事業展開のケーススタディ 楽天はどこへ?

岡本 裕明

楽天が20年1-3月期の決算を発表し、353億円の最終赤字となり第1期四半期決算としては18年ぶりの赤字となっています。この赤字はコロナから生み出されたわけではなく、新規に行っている携帯電話事業(MNO:移動体通信事業者)の立ち上げの費用がかさんでいることであります。

(編集部)

(編集部)

楽天が念願のMNOとしての許可をもらった時の三木谷社長の満面の笑みは印象的でした。三木谷氏は日本興業銀行(現 みずほ銀行)を辞め、サーバー一つでビジネスができる現在の楽天市場を作り上げました。これはモール型ビジネスと称するもので出店者がインターネット上に集まりその出店者が顧客に販売するという仕組みに特徴があります。わかりやすく言えば、「アマゾン百貨店」で購入すればアマゾンの包装紙にくるまれるのですが、楽天市場は「名店街」なのでそれぞれの店の名前でビジネスをして楽天は場所貸し不動産業のような立場になります。これは「仮想市場」であり、三木谷氏の祖業でもあるのです。

その後、同社が手掛けた一つに携帯電話事業があります。しかし、これは上述のMNOではなく、NVNO(仮想移動体通信事業者)であり、MNOの持つインフラを借りてビジネスする一種の「賃借」であります。同じ「仮想」でもモールは大家、携帯電話事業は賃借となればここはどうしても大家になりたかった、という説明が一番わかりやすいのだろうと思います。

楽天の社内ではモールについて「仮想市場」ではなくアマゾンのように自分で仕入れて自分で売る本当の商売をするべきではないかという議論もあるようですが、三木谷社長は「祖業」という理由で頑としてそこは譲らないようです。

ということはせっかく携帯電話事業で「仮想」が取れるのに本業は引き続き「仮想」が続くという奇妙な状態を許すということにもなります。

楽天の決算からは見えるのはフィンテック事業であり、楽天カードや証券部門が順調に成長しており、同社の柱になってきています。アマゾンが本業よりAWS(アマゾンウェブサービス)で稼いでいるのと同じです。この手のビジネスモデルは消費者とのコミュニケーション手段であるショッピングサイトを通じてより派生ビジネスに引き込むインフラ型ビジネスであります。そして派生するビジネスは独自の成長を遂げていくという点も似ているのです。同じことはヤフーにもいえ、同社の場合はポータルサイトというインフラから様々なビジネスにつなげていこうとしているわけです。

三木谷社長の戦略でわからないのはせっかく築き上げたビジネスモデルのインフラそこにあるのに更に携帯電話事業でもう一つインフララインを作ろうという点です。しかも携帯事業は既に仮想というMVNOを通じて200万人以上の顧客を持っています。それなのにそのMVNO事業を中止し、多額のインフラを行い、MNOに切り替える価値がどれだけあるのか疑問なのであります。

ソフトバンクの孫正義社長がアメリカの携帯会社「スプリント」を買収したのは日米の携帯事業の成長性を考えたものでしたがご本にとって最大級の苦戦を強いられた案件でした。インフラ事業は黎明期であればよいのですが、それを超えるとほとんど市場シェアは動かなくなります。理由は差別化しにくくなるからです。

2015年の携帯市場のシェアはドコモ 42.5%、KDDI 27.4%、ソフトバンク 24.7%です。それからほぼ5年後の現在はそれぞれ38.1、27.9、21.4%とMVNOに若干市場を食われていますが、ほとんど変化がないのです。つまり、フェアシェア理論で行くとガチガチに固められた差別化しにくい市場だということになります。しかも価格で勝負するならもともとやっていた格安携帯のMVNOとの違いをどう見せるのか、という疑問も残ります。

楽天はモールの運営についてモール出店者の送料負担を巡る話題もありました。個人的には三木谷社長にやや焦りを感じます。同社が抱える数多くの事業で唯一、マイクロマネージメント(直接的に手を下す管理方法)をやっているのは携帯事業ともいわれます。しかし、私には楽天のビジネスモデルそのものをより進化させていかないと「名店街」では次のステップに踏み込めないと思っています。

勿論、次が何かわかっていれば苦労はないのですが、あのアマゾンですら迷路にはまり込んだような試行錯誤を繰り返しています。それは顧客目線で見るとサービスの押し付けに走っているようにも見えるからです。

例えばAI技術を使って「このような商品もご覧になっています」はそのお客さんの購入や閲覧履歴をベースにビックデータと照らし合わせて同じような傾向を指し示すことであり、一種のブームでもあります。しかし、顧客はsomething new(何か新しいもの)を求めているのであり、ビジネスをする私からは「逆AI手法」、つまり、いままで興味を示さなかったこんな分野はどうでしょうか?という攻め方もあると思うのです。

個人的にはあちらこちら手を広げずに手持ちの事業を時代の流れに合わせて展開するアセットライト手法が本来あるべきスタイルですが、三木谷社長は現状、権利の転売できないこの携帯事業にどっぷり浸かってしまったようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月18日の記事より転載させていただきました。