コロナの後に果たしてインフレがやってくるのか?

4月中旬にバンク・オブ・アメリカのアナリストが金は3000ドルになると述べ、世間を驚かせました。発表した当時に比べほぼ2倍になるというわけでそれまでの予想である2000ドルを見直したものでありました。いったいどこからそんな推測が来るのかといえばそのロジックは「経済生産が急激に縮小している中、財政支出が急増し、中央銀行のバランスシートが2倍になり、政府紙幣に圧力がかかる可能性がある」(BOA発表訳)とあります。

(写真AC:編集部)

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この想定はインフレになることが前提となっています。つまり、企業は生産ラインを細くしている中、需要の急激な回復が生じ、供給が追いつかない中、財政支出を増やした国家の通貨が売られやすくなりその結果、輸入物価も上昇し、インフレになるというシナリオでしょうか?金はインフレ時に強含むため、金の上昇を見込むというわけです。

リーマンショックがあった時も似たような企業の投資マインド減退と供給調整がありましたがそれほどのインフレになったでしょうか?消費者物価指数でみると2009年はアメリカがマイナス0.32%、日本がマイナス1.35%で底打ちしていますが、アメリカは11年に3.14%まで戻し、インフレ率のピークとなる一方、日本は14年の2.76%がその後のピークとなっています。ただこれも消費税が5%から8%に上がったことが要因で上記の要因はありません。アメリカのインフレ率は長期推移でみると着実に下がってきており、リーマンショックのような一時的要因で大きく動くことはあっても基本トレンドは変わっていません。

次に、金相場はドル建て表示になるためドル安は金価格の相対的上昇となりますが、政府支出が巨額だった今回、ドルは売られるのでしょうか?長期のドルインデックスチャートを見ると2002年のドットコムバブル以降、09-11年にかけてドルは大きく売られるのですが、その後、アメリカが世界経済をリードするのと歩調を合わせるように着実にドルは強くなっています。

今回のコロナで世界経済はどのように変貌し、マネーはどう動くのでしょうか?ずばり、私には世界はアメリカのリーダーシップをいまだに期待しているように見えるのです。世界がバラバラになるデカップリングも取りざたされていますが、対中国の政治的問題を別にすれば基本的には経済の血液であるドルとユーロが既に世界を駆け巡ります。世界中の企業への資本参加や直接投資を通じ、アメリカと欧州が資本主義の総本家となっているといって過言はないと思います。ただ、アメリカと欧州を比べればアメリカの方がより多くの新興国を取り込んでいるため、規模ははるかに大きいでしょう。

バンク・オブ・アメリカの予想である需要の急回復とそれに追いつかない供給というシナリオは一時的にはあり得ます。これは企業側が当初は疑心暗鬼であるからです。例えば自動車の生産計画も様子見的な感じである一方、ある時点で在庫が急減し生産ラインを急いで回復させるといった具合です。ただし、それがインフレを招くほどの強い需要になるのかといえば私はもっと緩やかなものになるとみています。

長年付き合ってきた金に対して私がそこまで強気になれないのはそこにあります。勿論、目先はまだ「過渡期」ですので大きくブレることもありますし、史上最高値である1923ドルから2000ドル程度までは可動範囲かもしれませんが、バンク・オブ・アメリカのシナリオにはならないというのが私の考えです。

日本の報道を見ているとまだまだ悲観論が多いのですが、こちらにいるとどうやって次の世界を作っていくか、という前向き思考が強く、経済基盤と金融のシステムが今のところ万全なので激変ではなく、今までより更に強化された経済システムになるとみる方がナチュラルではないかと考えています。

よってインフレも一時的にはあったとしても中期的には引き続き下落トレンドで量的緩和に刺激を受けやすい株式が活況になるというシナリオかと思います。ただし、金についてはチャート上、本日三角持ち合いを上に突き抜けましたのでしばし、上昇するかもしれません。その場合の次の抵抗線は1800ドルあたりとなります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月8日の記事より転載させていただきました。