盲目的韓国追随でなく日本の国情にあったコロナ対策を

これは、前回記事「ドラゴンボールで理解する経済再開の為のコロナ対策」の続きです。

4. できるだけはやい経済再開のために私たちにできること

前回記事で「ハンマー」の時に引用した図の全体像を見てみましょう。

専門家会議が「ハンマー」をやめて「ダンスwithコロナ」の時代に移行してもOKなタイミングだと判断する基準として、「クラスター対策が可能な水準まで落とす」というオレンジ色の線が引かれています。

つまり、今後

オレンジ色の線(クラスター対策で対処できる線)>新規感染者数の青い線

が成り立つこと、つまりクラスター対策で処理できる能力の方が感染者数よりも大きい状態を維持できる見通しがたてば、経済が再開できるわけです。

専門家会議の数理モデルを物凄く細かく検証して批判する・・・みたいなことも今結構SNSの中でよく見ますが、彼らの発表するモデルには「ゴールデンウィークに急に人が動かれると困るからちょっと厳し目のこと言っておこう」的な意図も明らかにある(笑)ので、あまりそこで厳密すぎる細部の議論をしても余計に混乱して物事がスムーズに進まなくなるのではないかと私は思っています。

ツイッター「新型コロナクラスター対策専門家」より

むしろ、この不等式

オレンジ色の線(クラスター対策で対処できるライン)>新規感染者数の青い線

を素直に見て私たちができることは、

● 私達が工夫すべきことその1 

・オレンジ色の線をもっと上にあげるにはどうしたらいいか?

● 私達が工夫すべきことその2 

・経済的ダメージを最小にしながら青い線を下に下げ続けるにはどうしたらいいか?

これ↑ですよね?

これを日本国民が共有して、いろんな知恵を出し合って変化していけば、「こりゃ経済再開しても大丈夫だな」っていう判断は前倒しで可能になるでしょう。

では、以下、一刻もはやい経済再開のために私たちにできることを深堀りしていきます。

5. 「オレンジ色の線を上げる」ために私たちにできることは?

先程引用した専門家会議の資料においても、

・保健所における接触者追跡調査能力の引き上げをお願いします
・PCR検査能力の引き上げをお願いします
・医療機関内の連携を見直す事によるキャパシティの増強をお願いします

・・・みたいなことがちゃんと書いてあるんですが、ちゃんと日本政府がそういう「現場が必要だと言ってる武器」を調達する動きができてるかどうか、私たちはシッカリ監視して、つっついて「やれ!!」と声をあげなくてはいけません。

日本という国は「既にある縦割り組織」の範囲内では超凄い仕事力を発揮しますが、こういう広域連携をリードするのがなかなか難しいんですよね。

私は日本とは比較にならないほど大量に死者を出しているアメリカニューヨークのクオモ知事をやたら持ち上げるのはあまり同意できないタイプの人間ですが、アメリカではニューヨークだけでこの接触者追跡調査(いわゆる日本で言うところのクラスター対策)のためにニューヨークだけで1万7千人もの追跡部隊(コンタクト・トレーシング・アーミー)を用意するそうです。

クオモ氏公式flickrより

単に検査数増やせばいいってもんじゃないんだよ、接触者追跡と隔離の方が大事なんだよというインペリアル・カレッジ・ロンドンの論文も出ていますし、単にPCR検査の数を追うんじゃなくて、接触者追跡をシッカリやることが大事なのだ・・・という日本の対策班が常々言っていたことがやっと世界的に理解される流れになってきている。

しかし、その「能力の拡充」は、PCR検査に関する幸薄い罵り合いの影に隠れてしまって全然進んでいません。

日本においてこういう「広域連携」をやるには政治だけじゃ難しいので、メディアがちゃんと「論調」を作ってくれる必要があるんですが・・・

日本のメディアはあらゆる情報が、「これはアベを叩くネタにできるかどうか」みたいなので脳内で振り分けられるみたいなことになっていて、余計に混乱してしまって変化が起きなくなるんですよね。

