厚生労働省からPCR検査体制の増強として、歯科医師による検体採取を認める方針が示された。
参考:新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた PCR検査に係る人材について(厚生労働省 4月26日)
これを受けて日本歯科医師会も翌日見解を公表し、協力する意向を明らかにした。
参考:日歯、歯科医師の検体採取について見解 医療崩壊防止に向けPCR検査体制に協力(日本歯科医師会 4月27日)
現在実施体制などを構築中だが、既にPCR検査を渇望する方々から歯科医院に対し問い合わせが始まっていると聞く。世間のPCR検査のニーズを鑑みると、このままでは応召義務をかさに着て、ノンアポで歯科医院に新型コロナウイルス感染の疑いの患者が来院する可能性もありうるだろう。
結論から言うと、歯科医師はPCR検査センターでの検体採取が認められたのであり、歯科医院ではPCR検査はできない。感染拡大防止の一助とするために本通達の意図についてまとめたいと思う。
歯科医師がPCR検査を行うのはPCR検査センターだけ
上記2資料に明記してあるが、歯科医師によるPCR検査はPCR検査センターでのみ、検体採取が実施可能だ。
しかし病院勤務が多い医師と違い、歯科医師は多くが小規模のクリニックを開業している。PCR検査センターに歯科医師が移動すると、クリニックは休診となる。
一方で緊急事態宣言の中で歯科クリニックは地域医療を支えるために、十分感染防御に配慮した上で業務継続することが求められている。これは病院など高次医療機関の負担を軽減するために重要な、一次医療機関の役割である。
これら歯科クリニックの感染防御対策は、非新型コロナウイルス感染者に対するものである。新型コロナウイルスに対応できるN95マスクなどは、各歯科医院から必要としている病院などに供出するなどの協力がなされている。
日本歯科医師会が提供する待合室掲示用資料などを鑑みても、歯科医院の感染防御は受診前に新型コロナウイルスの疑いが強い患者をスクリーニングし、リスクが低いと考えられる患者に対して通常よりも一段階引き上げた配慮で診療をする体制が一貫して構築されてきた。この状況で新型コロナウイルス感染の疑いが強い患者が、万が一PCR検査実施などを求めて歯科クリニックに来院しても、対応できる装備がない。
話はそれるが、軽度の体調不良で自宅待機している者への対応は、歯科遠隔診療にて検討されると思う。こちらは実施体制が未だ整っていないが、既存制度でもかかりつけ歯科医ならば電話による再診は実施可能だ。理想的には薬剤を郵送することだが、いつ頃保険者が対応可能となるかは不明である。日頃からかかりつけ歯科医を持つことはこのような有事においても重要であると付言する。
参考:新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の 時限的・特例的な取扱いについて(厚生労働省 令和2年4月10日)
PCR検査に参加する歯科医師はいるか
ではPCR検査に参加する歯科医師はいるのだろうか。現時点で「声がかかっている」と聞くのは、病院勤務の歯科医師だ。
特に医科病院内の歯科室に勤務する歯科医師(口腔外科医)などは、日頃から医科との結びつきが強く、まず最初に協力が求められるものと思う。歯科大附属病院の勤務医などもそれに続き対応すると考えられる。
歯科クリニックに関しては歯科医師会が取りまとめとなり、おそらく手上げ方式で参加者を募ることになるのではないだろうか。
歯科医師のPCR検査参加のインセンティブをどうつけるか
しかし歯科医師会に参加するのは、基本的に歯科クリニック院長である。道義的にはPCR検査拡充に協力したいと思っていても、万が一の場合には歯科医院は営業停止にせざるをえず、経営的観点から二の足を踏むものである。さらに昨今は、もともと歯科医師会に参加していない歯科クリニックも増えている。
個人的には人材の再配置の観点から、歯科医師会のみを入り口にするのではなく、病院とも歯科医師ともつながっていない、若手の勤務歯科医に対し協力を求めるのはどうかと考えている。
若手勤務歯科医は歩合制で働いている者も多く、自粛ムードの中で収入減は大きいだろう。若いゆえに貯金なども限られている中で、生活が苦しくなってきている可能性もある。歯科医師のPCR検査センターでの業務が、無償ボランティアということもないと思う。
また行政にとっては歯科医師の報酬が医師以上になるということもないはずだ。歯科医院経営者の観点からも、勤務医の生活がそれで支えられるならば有難いし、万が一の場合でも歯科クリニックが営業継続不可能になることもない。様々な観点から合理的ではないだろうか。