BCGは対コロナの免疫機能をどう活性化するか?専門家に聞いた

高橋 大樹

アゴラに掲載されたサトウ・ジュンさんの「新型コロナとBCG仮説」についての4つの記事を興味深く読みました。その内容は、 新型コロナウイルスに対してBCGが有効であることを示唆するものでした。

寝太郎/写真AC

免疫学などには無知である私は、もともとは結核を予防するものであるBCGワクチンが異なる病原体のコロナに予防効果を発揮するの?と疑問に思うと同時に、もし発揮するのであれば、その免疫強化のしくみは一体どのようなものだろうと興味がわいてきました。

そこで、現役の頃、某大学でエビ・魚からヒトまでの比較免疫学についての研究をしていた父親に、私の素朴な疑問を投げかけてみたところ、「BCGには新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、肺炎球菌などの病原体に対する免疫機能を高める可能性がある」とのこたえが返ってきました。

その仮説の論拠について、私が理解した範囲で以下に説明します。

免疫の2つのしくみ

ヒトの免疫システムのうち、この問題に関連すると思われる細胞・物質や機能などを表1に示しました。

ヒトには自然免疫獲得免疫という2つの生体防御システムが備わっています。

自然免疫システムは、生体内に侵入した病原体に対して、まずマクロファージ(単球)や好中球などの白血球が病原菌を食べて(貪食)殺菌したり、ウイルスに対してはマクロファージが産生したインターフェロン(IFN)というタンパク質によって増殖が阻止されます。

また、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)というリンパ球はウイルスに感染した細胞に結合して、ウイルスを死滅させます。すなわち、自然免疫は、不特定多数の病原体を排除するシステムです。

しかし、自然免疫の異物排除作用には、弱いという欠点があります。

一方、獲得免疫システムは、自然免疫システムと連携し、例えば生体内に肺炎球菌が侵入した場合には、まずマクロファージが食べて殺菌したのち細かくかみ砕き、細胞表面に肺炎球菌しか持たない特徴ある成分(抗原)を提示します。

すると、骨髄で産生されてから胸の上の方にある胸腺(Thynus)という組織で成熟過程を経たT細胞が提示された抗原(目印)を見つけて、その特徴を認識したのち、インターロイキン2 (IL-2) というタンパク質を放出して骨髄(Bone marrow)内で成熟するBリンパ球に特徴的成分に対する抗体を作るよう指示すると、B細胞が抗体(抗原に特異的に結合して異物を除去)の製造を開始します(液性免疫)。

抗体の製造には時間を要するので、初めての肺炎球菌を排除することはできませんが、Bリンパ球がその特徴を記憶しているので、次回以降の侵入に対してはすぐに処理することができます。

しかし、この抗体は肺炎球菌のみに特異的なタンパク質なので、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスを排除することはできません。

BCG接種するとなにが起こる?

このような免疫システムを備えた私たちの生体内に結核菌が侵入(BCG接種)すると、どのようなことが起こるのでしょうか。

結核菌が体内に侵入(BCG接種)するといったんはマクロファージに貪食されますが、肺炎球菌のように細胞内で殺菌されることなく、増殖しつづけることができます。

しかし、菌が免疫機能を発動する関所のような役割をもつリンパ節などに到達すると、結核菌に特異的な成分を認識したTリンパ球が活性化し盛んに増殖するとともに、マクロファージを局所に集合させるタンパク質やマクロファージ・NK細胞を活性化するタンパク質(IFN-γ)を産生・放出します。

活性化されたマクロファージの異物を貪食する力と細胞内で殺菌する力は強固なものとなり、当初殺菌できなかった結核菌をも破壊できるようになります。

つまり、結核菌(BCG) に対する免疫は抗体によるのではなく、T細胞やマクロファージ、NK細胞などと、それらが産生・放出するタンパク質(サイトカイン)によるものと思われます(細胞性免疫)。

細胞性免疫のイメージ図(医学生物学研究所サイトより引用)

ここで注目すべきことは、結核菌が侵入した時に、その特徴を認識して特異的に反応するのはT細胞のみであり、T細胞によって活性化されたマクロファージおよびNK細胞と、それらが産生するIFN-γなどのタンパク質の異物排除作用は、結核菌に限らず、侵入したその他の異物に対しても発揮する非特異的な機能です(表1参照)。

結核症に対するBCGワクチンの予防効果は長期間持続します。この間、結核菌の抗原によって感作された(同じ抗原の再刺激に感じやすい状態にされた)Tリンパ球の活性が持続し、微弱ながらもマクロファージやNK細胞を活性化していることが考えられます(この間、結核菌の侵入を、何度か受けたことのあるヒトの活性は、より持続します)。

このような免疫状態にあるBCGワクチン接種者の体内に新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスが侵入すると、活性化されたマクロファージが産生したIFN-γによって増殖が阻止されるとともにウイルス感染した細胞に結合したNK細胞によってウイルスが死滅します。また、肺炎球菌の侵入に対しては活性化されたマクロファージによって菌の貪食と殺菌が活発に行われるものと思われます。

以上のことから、 BCGワクチンを接種したヒトに新型コロナの死亡率が低い原因については、BCGの接種によって感作されたTリンパ球が産生・放出したタンパク質に誘導された自然免疫(非特異免疫)の活性化によるものではないかと思われます。

BCGワクチンの「菌株」で有効性に違いがある?

最後に、BCGワクチンに用いられた結核菌の菌株によって新型コロナの死亡率に違いがみられるとの可能性についても聞いてみました。理由は不明のようですが、父が述べた仮説について、私の理解の範囲で以下にまとめます。

世界で使用されるBCGワクチンの菌株の違いを示した地図(Ritz and Curtis, 2009 より)

乳酸菌が免疫機能を増強することが知られていますが、父は過去に乳酸菌の同一種の3株について、マクロファージとNK細胞に対する活性化作用の程度を調べたところ、同一種であるにも関わらず、その作用は高・中・低度の3段階に分かれたそうです。その原因について調べた結果、乳酸菌の細胞壁成分(ペプチドグリカン:数種のアミノ酸と多糖類の複合体)に微妙な差異があることがわかりました。

結核菌の細胞壁には、マクロファージやNK細胞を活性化するミコール酸という脂肪酸が含まれています。

このミコール酸には幾つかの種類がありますが、新型コロナの死亡率が低かったという日本株やロシア株などには、共通してメトキシミコール酸が含まれていたことは、作用の持続性に疑問があるものの、今後解明すべき興味ある課題であるとのことでした。

参考文献
・高橋幸則:ヒトと動物の免疫機能と活性化物質 『食の科学』成山堂書店
・高橋幸則:免疫賦活物質 『環境衛生管理技術大全〈第1巻〉有害微生物管理技術』フジ・テクノシステム社