものと考えております。

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これまで長々と書き綴ってきましたが、毎度申し上げる通り、上記は私個人の見解にすぎません。総会指導に長けた企業法務の専門家の皆様とは、おおむね意見が異なるでしょう。とりあえずバーチャル株主総会によって6月総会を開催して役員議案を成立させ、計算書類の承認は継続会で対応する、という手法もあるかもしれません(ただ、一律にできるかというと困難なような気がします。中小の上場会社も含めて、一律に対応できるような手法が必要かと思います)。しかし、今回の株主総会の開催の是非判断は、法理論だけで処理するにはあまりにもリスクが高い。

発注者の手前、建設を受注した大手ゼネコンでは「工事を中止してはどうか」とはなかなか言い出せません。そのような状況で、工事現場で勤務しておられた清水建設の3名の社員が新型コロナウイルスに感染し、たいへん不幸なことになりました(読売新聞関西版4月14日朝刊10面記事より)。西松建設では、どこよりも早く工事中止の宣言を出したことは日経新聞でも報じられています。おそらくいろいろな葛藤があったと推測されます。定時株主総会も、社内外の関係者にとってはとても負荷のかかるイベントです。誰かが「延期しよう」と言い出さなければ、おそらく敢行されるのでしょう。しかし、大手ゼネコンさんと同じような悲しい事件を起こすことだけは絶対に避けなければならない。

私が役員を務める会社も含め、総会を延期すべきかそのまま開催すべきか、という点はバーチャル株主総会(オンライン総会)の選択肢を含め、経営判断です(私も経営判断に従います)。14日の菅官房長官の記者会見でも、株主総会はオンラインでもできる、と表明されていたので、今後も総会の延期に及ぶ上場会社は出てこないかもしれません。ただ、東日本大震災の発生した2011年、6月総会を延期した上場会社は2社に過ぎなかったかもしれませんが、このたびのパンデミックはおそらく全ての上場会社の決算に深刻に関わるものであり、東日本大震災の際の状況とは異なります。これにどう対応すべきなのか、ぜひとも担当者任せにするのではなく、経営者ご自身の判断で(取締役会で協議したうえで)決定していただきたいと思います。

拙い文章を、最後までお読みいただき、ありがとうございました。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年4月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。