東京都の出口戦略案を小池知事に提言

鈴木 邦和

都庁サイトより:編集部

こんにちは、都議会議員の鈴木邦和です。昨日(12日)、都民ファーストの会として「東京都の出口戦略(ロードマップ)案」を小池知事に提言しました。資料の全文は党公式noteで公開していますが、私自身この戦略の策定を担当してきたこともあり、本記事では出口戦略の全体像と共にどのような考えに基づいて作ったのか解説します。

東京の現状認識と出口戦略の必要性

東京都内のコロナ感染流行は未だ予断を許さない状況ですが、直近の感染者数は確かな減少局面に入っています。これは一重に都民の皆さまお一人おひとりの行動変容と、事業者の方々のご協力による結果です。

緊急事態宣言に基づいた行動制限・休業要請は、医療崩壊による死者の多発を防ぐことが目的でした。一方で、この間の個人の生活・企業活動・子供たちの教育などへの影響は、一刻の猶予も許さないほど厳しい状況にあり、多くの方々は出口の見えないトンネルの中で不安を抱えていらっしゃると思います。

東京都は、現時点で全ての制限を即時に解除することは出来ません。しかし、どうしたら解除できるのか、そして、いつになったら解除できるのか、この先の見通しを都民の皆さまにお示しすることが、わたしたち政治家の仕事だと考えています。そうした思いから、4月末より都民ファーストの会としての出口戦略の検討を進めてきました。

出口戦略には解除の基準と段階が必要

今回の戦略の策定にあたって、国内の事例に加えて25ヶ国ほどの海外事例を調査して、専門家の方々からもご意見を伺いました。国内の出口戦略の議論では「解除基準」に注目が集まっていますが、多くの諸外国では基準よりも「段階的な解除」が戦略の柱となっています。以下に一例としてスペインの出口戦略図を紹介します。

各国の出口戦略に共通するのは「感染拡大リスクの低い行動・施設から段階的に解除していく」という基本的な考え方です。この段階的な解除は、リスクの低い活動を早めに解除できるという点だけでなく、性急な全面解除によって感染が再び急拡大するのを防ぐという点からも有効です。よって、今回の私たちの出口戦略案でも「①段階的な解除」と「②解除基準」の2つを柱として構成しました。

各施設・行動の段階分け

まず1つ目の柱となる「段階的な解除」についてです。以下の表は、諸外国が各行動・施設をどのような段階分けしているのか一例を示したものです。

まず表にもあるように、公園利用・屋外スポーツ・学校などは各国共通して早期に解除している傾向があります。その次に博物館・美術館などの公共的施設や飲食店以外の商業施設、娯楽施設が続きます。その後に、飲食店や大規模イベントなどが全面的な解除となる国が多いです。

本来はこうした海外事例も踏まえた上で、日本のクラスター班が収集している感染経路データに基づいて、各施設や行動のリスクを評価して最終的に段階分けを確定させるべきです。

しかし、この感染経路のデータは現在公開されていません。データが非公開だとリスク評価が難しいだけでなく、外部から専門家会議の検証も難しい状態です。私たちとしても、迅速にデータを公開するように関係各所に求めており、データ公開後にさらに詳細なガイドラインの策定に入りたいと考えています。

3つの解除基準を選定

もう1つ目の柱となる解除基準の選定にあたっては、とにかく「人の命を守る=医療崩壊を起こさない」ための基準とは何かを徹底して議論してきました。医療体制を評価する上では、コロナ対応病床数、ICU病床数、人工呼吸器使用数など、特に東京都の医療体制のボトルネックとなる指標を選定する必要があります。

また、感染が急拡大すると医療体制の逼迫が予想されることから、市中感染の状況も基準に加える必要があります。

そして、上表の海外事例や専門家の方々のご意見も踏まえた上で、私たちとしては「1.市中の新規感染者数」「2.コロナ対応病床の稼働率」「3.人工呼吸器の使用率」の3つの解除基準を最終的に選定しました。特に人工呼吸器については他の自治体ではあまり見られない基準ですが、呼吸器が十分に確保できているかどうかが人命に直結するという観点から、今回3つ目の基準として選定しました。

先行して独自基準を示された大阪では、PCR検査の陽性率を解除基準の一つとしており、私たちも陽性率について検討を行いました。

しかし、現状ではPCR検査総数が限られている上に、感染可能性の高い方を選定して検査しているため、その中での陽性率が統計的にどこまで意味があるのか確証が持てませんでした。諸外国でも陽性率を指標にしている事例はなく、少なくとも市中における感染率とは明確に異なるという観点から、今回は見送ったという経緯です。

東京都の出口戦略案と今後の見通し

こうした議論を踏まえた上で、私たちとしては以下のように5段階に分けた出口戦略案を策定しました。

この出口戦略案では、今回設定した3つの基準の全てを満たした場合に警戒レベルを下げられるというのが基本的な考え方です。そして、東京における現在の行動制限・休業要請は「警戒レベル4」に該当します。一方で、5月12日時点での各基準の評価は、以下の通りです。

基準①新規感染者数の直近7日間の移動平均=約29人→「警戒レベル2」に相当
基準②コロナ対応病床の稼働率=約70%→「警戒レベル3」に移行可能
基準③コロナ対応病床における人工呼吸器の使用率=約14%→「警戒レベル2」に相当
(人工呼吸器の使用率については最新データがなかったため、4月末時点の情報を基に算出しました。)

よって、この出口戦略案に基づくならば、東京は「警戒レベル4から警戒レベル3に移行可能」、つまり一部の制限を緩和できるという認識です。仮に「警戒レベル3」に移行した場合は、学校の部分的な再開や、屋外スポーツが可能となり、飲食店は夜12時まで営業できると考えています。

そして、現在の新規感染者数と退院者数の水準が維持されると仮定した場合、東京都内のコロナ対応病床の稼働率は今後2週間で40%程度まで下がる見込みです。その場合は「警戒レベル2」に移行し、大規模な屋内イベントや夜の街を覗いて、多くの施設・行動制限が解除できると考えられます。

もちろんこれは新規感染者数が現行水準で維持できるという前提ですが、私個人としては2週間後の5月末にこのような見通しを持っています。今回、私たちが議会から提言した案も一つの参考にして頂いた上で、ぜひ東京都として正式な出口戦略(ロードマップ)を早急に都民に示して頂くよう求めていきます。

今後取り組むべき事

今回の第一波が収束したとしても、第二波・第三波が来る可能性が十分にあります。しかし、第二波・第三波と流行が来るたびに今回のような強い行動制限・休業要請を行えば、都民一人一人の生活も、都内の企業活動も、そして、子供たちの教育も、全てがもはや耐えられなくなります。つまり第二波・第三波の際には、なるべく短期的かつ穏やかな行動制限で乗り切れる仕組みを構築しなければいけません。そのために必要な検討項目を小池知事に合わせて提言しました。

例えば、台湾や韓国の成功要因の一つとされるのが「デジタル・コンタクト・トレーシング」システムです。これはスマホのBluetoothを利用して、陽性が判明した患者が過去に濃厚接触者した人物を自動的に判別して通知することが出来ます。このシステムがあれば感染経路をより正確に把握でき、流行の初期段階で早期の抑え込みが可能になるかも知れません。

都民ファーストの会としても、今回提言した出口戦略案や、第二波に備えて中長期的な体制の転換など、議会から引き続き提案を続けていきたいと思います。


編集部より:この記事は東京都議会議員、鈴木邦和氏(武蔵野市選出、都民ファーストの会)のブログ2020年5月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は鈴木氏のブログをご覧ください。