PCR検査を巡り、「陽性率7%以上になると死亡者数が激増」との論文がテレビの報道・情報番組で盛んに報じられている。「PCR検査数を増やすべきことの明白な根拠」、「陽性率が40%近い東京都は危険」といった文脈だ。
だが、この査読前論文については、公開されているpreprints.org 上で、「致命的な欠陥がある」と指摘されていることも認識しておいたほうがよいのでないか。
十分な PCR 検査の実施国では新型コロナの死亡率が低い(千葉大学)
学術的評価は専門家に委ねるが、私がみても論理的によくわからないのは、
・「PCR検査数と死亡者数には関係がない」
・「陽性率と死亡者数には相関関係がある」
・よって、「PCR検査数を拡充すべき」
と結論づけていることだ。
上記preprints.org 上でも指摘されているが、陽性率は感染者数/PCR検査数だから、検査数に相関関係がないならば、「感染者数と死亡者数には相関関係がある」だけではないのか。それならば、常識的に自明なことだ。
マスコミが、こうした論文を部分的に利用し、「早く検査を受けないと危ない」といった不安を無用に広げてしまうのは、危ういと思う。多くの人たちが保健所や医療機関で必要以上に検査を求め、ギリギリの状況にある現場の機能低下をもたらしかねない。これは今、最も避けなければならないことだ。
「叱責、罵倒」保健所がマンパワー不足でパンク寸前(日刊スポーツ)
マスコミだけが問題とは思わない。問題の根源は、むしろ政府だ。PCR検査に関する対応方針はあやふやで、明確な説明がない。批判に対しては「検査を増やす」というばかり。その中で、適切なタイミングで検査を受けられないケースも指摘される。政府は、早急に明確な対応方針を示すべきだ。
一方、マスコミは、政府の不備を指摘するのは大事な役割。ただ、その際に過剰な脚色は控えないといけない。同時に、「感染の不安のある人が今どう行動すべきか」についても、明確なメッセージを発してほしい。とりわけ緊急時に、誤った行動を防ぐこともマスコミの大事な役割のはずだ。
(文責:原英史。この記事は、オンラインサロン「情報検証研究所β版」内での意見交換も経て、筆者の責任で公開するものです。)