「なぜケニア人は世界記録を連発するのか? マラソン最強国を知る専門家が語る速さの秘密」というインタビュー記事(REAL SPORTS編集部)を興味深く読んだ。最後の「厚底シューズ」に関する評価については若干の違和感があったが、標高の高さ、身体的特徴など、概ね説得的で示唆的な内容だった。
確かに、中長距離におけるケニア勢の強さは別格だ。しかし、トラック競技の10000m走では世界記録は相変わらずエチオピアのケネニサ・ベケレであり、もう15年も破られていない。その前の記録は同じエチオピアのハイレ・ゲブレセラシェだった。この二人の記録を20年以上、ケニア勢は破れていない。
ベケレの走りは圧倒的だった。最後の一周は、信じ難い走り方をする。まるで800mのような走り方だ。ちなみにマラソンの現世界記録保持者で、参考記録ながら2時間切りを達成したエリウド・キプチョゲの10000mの記録はベケレよりも30秒以上遅い(それでもその記録、26分40秒台は日本人選手と比較したら圧倒的である)。その後、キプチョゲはマラソンに転向して、トップに立った。遅れてマラソンに参入したベケレは惜しいところに止まっている。
ケニアは圧倒的だが、エチオピアとの比較をしたらどうだろうか。何か面白い分析はできないか。そんな興味を抱く。今一番の期待の星は、ケニアのジョフリー・カムウォロルだ。ハーフマラソンを、ほぼ58分ジャストで走っている。
ゲブレセラシェもそうだったが、アフリカのトップアスリートの多くはトラックからの転向組だ。日本でも学生時代は5000mや10000mのトラック選手であり、その後トラック選手と駅伝選手を兼ねて、マラソンに参入する。マラソンへの新規参入の仕方は似ているようだが、何かが違うのだろうか。実業団チームという独特のキャリア・パスは、そういう発想のない(日本にいる選手は別にして)アフリカ選手との比較でどうなのか。そしてプロランナー・大迫傑の強さは、どこからくるのか。
そういえば、80年代は日本男子マラソン界の黄金期だった。往年の瀬古利彦のトラック勝負は、「ベケレの最後の1周」を彷彿させるものだったし、宗兄弟も中山竹通も強かった。瀬古はロンドンもシカゴもボストンも制している(最近では、悪天候の中の川内優輝のボストン優勝は衝撃的だった)。2000年前後は女子マラソンの日本勢が活躍した。2003年のポーラ・ラドグリフの当時の世界記録は異常だったが、日本人選手(野口みずき、渋井陽子、高橋尚子)も20分を切り、世界に食い込んでいた。
ここ2、30年間の世界(特にケニア、エチオピア勢)と日本との開きはどこから生じ、そして「マラソン大国、日本」の復活のためには何が必要なのだろうか。
アフリカ・マラソン界のトップアスリートに共通すること、それはクロス・カントリーにおいても世界を代表する選手だということである。ベケレは世界大会優勝の常連だったし、カムウォロルは2015、2017年と2連覇している。クロス・カントリーがマラソンの次世代のスター選手を生み出すとするならば、注目は2019年優勝のジョシュア・チェプテゲイだ。ウガンダの23歳の選手である。そして10代のジュニア界にも続々とダイヤの原石が控えている。
次世代のスター選手に早くから注目するのも、スポーツの楽しみ方の一つである。