検察庁法改正案について聞かれることが多くなってきたので、個人的な考えを簡潔に説明します。
本改正案の賛否で世論は2つに分断されていますが、これは中身と経緯のどちらから見るかによってだいぶ違ってくると思います。
まず中身から見てみましょう。日経新聞がまとめたポイントを引用させてもらうと、上の三つは、国家公務員法改正案で国家公務員の定年も65歳まで引き上げるわけですし、特に問題があるようには感じられません。次に、一番下ですが、総理や法務大臣が検事長等の幹部については1年ごと、最長3年(68歳)まで留任させる事ができるという内容が書かれています。
これについては「うん?」と違和感を覚える人もいるかも知れませんが、正直どうでしょう。この改正案が他に懸案事項のない中で国会に提出されていたら、意外と大きな問題とはされずに可決されていたような気もします。
次に経緯を見てみましょう。
多くの国民がこの検察官がらみで「内閣が何かやったな」と感じたのは、安倍政権の守護神とも呼ばれている黒川検事長(東京高等検察庁検事長)の定年延長が「解釈変更による国家公務員法特例の適用」という微妙な理由で押し通された時でしょう。
その定年延長の背景にあるのが、同氏を次の検事総長(トップ)に据えるステップではないかと疑念が持たれているのです(一度定年退官すると、その道は絶たれるため)。この流れを見ていた人たちからすると、後追いで本改正案(しかも廃案となった昨年の改正案に「内閣による留任権」を追加して)を出してきた事が「ほら、やっぱり!」となってしまうのは仕方がない事です。
つまり、法案だけを見ると、討議をしっかり行って考えようとなるのでしょうが、経緯から見ると、とんでもないとなってしまうのです。
そして、平時ならまだしも、国難とも言えるコロナ禍の中です。私を含め、多くの事業者は生き残りに必死です。そのような中で、国民が益々不安を感じるような法案を性急に議論するべきでしょうか。色んな意味でタイミングが悪すぎます。
では、これを止められるか?という事ですが、正直言って難しいと思います。第二次政権になってからの7年半、私が知る限り、安倍総理が命運の掛かる法案を取り下げたことは一度もありません。野党共同会派が内閣の判断で定年延長ができる規定を削除した案を示しているようですが、そこは肝の部分ですから、自民党の合意を得られることはないでしょう。
通される現実が変えられないのであれば、最後に野党が取るべき行動は、少しでも国民の懸念を軽減するための修正案を与党に合意させることです。
一つ考えられるのは、検察庁幹部の任命と役職定年延長ついては「国会同意人事」とすることを明記した修正案を作成し、交渉することです。
本日の衆院内閣委員会で武田大臣が「定年延長の適用基準はない」と答弁して紛糾したようですが、個別の人事案件に具体的なクライテリアを定めるのは難しいでしょう。であれば同意人事にして、都度、確認していく仕組みにしたら良いのです。
勿論、議院内閣制において結果は変わらないと思われるかもしれませんが、少なくともそのワンステップを経ることによって、その人事判断の理由や妥当性が国会で国民の目にさらされて議論されることになります。そもそも内閣が一定の人事権を持つことによって、検察の暴走を止める役割が必要だと言うのは一理あります。であれば、国民に直接的に選ばれた国会議員の同意を得ることは、民主的に、更に理にかなっているでしょう。
野党が本気で国民のために改善をもたらしたいと考えるなら、この具体的な修正案をぶつけて頂きたいと思います。
2015年の安保法制の時に、小規模ベンチャー政党でしたが、党首として与党と交渉した「歯止め修正案」は今でも正しかったと思っています。あの引き出した閣議決定によって、存立危機事態として自衛隊を派遣するときは、国会の同意を得る事が必要になっています。
いずれにせよ巨大与党を止める事が出来ないのであれば、少しでも改善する策を考えて、愚直な交渉をするべきなのです。
最後にもう一点だけ。
この問題に限らず政策や法案については、芸能人だろうが、スポーツ選手だろうが、サラリーマンだろうが、経営者だろうが、小学生だろうが…
堂々と声を上げて自分の考えを主張すべきです。他の人の意見を聞いたり、何かを経験したりして考えが変わったならば、そう説明して主張も変えれば良いだけです(国会議員は、そこの説明責任を果たしていない事が多くて問題ですが)
自分は不勉強だからと思って萎縮だけはしないでください。これも議員時代に言い続けてきたことですが、意外と門外漢と思ってしまっている人たちの感覚の方が正しく、中にどっぷり浸かってしまっている人たちの方がズレていることが多いのです。
編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、元参議院議員の松田公太氏のオフィシャルブログ 2020年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。