5月4日、安倍首相の記者会見が開かれ、緊急事態宣言の延長が決まった。日本にはよくある玉虫色だが、穏健な内容と言える。
引き続き「8割削減」を求めると言いながら、地域差を出し、美術館等から段階的に開いていくし、14日に再検討の機会を設けることを予定した。「段階的緩和」宣言としての性格も見てとれる。
そして「長期戦」を見据えた体制作りを5月に行うと位置付けた。ここからは各地方自治体の首長がリーダーシップを発揮する、という流れ自体は、悪くないのではないかと思う。
「延長」期間とは、いわば「移行」期間のことだ。緊急事態宣言解除後にもコロナ対策を行っていくための「移行」期間が、「延長」期間だと考えてよいだろう。
4月7日の緊急事態宣言発出時に、安倍首相は、医療崩壊を防ぐ、という目標を掲げた。この目標の達成を確証したと言うにはまだ十分ではないので延長措置をとると言う。
その一方で、新規感染者数が退院者の数を下回ることが目標だと定めたのは、一貫性を保ちながら、より具体的に目標を定められたという点で良かった。現在の退院者数が200人近くになっていることを考えると、1日100人以下にしたいと述べたのは、ラフな言い方ではあった。ただ、それくらいの余裕は持たせて下回りたい、ということなのか。
いずれにせよ、このように具体的な数字で直近の目標を語れるようになったのは、良いことだ。これも国民の努力があればこそで、そのことを首相がしっかりと認識していることを語ったのも、良かったと思う。
4月7日の時点で、安倍首相は、西浦博教授の試算に基づき、次のように語っていた。
東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。しかし、専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。
4月7日からほぼ4週間がたった5月4日現在、東京都の累積感染者数は4,654人である。5日間で1.11倍になった。5日間の増加率が1か月前は100%だったが、今は11%に下がった、ということである。また、4月21日に感染者の増加をピークアウトさせて減少させると言う目標も、すでに達成した。1か月間の緊急事態宣言は堅実な結果を出した、と評価すべきである。
より定性的な目標である「医療崩壊を防ぐ」という目標の達成を確証できないため「延長」になったが、10日後に見直しをする。そこで1か月間の緊急事態宣言の結果を把握することになる。そこであらためて段階的解除の路線が明らかになるのではないか。
5月の「延長/移行」段階は、4月の4週間とは、質的に異なる4週間になるだろう。ロックダウンの段階的緩和化の時期になると思われる。
1か月で感染の終息を目指す急進的な「西浦モデル」路線は放棄された、ということだ。
すでに安倍首相の口からも「長期戦」という言葉が発せられた。専門家会議記者会見でも、緊急事態宣言解除後のコロナ対策が継続していく「長丁場の対応」が前提になっている。「新しい生活様式」は、ワクチン開発か集団免疫獲得まで続く、という認識が、脇田隆字座長から示された。「終息」ではなく、医療崩壊を防げるところで抑え続ける「収束」を目指されているのだ。
吉村大阪府知事は、段階的に自粛要請を解除する「出口戦略」を明らかにするという。各地方自治体によるイニシアチブで、「延長」期間の「移行」期間としての実際の内容が決まっていくだろう。私も、今後は、吉村知事のイニシアチブに着目する『検証』も書いてみたいと思っている。
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これまでの「検証」シリーズで行ってきた通り、曜日の偏差を考えて、週ごとに整理した数字を示しておきたい。
東京都の累積感染者数(括弧内は新規感染者数)と前の週と比べた時とのそれぞれの増加率は以下の通りである(参照:東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)。
4月28~5月4日: 4,654 人( 620人): 1.17倍( 0.81倍)
4月21~27日: 3,947人( 764人): 1.23倍( 0.74倍)
4月14日~20日: 3,184人( 1,026人): 1.47倍( 0.98倍)
4月7日~4月13日: 2,158人( 1,043人): 1.93倍( 1.55倍)
3月31日~4月6日: 1,115人( 672人): 2.51倍( 2.32倍)
全国的な傾向も見てみよう(参照:東洋経済オンライン「新型コロナウイルス 国内感染の状況」)。
4月28~5月4日: 14,895人( 1,663人): 1.12倍( 0.63倍)
4月21~27日: 13,232人( 2,624人): 1.24倍( 0.75倍)
4月14日~20日: 10,608人( 3,485人): 1.48倍( 0.98倍)
4月7日~4月13日: 7,123人( 3,554人): 1.99倍( 2.03倍)
3月31日~4月6日: 3,569人( 1,749人): 1.96倍( 2.29倍)
相変わらず着実な減少が見られるが、東京での減少率は鈍り始めた。過去数日の間に東京都でいくつかの集合的な感染が見つかっており、全国の減少率が東京の減少率を追い抜いた。その結果、この一週間の新規感染者数に占める東京都の割合は37%以上と異常な高率になっている。ちなみに前週・前々週は29%であった。
これが今後の傾向を示す現象なのかがどうかは、あるいはある種の異常値なのかは、まだわからない。緊急事態宣言発出後には、大阪をはじめとする東京以外の地域での頑張りが特に大きい、ということなのかもしれない。
なお、実は死亡者の増加率も、ここにきて鈍化の傾向を見せており、4月の新規感染者数の増加の鈍化の影響が出始めたようである。死者数の増化率の国際比較について、Financial TimesのJohn Burn-Murdochのデータで見てみよう。
新規感染者数の国際比較はこちらである。