日本批判を繰り返す謎の海外在住日本人・渋谷健司氏の問題

篠田 英朗

政府の対応、海外が疑問視」「政府のコロナ対応、海外から批判続出」(朝日新聞)と言う記事が、波紋を呼んでいる。

イギリスのガーディアン紙とBBC 放送および韓国のハンギョレ新聞が、日本のPCR検査数の少なさを理由にして批判をしているという記事である。特にイギリスは世界2位の3万人の死者と、20万人以上の感染者を出しているので、日本を批判している場合か、という反応が巻き起こったのである。

だが、よく見てみると、事情はいくぶん微妙である。この記事がとりあげている4月30日のBBCの記事でお馴染みの日本批判をしているのは、毎度毎度のあの渋谷健司氏である。日本のメディアでは「WHO事務局長上級顧問」の肩書で各種メディアで日本批判を繰り返している渋谷氏だが、海外のメディアに登場する際には決して「WHO事務局長上級顧問」の肩書を使わない。

渋谷氏(FCCJ公式YouTubeより)

海外の英語メディアでは、大学の肩書でなければ、「元WHO職員」と名乗る。それで目立たなくなるのかもしれないが、要するに同じ人物だ。同じ渋谷氏が、違うメディアに異なる肩書で何度も登場し、お馴染みの日本批判を繰り返しているだけなのである。

Coronavirus: Japan’s low testing rate raises questions(BBC)

新型コロナ問題の「専門家」を自称する産婦人科医の渋谷氏の肩書の不透明性については、これまでも何度か指摘した。

西浦モデル検証⑦渋谷健司氏は早く日本の感染爆発の主張の根拠を示せ

WHO側に渋谷氏の肩書を証明する根拠がない。しかし日本のメディアは好んで渋谷氏を「WHO事務局長上級顧問」と紹介し続ける。

私は、渋谷氏の肩書の根拠を示してほしい、と最近に渋谷氏を取り上げているFNN(フジニュースネットワーク)、オンライン経済メディアBusiness Insider Japan、 IWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)にメールを出した。これらのメディアのいずれも根拠を示さない。というか、私に返信すらしない。

記事の題名を「WHO事務局長上級顧問が懸念」としても、その人物が本当に「WHO事務局長上級顧問」であるかどうかについては説明しない、というのは無責任ではないだろうか?

WHO事務局長上級顧問が懸念する日本の「データ不足」。緊急事態宣言の解除はリスクが高すぎる(Business Insider Japan)

これら一部の日本のメディアと比べれば、BBCの記事の方がましである。色々な意見を紹介する趣旨の記事の中で、一大日本批判キャンペーン展開中の産婦人科医・渋谷健司氏を取り上げているに過ぎない。後に朝日新聞が「海外から批判続出」の記事の根拠にするとは、夢にも思っていなかっただろう。

それにしても渋谷氏は、怪しい肩書のほかに、何かすごいことを言っているのだろうか? 渋谷氏は、何週間か前には、日本ではすでに「感染爆発」が起こっている、というセンセーショナルな主張を繰り返していた。最近になって、「ピークはこれからだ」といった話に、主張を変えた。今や「とにかく検査が少ないのだから、とにかくそれで日本はダメなのだ」という話にさらに主張を変化させている。

意見を変えてはいけないとは言わないが、それならせめてどうして意見を変えたのか、責任を持って説明するのが研究者としての最低限の良心であるはずだ。こんなことなら意見を言う際には「なお私の意見は私の気まぐれで変更して言わなかったことにする可能性がありますので、ご注意ください」と但し書きを入れるべきだ。

検査の数は、大きな議論の対象だ。たとえばイギリスのインペリアル・カレッジは、PCR検査を無症状の人にまでむやみに実施しても感染拡大効果が上がるわけではなく、日本のように症状のある感染者、濃厚接触者、医療関係者らに限定して使うことが有効だとする報告書を出している。

Report 16 – Role of testing in COVID-19 control

「WHO事務局長上級顧問」という日本人にだけ用いる肩書を使われると、日本人は「ただ産婦人科医・渋谷氏の意見だけを信じる!」と叫ばなければいけないというのは、あまりに馬鹿げている。

渋谷氏は、なぜ3万人の死者が出ている自らの居住国のイギリスのことを全く心配しようとはしないのか? 新型コロナ「専門家」のスーパー産婦人科医なら、まず自らの知見をイギリス社会に貢献するために使うべきではないのか?

渋谷氏は、日本を批判して説教をするために、異なる肩書を多彩に駆使してまで各種メディアに登場しまくる前に、まず目の前のイギリスのことを心配するべきだ。いったいどういう精神状態なのだろうか?私には理解できない。