金正恩は病気から回復したが金与正後継も確定へ
金正恩が現れた。果たして病気だったのかどうかは確定的にはわからない。ただ、顔もむくんでいるようにもみえ、手に治療跡とも見える傷があり、生命の危機だったかどうかは別として病気だった可能性はかなり高そうだ。
それにしても、謎なのは、このところ金与正後継説がさんざん語られ、今回の祝賀行事のひな壇でも党内序列を無視してナンバーツーであることを見せつけるような演出がされたことだった。
昨年6月のハノイでの米朝首脳会談が決裂したあとは、しばらく姿を隠していたが、北朝鮮では一時謹慎は珍しくない。韓国では池に落ちた犬に用はないといった風情だが、北朝鮮はいったん失脚したり謹慎したりして、そののち復活したり昇進したりを繰り返す人事管理がされているようだ。そう言う意味では、韓国より日本に近いのかもしれない。
金与正もそう言う形で禊ぎを受けて復活し、その後は、地位上昇がまっしぐらである。もしかすると、今回の金正恩のやや長い不在や重要行事への不参加も、北朝鮮の内部において、金与正が権力についた場合に誰が不平を言うか試して見たと言うことはおおいにあり得ると思う。
脱北者の言うことは信用するな
それにしても、いつものことだが、脱北者の言うことは当てにしないほうがいい。元駐英公使で、こんど野党代議士に当選して韓国政界の台風の眼と目されていた太永浩も、金正恩の死ないし植物人間説に断定的に同調しすぎて信用を失い、政治家としての第一歩でつまずいてしまった。
結局のところ、北朝鮮では、幹部でも情報には疎いのである。私もここ30年くらい北朝鮮情報はウォッチしているが、結局のところ、日本人の寿司職人である藤本健二氏(仮名)の情報がいちばんよく当たってきたくらいなのである(金正恩後継説も彼が言っているのがいちばん正しかった)。
そもそも一般論として、亡命者の情報はまったく当てにならない。彼らは政権が転覆しない限り国へ帰れないし情報の対華も欲しいから、意図的に、あるいは無意識に政権にネガティブな情報を流すものだ。
私は拉致問題などでも、脱北者の情報はほぼ無価値だと言い続けている。また、古くは16世紀にフランスがイタリアに出兵して痛い目にあったときから、2000年代のイラク戦争まで、亡命者の偽情報に騙されて戦争して失敗した例は枚挙にいとまない。
日本も韓国もそれぞれの事情で北から情報が入らない
北朝鮮情報については、韓国も日本もすっかり弱くなってろくな情報を持っていない。ただし、原因は正反対だ。韓国は親北になりすぎて情報をあつめるのに熱心でないし、政権に親北が入ってスパイを北に通報した可能性すらある。日本の場合は、拉致問題で制裁を厳しくしすぎて、朝鮮総連が弱体化し、北との交流も途絶えたので、情報が入ってこない。
私は1993~94年に通産省で朝鮮半島担当課長だったが、総連ルートから入ってくる日本の北朝鮮情報はアメリカや韓国より質が良かった。朝鮮総連は北にかなりの送金していたから、政権への政治力は結構高かった。
また、金正恩・金与正兄妹も1990年代のはじめに日本にお忍びの観光旅行に来てディズニーランドなどにも来たことが確認されているし、医療目的で要人が来ることも多かった。
いずれにせよ、北朝鮮を制裁したことで、北が失ったものも大きいが、日本が失ったものも実は大きいのである。
余談だが、金与正の夫が、ナンバーツーである崔竜海の息子だという説があるが、私は考えにくいと思う。本当の意味でのナンバーツーはつくらないと思う。むしろ、金日成総合大学で物理学を学んでいたときの同級生で、幹部の子ではないという説の方が説得力がある。
金正恩の夫人だって幹部の娘ではなさそうだ。さらにいえば、金与正は1988年生まれだが、横田めぐみさんの娘である金ヘギョンは1987年生まれで金日成総合大学で学んでいたともいわれ、もしかして面識があるのかもしれない。ただし、すべて確かな情報ではない。
※編集部より:本稿は5/3深夜時点の情報で執筆されています。