元に「戻す」ではなく、新たに「作る」③ 今こそ能動的学びと教育力(前編)

ピンチとは、「変革・イノベーション」の絶好のチャンスー

当初は周囲や自分を鼓舞するため発していた言葉でしたが、オンライン教育を進める中で、その言葉が事実であることを日々実感しています。

コロナ発生当時、「これからはICT教育の時代になる!」と直感し、作新学院ではICTの教育活用に向けた戦略会議を、2月下旬発足させました。

最初は手探り状態からスタートし、トライ&エラーを積み重ねることで一歩ずつ進化して来たオンライン教育も、最近では徐々に軌道に乗り始め、当初はICT活用に前向きではなかった幹部教諭も、今では率先してオンライン教育の高度化に取り組んでいます。

こうした中、従来の登校型教育にはないオンライン教育のメリットも、生徒と教諭双方で見られるようになってきました。

生徒へのオンライン教育のメリット

オンライン教育が生徒たちにもたらす第一のメリットは、「能動的」で「積極的」な学習姿勢です。

以前ですと教諭が質問をしても、人前ではなかなか答えられなかった生徒たちが、オンラインでは人の目を気にすることなく、自分の意見を積極的に発表できるようになりました。

オンラインですと、意見の集約も瞬時にできますので、今後、端末や通信回線の環境が整備されて行けば、各児童・生徒たちからの意見を授業中に教諭が集め、その結果をすぐに生徒たちに伝えて、さらに考察や議論を深めるという授業展開が可能となります。

また、従来ですと一方的・一過性で終わってしまう授業も、動画配信による授業ならば巻き戻しながら何回も視聴し直すことができるので、各児童・生徒たちが自分のペースで理解を深めることができます。

一方、これまでは予習などして来なかった生徒たちが、オンライン授業ですと通信状況の問題もあり、初見の内容だと分からなくなってしまうので、予習をするようになったという思わぬ効用もありました。

いずれにしても長引く休校とオンライン教育が、授業への参加意識や主体的に学ぶ姿勢を高めていることは事実と言えます。

第二のメリットは、「多様な学び」の機会です。

今や情報環境さえ整っていれば、すべての児童・生徒・学生はオンラインを通じて世界中の優れた授業や教材に、好きな時に好きなだけアクセスできる時代となりました(もちろん、そのためには語学力も重要なポイントですが)。

子どもたちにとって学びの機会が多様化し、一人ひとりの理解度や興味・関心に応じて、オーダーメイドでベストの学習環境を作り上げることができるのは、素晴らしいことだと思います。

ただ教える側にとっては、世界中すべてのコンテンツがライバルとなるわけで、学校という組織としても従来の教育のあり方を根本から問い直して行かねばならない、大変厳しい時代が教育界に到来したと認識しています。

第三のメリットは、なぜ学ぶのか、何を学ぶのか、「自ら考えを深める」機会の増加です。

コロナ危機は、これまで受験勉強や習い事に追われていた子どもたちに、人生や社会、世界や地球について考えを深めるための機会や時間を与えてくれました。

この経験は未来を切り拓く子どもたちにとって、何よりのチャンスであり「生きた教材」であると思います。

子どもたちは自らオンラインにアクセスすることにより、社会や世界の動きを知り、コロナを封じ込めるための科学的知識を深め、新たな生活様式に対応した活動方法や娯楽を、大人顔負けの自由な発想力やしなやかな適応力で生み出して行くことでしょう。

オンライン教育は「自らの学び(主体的教育)」を加速させ、特に中等教育では、こうした主体的教育において、方向性を示したり、選択肢を与えたり、助言をしたりという教育の割合が、次第に増えて行くのではないかと思います。

コロナ危機を契機として学校も、教科書や学習指導要領で定められた学習とは別に、アクティブラーニングなど独自の「学び」の機会を提供できないと、その存在理由を失っていくのではないかと思います。

[後編]に続く


編集部より:この記事は、畑恵氏のブログ 2020年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は畑恵オフィシャルブログをご覧ください。