新しい”消費”生活様式とは?新型コロナで変わる前提 --- 三宅 隆之

東京・大阪を中心とする、特定の都道府県を除いたエリアで緊急事態宣言の解除が発表されました。そしてまだまだ予断を許しませんが、今後の経済活動の再開に向け、社会全体が徐々に次のステージに進み始めていると感じます。

では会社の事業活動ということを考えてみた場合、再開において考えるべきことは何なのでしょう。

1つは緊急事態宣言で制約が掛かっていた、既存の事業活動を速やかに回復させること。いわば、マイナスをゼロにするという活動です。そしてもう1つは、今回の緊急事態宣言が及ぼした社会・生活者への変化を機会と捉え、自社の事業を拡大すること。つまり、今まで存在しなかった、自社商品・事業の需要を創造する(ゼロをプラスにする)活動も同様に重要だと考えています。

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私は日々、様々なお客さまからのご相談を受け、マーケティング活動の支援をしていますが、当然ならほとんどのお客様の事業は「相談にくる=課題を抱えている」わけです。「いままで順調だった商品の売り上げが停滞してきた」「新たな事業を立ち上げたいが、どうすればよいかわからない」など様々な悩みをお持ちです。

このお悩みを解決するために、私達が最も大事にしているが「一般の方が持つ、そのクライアントの事業・商品に対する”パーセプション(認識・捉え方・感じ方)”」を、どう望ましいもの変えていくかということです。

ただこれは簡単ではありません。「うまくいっていない=その事業・商品にとって望ましくないパーセプション(認識)が世の中の大勢」ということが前提。さらに人間というものは(私も含めてですが)基本的には「大きな問題がないならば、現状はそのままでよいと認識する(=つまり、物事は変える必要はないと認識し、習慣的に・同じことをして過ごすのが好き)」な生き物だからです。

というと「私はそんなことはない!」という方もいらっしゃるかもしれません。確かに好奇心旺盛で、いろんなものを取り入れるのが好きな方もいらっしゃいます。

ただそんな方でも、1日の中で無数にある商品の選択時のすべてでチャレンジをしているでしょうか?

例えば買い物をした時、レシートに書かれた商品のほとんどは「いつもの物を習慣的に買う」という購買行動をしていると思います。そんな前提に立った時、商品に対するパーセプション(認識)を従来とは異なる、好ましいものに変えていくということが、いかに容易ではないか分かって頂けるかと思います。

ただ今回のコロナウイルスは、その前提が変わりました。望むと望まざると、すべての人に大きな「生活様式」の変化を強制的にもたらしたのです。通勤・通学、そして外出・外食。この生活様式の強制的な変化が起こる中、様々なカテゴリーにおいて「”消費”生活様式」の変化が起こっていると感じます。

例えで、私の友人(男性)の話をします。

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彼はコーヒーを飲むことが大好きで、出社する際にはコーヒーショップ or CVSでコーヒーを買って会社に行っていたそうです。それがテレワークでずっと家にいることで、自宅でコーヒーを調達する必要が出てきて、初めて「インスタントのコーヒー」を物色し始めたそうです。

そしていくつか試して現在はある銘柄に落ち着いているのですが、これが以前に買っていたコーヒーと比べ、価格がリーズナブルかつ、味もまあまあ。となると「コーヒーはこれでいいじゃん・これからはインスタントでいいよね」というパーセプション(認識)転換が彼に起こったというのです。

コーヒーショップ・CVS側はたまったものではありませんが、インスタントコーヒーメーカーにとっては「千載一遇」のチャンスです。今までも様々な企業努力により「インスタントだけど本当の味わい」という訴求をいくらしても「インスタント=それほど高品質のはずがない」という認識だった人に、私の友人に起こったような「インスタントも結構よい」というパーセプション(認識)転換が相当数起こったとすれば、随分マーケティング活動も変わってくると思います。

コロナが沈静化したら、確かにいろいろなことが元通りになってくるかもしれません。そして事業活動において、既存活動の立て直しはもちろん重要です。ただその中で「新たな生活様式」ならぬ「新たな”消費生活”様式」に注目することは、事業の拡大・成長という観点において、各方面で一大関心事になってくるのではないか、と予想しています。

三宅 隆之(みやけ  たかゆき)消費者行動アナリスト。株式会社インテグレート執行役員
2児の父。ランニング中毒者(月間走行距離は200km超)。「日本のマーケティングのここが変」「生活者に買いたいと思ってもらえるルール・コツ」についての気づきを発信していきます。株式会社インテグレートHP