アパレルの不沈戦艦、レナウンの自沈

レナウン公式サイトより編集部引用

アパレル大手のレナウンが法的整理手続きに入りました。事実上の倒産です。直接の原因は親会社である山東如意科技集団への売掛金未回収でキャッシュがまわらなくなったことですが、それ以前に駄目な日本企業の典型な企業で変革ができないことが原因でした。

アパレル激震(上)「トップ不在」 レナウン漂流の末路   仲良しで固められた「部長級」経営陣 百貨店依存、戦略描けず(日本経済新聞)

レナウンの社名は1922年(大正11年)英国皇太子(後のウィンザー公)が訪日した際に乗船していた巡洋艦の名前からとった。戦艦レナウン号は第1次世界大戦を勝ち抜き、第2次世界大戦では英軍として唯一、生き残った戦艦だった。

中興の祖的な存在の元会長の遺言に従いレナウンの社長になった人物は1994年、バブル崩壊の不振の責任をとる形で代表権をもったまま副社長に降格を決め、代わりに気心の知れた人物を社長に据え、社内で実権を握り続けた。取引銀行幹部は「部長か課長が社長をやっていた」と厳しい表情で語っていた。

レナウンの主要な販路は百貨店で、百貨店の成長とともにレナウンも大きくなる構図だ。百貨店の出店戦略、売り場構成などに依存してしまい、レナウン自らが戦略を深く考えることはなかった。一方、百貨店側はレナウンの気を損なっては商品調達に支障が起きるため、腫れ物に触るような対応となる。

仲良しで固められた経営陣にバブル崩壊、デフレによる経済変化、そして、ファーストリテイリング、ネット通販などの台頭に対応する力が無いのは明らかだった。

それでもレナウン経営陣には危機感は薄かった。取引銀行やM&A(合併・買収)仲介会社がレナウンの書類を持ち、アパレル、ファンド、家電量販店などに話を持ちかけてはみた。先方が興味を示して交渉の段階になるとレナウン側は「他とも交渉したいから」と時間稼ぎをした。M&A仲介会社のトップは「助けてもらいたいはずのレナウンが、相手先を『選ばせてほしい』とは本末転倒」と漏らした。

危ない会社ほど当事者意識と能力がない典型例です。レナウンは数百万円の小さな取引でも商社を噛ませて口銭を払っていました。利益を上げる体質がではなかったということです。

社内は金太郎飴的で社内文化と社内政治に通じていることが最も大事だったでしょう。外の世界を視る意識がなかった。また分社化して、そのトップに権限を与えたり、外部の有能な人間を入れることもしてこなかった。

日本の駄目な組織の典型例です。バーバリーから見放されて経営不振が確実だったのに、自社ビル立てちゃった三陽商会も大変でしょう。

コロナ騒ぎで健全な会社が不運で倒産や整理は避けなればならないと思います。ですが当事者意識&能力がなく漫然と放漫経営を続けていた会社が無くなるのはいいことでしょう。大きな会社であれば即座に無くなるわけではないでしょうし、再建を引き受ける会社も出てくるでしょう。

その場合、経営陣は相応のけじめを取らされて追放され、また高給とって働かない、あるいは若手の足を引っ張るだけの中高年は解雇されるでしょう。

藤原正彦元お茶大教授がいうような「いい大学をでて、良い企業に就職」すれば一生安泰という時代ではありません。親が知っている(広告費を多く使ってコンシューマー向け製品を売っている)企業に入れば安泰と思っている人は、実は大きなリスクを背負い込むことになります。

この手の会社にはいると社内事情だけは詳しくなって他流試合の実力がなくなります。転職するにしても「部長ならできます」みたいな人になってしまうわけです。

若い頃広告業界にいた時代のことですが、中外製薬の新聞の企画広告で故大林宣彦監督と女優の栗原小巻さんの対談を企画して、クライアントの課長もOKだして勧めていたのですが、途中から広報部長が「俺は大林なんぞ知らん」と言い出して中止になりました。ぼくは菓子折りを持って両氏の事務所に頭を下げにいきました。

大林監督はその頃映画監督としてもすでに著名でしたが、元々CM監督の大家でした。その大林監督を知らないというのは広告マンとして、自分は無能と公言しているようなものです。

現在もこのような無能で、部下の足を引っ張るような人間が相応の地位についているのが日本の大企業の病の深いところです。これでは中国企業には勝てません。

Japan In Depthに以下の記事を寄稿しました。

European Security & Defence に以下の記事を寄稿しました。
Hitachi wins Japanese bulldozer contract

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。