日本共産党が目指す「先進国革命路線」
日本共産党はいわゆる「先進国革命路線」を主張しその実現を目指している。即ち、党綱領で「日本のような発達した先進資本主義国での社会主義的変革は、生産手段の社会化を土台に資本主義の下でつくりだされた高度な生産力や自由と民主主義などの諸成果を継承し発展させることによって実現される」(改定党綱領五=18)としている。
しかし、結論から先に言えば、以下に述べる通り、この日本共産党が目指す「先進国革命路線」は、共産党が党規約2条で党の理論的基礎とする「マルクス・レーニン主義」(「科学的社会主義」)の重要法則であるマルクス「資本論」の「窮乏化法則」に照らしても、すでに理論的実証的に破綻している。
そのうえ、日本共産党が目指す「先進国革命路線」の土台である「生産手段の社会化」による計画経済は、競争原理に反し、官僚主義・権力主義など経済運営の効率性や合理性を阻害し、技術革新を遅らせ、労働生産性を低下させ、マイナス成長など、日本経済を破綻させる危険性が極めて大きい。
(2019年9月26日付け「アゴラ」掲載拙稿「日本共産党は日本の大企業を国有化するつもりか」、同年12月10日付け拙稿「大企業の国有化から逃げる最近の日本共産党」参照)。
よって、日本国民のためにも、共産党の「先進国革命路線」は徹底的に検証する必要があるのである。
マルクス「資本論」の核心「窮乏化法則」
マルクス「資本論」の核心である「窮乏化法則」とは、「資本主義が発達すると資本家は利潤を極大化するために生産手段の機械化を促進し(「資本の有機的構成の高度化」)生産性を向上させ資本の蓄積を行う。機械化の促進は失業者(「産業予備軍」)を増やし相対的過剰人口を生み労働者の生活水準を低下させ、その結果、労働者階級の貧困が蓄積する。これは資本主義的蓄積の絶対的法則である」(向坂逸郎訳マルクス著「資本論」第一巻23章「資本主義的蓄積の一般的法則」769頁~812頁)という理論である。
その結果、「窮乏化による労働者階級の反抗は社会主義革命をもたらし、収奪者である資本家が労働者階級に収奪される」(前掲「資本論」第一巻951頁~952頁)とされる。
「窮乏化法則」の理論的破綻
しかし、「窮乏化法則」は理論的に破綻している。エンゲルスの後継者とされたドイツ社会民主党のベルンシュタインは、著書「社会主義の諸前提と社会民主党の任務」(佐瀬昌盛訳1974年ダイヤモンド社)などにおいて、「我々は労働者をあるがままに受け取らねばならない。そして、労働者は共産党宣言で予見されていたほど一般的に窮乏化してもいない」(宇野弘蔵編「資本論研究」第二巻204頁1970年筑摩書房)と述べ、マルクス・エンゲルスの「暴力革命」に反対した。
周知の通り、「共産党宣言」では「プロレタリアートは革命において鉄鎖以外に失うべき何物も持たない」(マルクス・エンゲルス著「共産党宣言」世界教養全集第十五巻128頁1965年平凡社)とし、公然と「暴力革命」を宣言した。理論的にどちらが正しいかは自明であろう。
マルクスの重大な理論的誤謬は、(1)マルクスは「資本論」において、資本主義経済のモデルとした19世紀中葉の英国における産業予備軍の存在を絶対視した結果、産業予備軍の存在から直ちに資本主義的蓄積の一般法則として窮乏化を帰納した理論的欠陥があったこと、(2)マルクスは機械化の促進が労働者を不要にすると短絡して考え、生産性向上に不可欠な研究開発労働、各種機械自体を生産する労働、生産物を販売流通させる労働、生産管理労働、各種事務労働、各種サービス労働などを無視ないし軽視したことである。
「窮乏化法則」の実証的破綻
のみならず、「窮乏化法則」は実証的にも破綻している。日本や欧米の発達した先進資本主義諸国では、経済が成長し、労働者の名目賃金は不断に上昇し、資本主義の発達による労働者階級の窮乏化は起こらず、むしろ生活水準は向上している。そのうえ、失業保険や健康保険などの各種社会保険や、年金、医療、介護などの社会保障制度が整備され、社会保障関係予算は国家予算の3割前後にも達しているのが実態である。
そのため、さすがに、元日本共産党中央委員会幹部会委員の評論家蔵原惟人氏も、「労働者自体が無一物の無産者という感じではない多数の層が成長し自家用車も持っている。このような変化に共産党としても対応する必要がある」(蔵原惟人著「蔵原惟人評論集」第九巻187頁1979年新日本出版社)と述べ、労働者階級に「窮乏化」の事実がないこと、むしろ自家用車も持ち生活水準が向上している事実を率直に認めている。
破綻した日本共産党の「先進国革命路線」
そうすると、「資本主義が発達すればするほど労働者階級は窮乏化する」という「資本論」の核心である「窮乏化法則」は、理論的にも実証的にも重大な誤りであると言わざるを得ない(2019年9月10日付け拙稿「マルクス資本論の重大な理論的誤謬」参照)。
その証左に、マルクスが「資本論」等で予言した「社会主義革命」が日本や欧米などの先進資本主義諸国で起こらないのは、「マルクス・レーニン主義」(「科学的社会主義」)において社会主義革命の担い手とされる労働者階級の「窮乏化」が起こらなかったからに他ならない。
よって、マルクス「資本論」は、少なくとも日本や欧米の先進資本主義諸国ではもはや有効な「社会主義革命理論」とは到底言えず、理論的にも実証的にも破綻していることは明らかである。したがって、「資本論」に代表される「マルクス・レーニン主義」(「科学的社会主義」)を現在も党規約2条で党の理論的基礎とする日本共産党の「先進国革命路線」が、理論的にも実証的にも破綻していることも明らかである。
近年、フランス、イタリア、スペインなどヨーロッパの多くの共産党の党勢が著しく衰退し、解散や社会民主党などへの党名変更等を余儀なくされているのも、上記「窮乏化法則」の破綻と決して無関係ではあり得ないのである(2019年9月4日付け拙稿「日本共産党は生き残れるか」参照)。