岡田晴恵氏「感染者数よりも陽性率」を検証する

藤原 かずえ

「感染者数はダメ!」「陽性率が重要」

新型コロナウィルスの新規感染者数が減少傾向を示す中、「コロナの女王」こと岡田晴恵氏は、なんと「感染者数が減少していると見てはいけない」と言い出し、「死亡者数と相関性が高い陽性率に注目すべき」と主張し始めました。

テレビ朝日系「モーニングショー」(4/28)より

TBSテレビ『サンデーモーニング』2020/04/26
東京都の陽性率は今39.4%。圧倒的に高い。検査数が少ないので「東京都は先週100人だった。落ち込んできている」というふうに見るのはいけない。

テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』2020/04/27
感染者数というのは分母が小さければいくらでも小さくなる。分母が小さいからダメでしょ。陽性率が7%を超えてしまうと米国やイタリアのようになかなか流行が収まらない。医療が破綻して来る。患者数が激増してたくさんの方が亡くなる。日本の陽性率は異常な高さだ。これは検査の絞り込みということもあるが、結局全体把握をされていないので対策を打てていないことが推察される。感染者数を見て下がってきたということで政策を決めるとか私たちの行く末を決めるのは非常にリスクがある。

テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』2020/04/28
私が気になるのは陽性率(陽性者/新規の検査数)が7%を超えるか超えないかで死亡者が5倍から10倍変わると。これは早く探知してちゃんと隔離をするなり、治療をするなり、もしくは流行を抑えるなりという対策がとれるかとれないかが大事で、東京都にお願いしたいのは民間の数を含めて新規の検査数・陽性数を大阪とか他の都道府県のように明確に示して頂かないと。

新規感染者数が減っているのに「新規感染者数が減っていると見てはいけない」というのは、禅問答を遥かに超えたかなり難解な発言です。それどころか岡田氏は逆にとてつもない感染爆発の危機を視聴者に呼びかけています。

一方、原英史氏は、岡田氏も引用する「陽性率7%以上になると死亡者数が激増」との論文に対して疑問を投げかけています[記事]

本当のところはどうなのか、この記事では実データ(東洋経済オンライン)を用いて検証したいと思います。

検証の方法

厚労省が日々発表している新型コロナウィルスに関する新規PCR検査数・新規感染者数などのデータは、いずれも月曜日の数値が小さいなど、曜日によって発表数に明確な偏りがあります。また、新規死亡者数については絶対数が小さいためにランダム性が高くなり、全体的な変動傾向を把握することが容易ではありません。

そこで、これらの曜日による周期およびホワイトノイズをフィルタリングするために、各日のデータに前後3日ずつのデータを加えた計7日のデータを平均化する中央7日移動平均により、①新規PCR検査数、②新規PCR検査陽性数、③新規感染者数、④新規死亡者数を算出しました。これらの時系列変動間の相互関係を検討することにより、検証を進めて行きます。

データの対象範囲は47都道府県それぞれにおける2020年3月22日~4月23日の約1カ月間(但し、時系列の図示は3月24日~4月23日)であり、死亡者数の多い東京都、大阪府、愛知県、神奈川県のデータを中心に検証を進めます。

PCR検査関連データ

図-1は、PCR検査関連データとして、東京都、大阪府、愛知県、および神奈川県における新規PCR検査数、新規PCR検査陽性数、および陽性率(新規PCR検査陽性数/新規PCR検査数)の時系列変動を示したものです。

 

 

 

図-1 PCR検査関連データの7日移動平均

東京の陽性率は他地域と比較して全体的に高い値を示していますが、直近はやや減少傾向にあります。また、これらの4都府県では「米国やイタリアのようになかなか流行が止まらない」という7%を継続的に超えています。東京都と大阪府では1カ月前からずっとこの閾値を超えています。しかしながら、周知のとおり、日本に感染爆発が起きた事実はありません。

陽性率と新規死亡者数

図-2は、東京都、大阪府、愛知県、および神奈川県における陽性率と新規死亡者数の時系列変動を示したものです。

 

 

 

図-2 陽性率と新規死亡者数の7日移動平均

これらの図からわかることは、陽性率と新規死亡者数の時系列変動のピークの位置関係は地域ごとに異なり、全地域に一般化できるような時系列変動間の【相互相関 cross-correlation】は認められないということです。ひらたく言えば、陽性率と新規死亡者数はどう見ても関係ありません(笑)

全国における傾向

図-3は、47都道府県の全時系列変動における同時刻における陽性率と新規死亡者数の関係を示したものです。

図-3 陽性率と新規死亡者数の関係

両者には正の相関が認められますが、決定係数は約0.36と高くありません。陽性率が7%を超えると、死亡者数が5~10倍になるという傾向も認められません。

図-4は、同様に同時刻における新規感染者数と新規死亡者数の関係を示したものです。

図-4 新規感染者数と新規死亡者数の関係

この図を見ると、決定係数が0.75(相関係数0.87)と非常に高いのがわかります。新規感染者と新規死亡者の間には一般にタイムラグが存在しますが、7日移動平均をすることによってそのラグを埋めた可能性があります。

いずれにしても岡田晴恵氏の発言とは正反対に、新規死亡者数を予測するには、陽性率よりも新規感染者数で管理した方が精度が数段高いと言えます。なお、新規感染者数と新規死亡者数の相関性が非常に高いことは、日本チームによる患者のスクリーニングの方法自体が適切であることの証左と言えます。

ちなみに、図-5は、同時刻における陽性率と新規感染者数の関係を示したものです。

図-5 陽性率と新規感染者数の関係

新規感染者数が多くなれば当然のことながら陽性率も高くなり、両者には一定の相関があります。陽性率と新規死亡者数の間に弱い相関が認められるのは、このためであると考えられます(この点については原英史氏が既に指摘しています)。

さて、ここまでは各都道府県のデータを同等に取り扱いましたが。本来は各都道府県で人口が異なるため、新規死亡者数ではなく、これらを人口で割った新規死亡率で比較する必要があります。

図-6は、全国における陽性率と新規死亡率の関係をプロットしたものです。

図-6 陽性率と新規死亡率の関係

本図を見ると、両者はほぼ無相関であることがわかります。以上より、日本において、陽性率で新規死亡者の推移を予測することは極めて困難であると言えます。ちなみに、図-7は、新規感染率と新規死亡率の関係をプロットしたものです。

図-7 新規感染率と新規死亡率の関係

この場合においても、陽性率で管理するよりも新規感染率で管理する方がマシであることがわかります。

無責任極まりないワイドショー報道

今回行ったような簡単な統計分析をすれば、新規死亡者の推移を予測するのに陽性率よりも新規感染者数で管理した方が精度が高いことがわかります。精緻な分析結果も示さずに、憶測だけで「感染者数はダメ」「陽性率が大事」など発言して、大衆の不安を煽っている岡田晴恵氏の態度は無責任極まりありません。明らかな研究倫理違反です。

羽鳥慎一モーニングショーは、これまでも幾度となく新型コロナ危機においてデマや無責任発言を連発しています。4月28日も玉川徹氏と岡田晴恵氏が、寝食を忘れて医療に努めていらっしゃる方々を冒涜するデマを流しました[記事]。日本国民に対して理不尽に危機を煽り続けるこのような番組は速やかにテレビから退場すべきと考えます。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2020年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。