さきほど、昨日のエントリーに対して、unknown1さんから興味深いコメントをいただきました。引用いたしますと…
ISSが、計算書類や事業報告なしでの配当・役員選任・報酬議案には否定的な対応をせざるを得ない、とコメントしたようです。総会延期の選択があるにも関わらず継続会を前提とした総会開催は株主の視点には立っていないとの判断とのこと。 (引用終わり)
私自身、この情報の真偽は確認しておりません(どなたか英語に堪能な方がいらっしゃいましたら、ご教示願いたいところです)。しかし本当だとすると、6月総会の完全延期を後押しする大きな力になることは間違いないと思います。
(さて、ここからが本題ですが)昨日(4月23日)開催された積水ハウスの定時株主総会は、いろいろと話題が豊富でしたが、とりあえず会社側提出議案がすべて可決成立(株主側提出議案が否決)ということで決着がつきましたね。本件につきましては、申し上げたいことはヤマほどあるのですが、ご賢察のとおり(?)諸事情ございまして私個人はコメントを控えさせていただきます(笑)。
ただ、昨日、大阪地裁第4民事部において、積水ハウスの定時株主総会開催禁止の仮処分命令申立て事件の決定が下され、株主側(債権者)の申立が却下されておりました。この却下決定の全文が、株主側特設HPにて開示されておりましたので、講学上の興味から一読いたしました。
決定理由(被保全権利なし)、結論とも至極妥当なものであり、特段驚くべきこともないのですが、債権者側(株主側)が「このコロナ禍のなかで総会を断行すべく、従業員を前日からフル稼働させている。役員個人の利益のためだけに感染のリスクを従業員に負担させている、こんな株主総会は暴挙だ!」と主張したことに裁判所が判断を述べている箇所は興味深い。(以下、決定理由の要旨です)
…仮に、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情変更と一般的に評価されているといえるのであれば、債務者(代表取締役)に対し、取締役会を別途招集させるなどして、本件定時株主総会招集決議に従った業務執行をすべき義務を解除させ、本件定時総会に関し、流会、延会や継続会を含めた時宜に応じた柔軟な業務を執行可能とする授権を得ることに向けて尽力すべき義務について検討する余地がある。
しかし、緊急事態宣言が迫る4月2日に経産省と法務省から公表された「株主総会運営に係るQ&A」のみならず、緊急事態宣言が出された後である4月14日改訂版の内容から判断しても、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情であると一般的に評価されているということはできない。(以上、引用おわり…なお下線およびカッコ内記述は管理人の注書きです)
緊急事態において定時株主総会を断行することが、代表取締役の善管注意義務違反と評価される可能性は認めつつも、経産省&法務省が「継続会」や「安全の徹底による開催」を前提に指針を示している以上は、(Q&Aは緊急事態宣言下での定時株主総会の開催を想定しているのであるから)そのまま断行することに違法性は認められないとのこと。さすが、行政による指針表明の存在は大きいですね。
しかし、これは現状を前提としたものであり、事態は流動的です。緊急事態宣言が解除されず、さらに人との接触8割削減の要請が厳しくなり、他社の中にも総会延期決定が増えてくるようになれば、6月総会を禁止することを決定しなければ、その代表取締役の執行行為は違法性を帯びる場合がある、ということになりそうです。
なお、私個人としては、取締役の善管注意義務といった法的責任論で「6月総会を延期すべき」と述べてきたわけではございません。取締役個人に及ぶ些細な損害額の法的リスクではなく、法人自身の競争上のハンデを背負うことになる損害に関する法的リスクを問題にしております。何度も申し上げるとおり、流会とするか続行するかは「経営判断」であり、ただ、その経営判断が多大な法的リスクを含んだものである、ということから申し上げているところでございます(念のため)。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。