しかし、この緊急事態だけでなく、2012年に政権を再び握ってからの安倍晋三、自民党は俗耳に馴染むスローガン、ポエムのような言葉を乱発してきた。私は問いかけたい。この「オンライン帰省」なる言葉にワクワクする人がいるだろうか。この猖獗した時代に、私は警鐘を乱打する。
これだけアジテーションをしておいて、なんだが、私も「オンライン帰省」は「楽しい人にとっては、楽しい」ものだとは思う。村上春樹風にいうと、OK、認めようということになる。
実家にいる家族との関係が円満で、地元の友達とも連絡をとりあっていて、ITツールが充実している人である。親子三代で反自民であり、娘もすくすくとその方向に向かっている我が家であるが、まさに「オンライン帰省」充である。今年で75歳になる母親は27インチのiMac(メモリ20GBだぞ)、iPad Pro、iPhoneを見事に使いこなしており、これらのツールをフル活用して息子や孫とやりとりしている。月に数回は食材を送り届けている。その食材の感想を写真つきでおくってくれる。
安倍晋三に言われなくても、とっくにオンライン帰省を日常的にしている。いつも母は私のTwitterなどをチェックし「AbemaTV(注:先日、ひどいことをされた)のことを叩くのはもうやめなさい。大人げないよ、かっこ悪いよ」「青木理さんのような、穏やかで、でも骨太の主張をする人になりなさい」「くだらないツイートをしていないで、研究しなさい」という具体的なアドバイスを頂いたところだ。有り難い。
ただ、私たち親子のように24時間365日死ぬまでオンライン帰省をしている、その道のプロがいる一方、これもまた格差を可視化する取り組みである。「オンライン帰省」だってお金がかかる。ITツールの充実度にもよる。さらにはつながりの格差が可視化されるのだ。「両親」との関係が良好で、友達がいて、一通りのITツールを使いこなしている、地元が好きなどは「幸せな日本人像」の押し付けではないか。現実はこの国は地上の楽園とは程遠いのにも関わらずである。
この「オンライン帰省」だが、熱心に取り組まれても困る。「『北の国から』ファンのお前のために、富良野の光景を見せてあげるよ」「懐かしい豊平峡ダムを見せてあげるよ」などと、外出を誘発してFaceTimeで実況中継してしまったらどうするのか。
なお、星野源の同時投稿(コラボって言うな、稀代の才能である彼を雑に扱ったあの投稿を)と同様に、今後、予想される悪夢は、安倍晋三の「オンライン帰省」である。「私もやっています」アピールが彼や、その応援団から展開されたらどうしようとザワザワしている。狂信的な『島耕作シリーズ』ファンとして、作品にゆかりのある場所とつないでくれたのなら(著者の弘兼憲史さんは山口県出身で、島耕作もそういう設定になっている)、日和るかもしれないが。
国民の気持ちなど歯牙にもかけぬ傲慢な言動を繰り返す安倍晋三にはわかるまい。「コロナ対策」の美名のもとで、家でゆっくりした風の動画を、星野源の動画と一緒に投稿する(コラボではないからな)彼には国民に対する配慮、想像力がかけている。社会的現実から浮かびあがりきっている彼は、我が国=遠い国と思っているのではないだろうか。医療崩壊寸前の限界状況も、雇用不安に直面し明日の糧食について困り果てる労働者も、中小・零細企業の苦しみも理解できないのではないか。
「こういうときにはリーダーの批判をするな」という自称リーダーたちがSNS上に跋扈する。私の周りにもいなくはないが、たいていは会社員時代に「残念だな」と思っていた人たちだ。部下や、下手をすると同期たちにも信頼されないから、「お前ら、従え」という傲慢な態度になる。「リーダーの批判をするな」という言葉自体が批判を誘発することを、あなた自身がよくわかっているじゃないか、こういうことを言う人は。
私達は政治家や経営者、官僚たちに殺されそうになっている。こんな時期だからこそ、だめなことにはだめだと、批判して批判して批判しなくてはならないのである。「オンライン帰省」の欺瞞性、瞞着性を白日のもとにさらし、労働者への犠牲強要の大攻撃をはねのけよう。
くれぐれも言っておくが「(よほどの事情がある場合はのぞいて)家にいろ」というのは私も賛成だからな。「オンライン帰省するな、リアル帰省しろ」と言っているわけではないからな。
編集部より:この記事は千葉商科大学准教授、常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2020年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。