ハンガリーの中国傾斜は危険水域に

中国側が建設資金の85%を融資し、ハンガリーが残りの15%を出して同国首都ブタペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ高速鉄道を建設することで合意した。ロイター通信が24日、ハンガリーのバルガ財務相の発言として報じた。

▲ハンガリーのオルバン首相(右)、新型コロナ対策でセルビアのヴチッチ大統領と会見(2020年3月22日、ブタペストで、オルバン首相公式サイドから)

両国間の融資条件が明らかにされていないので正確な点は不明だ。固定金利というが、総額21億ドルの鉄道建設プランの契約内容は両国間で機密扱いとなっている。ロイター通信によると、ハンガリーでは今月、鉄道建設事業を巡る契約に含まれるすべてのデータを10年間機密扱いとする法案が策定されている。

バルガ財務相は「わが国に有利な内容だ」と語っている。総距離370キロに及ぶ高速鉄道建設計画は中国、ハンガリー、セルビアの3カ国が2014年に覚書を交わしていたが、これまで計画の実行が遅れていた。

中国は、習近平国家主席が提唱した新マルコポーロ「一帯一路」構想に基づき、アジアやアフリカで積極的にインフラ整備事業を進めているが、中国から巨額の融資を受けたアフリカ諸国が中国側の政治的影響の拡大に困惑する一方、一部では債務返済が難しくなった国が出ている。国際通貨基金(IMF)は国の経済規模を超えた融資により、デフォルトになる危険が高まると警鐘を鳴らしているほどだ。

ハンガリーとセルビア間の鉄道建設案を聞いた時、ケニアと中国間で締結された標準軌鉄道(SGR)のことを思い出した。2017年5月に開通したモンバサ~ナイロビ間358キロの建設のため、ケニア政府は約36億ドルを中国から借りた。この時もケニアは契約内容の開示を禁止された。中国側には、契約内容、融資条件などが公表されればマズい、という判断が働いているわけだ。

中国の「債務トラップ外交」を警戒して、中国からの提案を拒否している国も過去出てきた。

①シエラレオネ政府は2018年10月10日、中国から4億ドルの融資を受けて空港を建設する予定だったが、空港プロジェクトを破棄している。現地紙シエラレオネ・テレグラフによると、空港建設の資金はすべて中国が融資し、中国企業が建設し、空港管理権限も中国側が担うことになっていた。まさに“中国の、中国人による、中国のための”空港建設といえるわけだ。中国の同空港建設が中国人民軍のアフリカの軍事拠点と受け取られても不思議ではない。

②2018年8月、マレーシアのマハティール・モハマド首相は220億ドル相当の中国支援のインフラ計画を中止させている。

欧州連合(EU)加盟国でもあるハンガリーや加盟候補国セルビアが中国の戦略に乗せられて同じような条件で契約を締結していることに驚きと懸念すら感じる。また、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)が欧州全土に拡大し、多数の感染者、死者が出ている時だけに、このタイミングにも首を傾げたくなる。

欧州諸国の中で親中派のボリス・ジョンソン英首相は自身が新型コロナに感染し、重症化したこともあって、ここにきて中国との関係に懐疑的になっている。ちなみに、昨年1~8月にかけて、中国企業に買収されたイギリス企業は15社、買収価格は83億ドルに上る。

また、中国から人道的支援という名目で欧州諸国に送られてきたマスクの多くが不良品で、返品を余儀なくされている。新型コロナの影響もあって、欧州での「中国株」は大きく落ちている時だ(「なぜ中国製マスクに不良品が多いか」2020年4月15日参考)。

新型コロナ対策では、他の欧州諸国とは異なり、封鎖政策は取らず、厳格な対策には距離を置いてきたスウェーデンでも、中国との関係見直しが見られる。例えば、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関「孔子学院」の閉鎖の動きと共に、中国の都市との姉妹関係を破棄する地方都市が出てきているのだ(海外中国メディア「大紀元」)。

ハンガリーのオルバン政権は新型肺炎の感染を受け、非常事態宣言を発表したが、今後、議会での協議をせずに新しい法令を発令できる法案を採択したばかりだ。

オルバン首相はハンガリー国民議会で過半数を占める与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を土台に、野党を骨抜きにし、批判的なメディアを撲滅し、司法、言論を支配下に置いてきた。ブリュッセル(EU本部)からの批判をものともせず、難民対策ではハンガリー・ファーストを実行。その一方、習近平中国国家主席が提唱した「一帯一路」には積極的に参加し、ロシアにも急接近、EUの対ロシア制裁の解除を要求するなど、独自の外交路線を走ってきた(「『新型コロナ』は独裁者を生み出す?」2020年3月25日参考)。

新型コロナの感染で欧州の各地でロックダウンなどの封鎖措置を実施せざるを得ない中、欧州の中国観にも変化が生じてきた。歓迎ではなく警戒心が高まってきたのだ。その中で、EU加盟国のハンガリーのオルバン政権は中国共産党政権にとって砂漠のオアシスのような存在だろう。EUだけではなく、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあるハンガリーの中国傾斜は危険水域に入ってきた。

ちなみに、ハンガリーのバルガ財務相は昨年4月、「中国の通信技術大手、華為技術「(ファーウェイ)はハンガリーのITの戦略的パートナーだ」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。