昨年度の「世界ベスト・レストラン50」の中で7位にランキングされたスペイン・サンセバスチアンに所在するレストラン「ムガリッ(Mugaritz)」のオーナーシェフのアンドニ・アドゥリは4月12日付の紙面『El País』のインタビューの中で「(スペイン)レストランの20%は姿を消す」と語った。この発言の根拠になったのは、コロナウイルス感染拡大の影響でスペインに外国からの観光客が激減していることからである。
スペインの多くの観光業者はもう今年のビジネスでの伸展はないと断定している。だから、一部のホテルでは現在の封鎖が解除された後も閉めたまま今年末まで営業を停止する意向を持っているホテル経営者もいる。観光客が少ない時にホテルを開けていても赤字になるだけだからである。
スペインを訪れる外人観光客は2013年からこれまで年々増加の一途を辿って行った。そして昨年は8370万人がスペインを訪れた。現在世界でフランスに次ぐ第2の観光国となっている。
観光産業の成長に比例するかのように伸展して来たひとつがレストラン業界である。2018年の統計によると、スペインあるレストランとバルの数は27万7539軒で,人口175人につき1軒あるというのは世界でナンバーワンだという。スペインではレストランとバルが一緒になっている店が多く統計もこの二つを合わせたものになっている。
(参照:lasexta.com)
勿論、多くのレストランの顧客はスペイン人が大半で、外人観光客が占める割合はそれほど多くない。しかし、観光地だと逆に外人観光客がレストランの顧客として占める割合は比較的多くなる。特に、ラス・パルマスとテネリフェのカナリア諸島やマジョルカとイビサのバレアレス諸島の場合がそうである。
更に外人観光客に大きく依存しているのが「ミシュラン」や前述した「世界ベスト・レストラン50」にランキングされているレストランがそれである。アンドニ・アドゥリがインタビューの中で「世界70か国以上から来られる私の(レストランの)顧客の訪問無くして店を開けても用をなさない」と語っている。即ち、彼らが彼のレストランに食べに来ないようになると経営は成り立たないといっているのである。
世界のベスト30位までにランキングされているスペインのレストランは6軒ある。それはフランスの5軒を抜いて世界でトップである。因みに、30位までに入っている日本のレストランは「傳」と「Narisawa」の2軒である。
ミシュランのリストだと3つ星は11軒、2つ星25軒、1つ星170軒というのがスペインレストランの内容だ。これは筆者の推察でしかないが、ミシュランにランキングされている多くのレストランも外国からのお客の訪問無くしては経営は難しくなると思う。何しろ、このようなランキングされたレストランの価格は相対的に高い。このようなレストランに固定客となるスペイン人はそう多くはいない。だから、これらのレストランが存在できているのは年々増加して来た外国からの観光客が顧客となっていたからである。
アンドニ・アドゥリのレストランはミシュランの3つ星でランキングされている。彼は「今年は昨年を上回る予約リストが埋まっていた。それが突如(コロナで)我々は押しつぶされてしまい、予約がなくなってしまった」と語った。
そして、「(封鎖が解除されて)外出ができるようになると、徐々に人々はバルやレストランに戻って来るようになる。しかし、これまで大きな危機があった後と同じように、バルやレストランは減少しているはずだ」と語って、危機に耐えることができなくなったところは閉店を余儀なくさせられると指摘したのである。
その中でも「残念なのは品質の良くない店が閉店するのではなく、若い層でプロジェクトをもって比較的最近店を開けたところが閉めるようになることだ」と述べて、危機は若者が店を開けて未来に挑もうとするのを奪って行くことだと指摘した。新しい店は固定客が少ないので危機を乗り越える為の店を応援する客がいないということだ。
アドゥリがそれを指摘するのは、彼の店が2010年に全焼した時にそれまでの固定客が彼の立ち直りを支えたということを彼は熟知しているからである。また、現在の封鎖を皮肉って、「(火災にあった)あの時は負債に直面したが、働くことはできた」と語って、今は働きたくても封鎖でそれが出来ないことが苦痛のようだ。
スペインの観光産業はGDPの12%をこれまで占めて来た。その中には外人観光客がレストランで食事をするのがそれに貢献して来た。ところが、今年のGDPはマイナス8%から15%まで後退することが一般に予測されている。ということで、スペインのレストラン業界も外人観光客が食べに来ることへの可能性は期待が薄い。同様にスペイン人のレストランでの食事もこれから突入する深刻な不況が影響して減少するはずである。