別に医療の専門家でもない私が、2週間前にこのPCR検査を増やす増やさないという課題について整理した記事が、フェイスブックのお医者さんクラスタなんかにいまだにシェアされ続け、ちらほら英語の感想コメントまで来る状況になっているのは、この問題についてちゃんと「党派性」を離れて冷静に事実ベースで整理する議論がいかに日本に欠けているかを表しているように思います。

つまり、この問題を日本メディアが「党派性(アベ叩きに使えるかどうか)」でオモチャにしてしまうために冷静な議論が全然進まず、余計にPCR検査の適切なレベルの拡充すら進まなくなってしまっているんですね。

PCR検査数問題の詳細についてはリンク先の連載第二回の記事を読んでほしいわけですが、

・検査数を絞りすぎて、体調が悪いと訴えても検査が受けづらい問題

は、今日本の医療体制全体で解決に向かって動いています。「安心のための検査」をやたら受けたがる日本人の性質という他の国にない問題があるのでスムーズにいっていませんが、反政府心情をこじらせてムチャなことをねじこまず徐々に「適切なライン引き」を調整すれば解決していくでしょう。

まだまだ連携に不備があるところも多いから、メディアがちゃんと取材して改善提案してあげてほしい。

一方で、そういう「意味のある情報」とゴチャゴチャに混ざった形で、

・日本国民全員にPCR検査をすべき

みたいなムチャな話が白昼堂々マスメディアで報道され続けているので、余計に混乱してちゃんと取り入れられなくなるんですよね。

日本の検査能力は一日二万件を目標に拡充中という話ですが、国民全員検査するとなったら6000日もかかってしまいますよ。しかもその検査は「たまたまその日かかってなかった」というだけにしかならず、偽陰性が多く出るという検査精度の問題もある。

韓国は大量に検査してる、ってイメージがあるけど、それでも国民の1%程度しかしていません。欧米で、たとえばハーバード大学なんかが最近主張しはじめた「全量検査計画」は韓国のそれとは規模が全然違う話で、(検査部分だけのコスト試算じゃないですが)プラン全体で一回ロックダウンするたびに数兆円とかかける話です。

韓国大統領府FBより

これは死体が積み上がってどうしようもないレベルになっちゃって、しかも自粛してくれって言っても全然国民が守ってくれないアメリカで、それでも経済再開するにはこれぐらいの極端な方策が必要だよね・・・という話であって、こんなことしないで済むならそれにこしたことはないわけです。その数兆円をそのまま休業者経済支援にまるごと回して現金を配った方がいいはず。

3月下旬に感染爆発した欧米からの帰国者を大量にノーガードで市中に放ってしまう大失態を犯すまでは、日本では「クラスター対策と三密を避ける」程度の対処によってほとんど経済を止めずに十分対処できていたし、国立感染症研究所の調査結果にもあるように、ちゃんと武漢経由の「第一波」は完全に収束できている証拠もあります。

「接触者追跡(クラスター対策)」って、人海戦術で聞き取りして電話して・・・っていう感じがローテクっぽくて現代人は軽視しがちで、PCR検査!みたいな科学の香りのするものをとにかく数をこなすほうがいいんじゃないかと思ってしまいがちですが、検査って所詮検査ですからね。

ローテクっぽい地道な作業を「竹槍訓練」とか言ってバカにするのはほんとよくないです。ウィルスとの戦いは戦争じゃないんだから、ネットでちょくちょく話題になっている科学的っぽい見かけのトンデモより、単なるうがい手洗いの方がよっぽど大事だったりするわけで。

さっきのニューヨークの話の「コンタクト・トレーシング・アーミー」も、「感染者からインタビューして追っていってみんな検査する」という、めっちゃローテクっぽい話を徹底してやる話になっています。

恐れず、徹底的に地道な作業をやれる体制を整えて、堂々と経済を再開させていきましょう。

今日の掲載はここまでです。明日以降に掲載される次回では、この混乱期に「民主主義」を本当に守るためには、日本にありがちな「盲目的な反体制という名の体制」のようなものを打破することが必要なのだという話をします。

  • この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。
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倉本圭造 経済思想家・経営コンサルタント
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