BCG接種の高齢者・成人への免疫効果を示した3つの臨床試験 --- サトウ・ジュン

アゴラ

最初の記事に新型コロナ流行前の関連する臨床試験について追記しましたが、ほとんどの人は読んでいないと思います。なのでここで紹介させてください。

こめらっくま/写真AC:編集部

BCGワクチン接種による子どもの訓練免疫に関する論文はたくさんありますが、私は成人、特に重症化しやすい高齢者を対象とした臨床試験を探していました。そしてこれまでに3つの論文を見つけました。

1.2003年日本での寝たきり高齢者への臨床試験

要約:BCG接種が肺炎の発症率を有意に抑制。

インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンおよびBCGワクチン投与による高齢者肺炎の予防

【日本呼吸器学会速報】寝たきり高齢者へのBCGワクチンで肺炎発症の予防に効果|日経メディカル(日本語の少し詳しい記事)

BCG株に関する情報は得られませんでしたが、この試験は日本で行われたものなのでBCG 東京株で行われたと思います。

以下は日経メディカルの記事から。

大類氏らは、高齢者介護施設に入所中でADLが低下した高齢者155人を対象とし、まずツベルクリン反応を行い、その結果に基づいて、陽性者(PT群)と陰性群にわけた。さらに、陰性群を無作為にBCG接種群および非接種群(NT群)に振り分けた。BCG接種群については、接種4週間後に再びツベルクリン反応を行い、陽転者を同定(CT群)、その後2年間に渡りそれぞれの群における肺炎およびその合併症の有無、入院率、生命予後などを追跡した。

その結果、新たな肺炎の発生は、NT群では44例中19例(42%)に確認された。一方、CT群では41例中6例(15%)、PT群では67例中9例(13%)に確認されただけで、特にCT群ではNT群に比べて、肺炎の発症率が有意に抑制された(p=0.03)。

これらの結果から研究グループは、「BCG接種は寝たきり高齢者において、肺炎予防効果があることが明らかにされた」と結論付けている。

2.2011年インドネシアでの60~75歳の高齢者への比較臨床試験

要約:月に1回・3か月間BCGワクチンを接種。BCG群ではプラセボ群に比べて急性上気道感染症(AURTI)の有病率が有意に低下。BCG群ではプラセボ群と比較して、Th1細胞の応答としてのインターフェロンγ産生レベルと制御性T細胞の応答としてのインターロイキン10産生レベルが有意に上昇。

BCGワクチン接種による高齢者の急性上気道感染症の予防効果

この試験ではBCG パスツール株が使用されていました。BCG パスツール株はおそらく新型コロナに対しBCG デンマーク/ブラジル株よりも弱く、おそらく一番弱いと思われる株です。

3.2015年オランダでの20代若者への比較臨床試験

要約:BCG接種14日後にインフルエンザワクチンを注入。新型インフルエンザA(H1N1)への抗体産生・抗体陽転率がプラセボ群に対して有意に向上。無関係な病原体に対するサイトカイン反応の調節も発生。使用株はBCG デンマーク株。

BCGワクチン接種は健康な被験者におけるインフルエンザワクチン接種の免疫原性を高める:無作為化プラセボ対照パイロット試験

H3N2ワクチン(ワクチン株A/テキサス/50/2012)およびB型ワクチン(ワクチン株B/マサチュセッツ/2/2012)に対する血球凝集抑制抗体(HI抗体)反応については、グループ間で有意差は認められませんでした。

このことから、BCG デンマーク株による訓練免疫は一部のインフルエンザにのみ効果を発揮するのであって、全種類に有効ではないことが示唆されます。

2009年新型インフルエンザ(H1N1)の世界的流行でも、日本の死亡率は世界最低でした。実は私は当時日本に住んでいましたが、世界的流行が起きていたことを知りませんでした。

以下は厚生労働省によるその結果の総括ですが、日本人は日本で死亡者が少なかった理由を理解していなかったのです。

厚労省サイトより

驚くべきことにこの論文の序文には、新型コロナとBCGが次のように予見されていました。

  • インフルの変種が出てきたら1918年のスペイン風邪の再来がありえる
  • 新種のインフルへの特異的ワクチンは、開発するのも時間がかかるし効きにくい
  • その種のパンデミックに対するワクチンとしては、BCGでの非特異的・訓練免疫強化を採用すべき

編集部より:この記事はサトウ・ジュン氏のブログ「JSatoNotes」2020年4月27日の記事より和訳して転載させていただきました。快く転載を許可してくださったサトウ氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJSatoNotesをご覧ください。