南米の1世紀前の大国、アルゼンチンで超富裕層を対象にコロナウイルス感染に取り組む為の特別税の徴収を検討しているようだ。
人口4500万人のアルゼンチンは貧困者1600万人、400万人は極貧者。2019年のインフレ54%、失業率9%。2015年から2019年までに閉鎖した企業は2万社。消費は28%落ち込み、最近4年間で10%の富裕層と10%の貧困層の所得の差は16倍から21倍に開いている。(参照:clarin.com)
また、コロナウイルス感染の影響でIMFによると、今年のGDPはマイナス5.7%になる見込み。同様に世銀もマイナス5.2%と予測している。そのような国が国家の回復に必要な資金をどこから集めることができるのであろうか。EUのようにEU自身あるいは欧州中央銀行によるEU加盟国への資金給与や債務の買い取りなどがラテンアメリカには存在がない。
だから唯一ラテンアメリカが頼るのがIMFである。しかし、アルゼンチンもそうであるが、ラテンアメリカ諸国ではIMFについて良い印象をもっていない。債務国に対して極度の財政緊縮策を迫るからである。
しかも、アルゼンチンはマクリ前大統領の政権時に異例の570億ドル(6兆2700億円)もの多額の融資枠を貰ったが、その中で実際に融資してもらった資金の償還もできない状態にある。しかも、政府の資金難から負債に対する金利の支払いだけで昨年は政府歳出の15%を占めた。(参照:clarin.com)
また前政権下での経済の低迷が影響して税金による政府の歳入もこれまでと比較して29%少なくなっている。(参照:elconfidencial.com)
財政的に非常に厳しい状況下にあるのが現在のアルゼンチンである。
そんなアルゼンチンでアルベルト・フェルナンデス大統領と彼を囲むスタッフが、新型コロナウイルス感染による「救援金」の財源確保のために捻り出したのが、アルゼンチンの超富裕者を対象に彼らに税金を課すという案である。
※下記ツイッターの写真が、アルベルト・フェルナンデス大統領(中央)のチーム。マルティン・グスマン財務省(右後方)、マクシモ・キルチネール(右前方)、カルロス・エレール(左)マルティン・グスマンはジョセフ・スティグリッツの門下生
仮にこの特別法案が可決されるようになると、1万5000人の超富裕者が課税の対象にされ、その税率によって徴収できる総額は異なるが、政府が推定しているのが38億ドル(4140億円)の歳入を見込んでいるという。
政府が超富裕者と見なしているのは国内或いは外国に1億ドル(110億円)以上の資産をもっている人物を対象にしている。その数が1万5000人いると政府は見ているのである。尚、歳入庁は超富裕者の資産の40%が外国にもっていると推定している。(参照:clarin.com)
その草案を作成しているのがクリスチーナ・フェルナンデス副大統領(元大統領)の息子で議員のマクシモ・キルチネールと国家予算委員会の委員長カルロス・エレールの二人とそのチームである。ちなみに、父親キルチネール元大統領そして母親フェルナンデス元大統領の資産を一部譲ってもらったマクシモ・キルチネールも富裕者であるが、彼の資産は1億4300万ペソ(2億3400万円)ということでこの草案の課税対象者ではない。(参照:lanacion.com.ar:clarin.com)
カルロス・エレールはこの草案の作成にあたって「これは誰かを差別して追跡するキャンペーンではない。資金を調達せねばならないという必要に迫られているからだ。人の生活条件や、また富の集積形態を変えようとしているのではない。今それが無限に必要とされているのだ。それを踏まえて資金がどこにあるか探している」と語った。(参照:clarin.com)
この特別法案の議会への提出の具体的な日程はまだ決まっていない。しかし、大物議員セルヒオ・マサ下院議長はこの可決に向けて議会の招集をコロナウイルス感染を避けるべくビデオ議会という形で行うための技術的な問題の解決に現在取り組んでいる。
一方、上院議長を務めるクリスチーナ・フェルナンデス副大統領は、ビデオ議会の実施が憲法上において合法であるかそれを確かなものにするための議会運営審議官にそれを尋ねているという。可決されたあと、ビデオ議会が非合法だと断定されないためである。
いずれにせよ、超富裕者を含めた富裕者を対象にした課税はどこの国でも計画通りに徴収できたためしがない。彼らは税金逃れのための策を色々と講じることができるからだ。しかも、彼らの資産のほぼ半分近くが外国に預けてあるとうことだ。今回の法案は単に見せかけの課税策で終わりそうだ。ということで、アルゼンチンの経済回復はまだまだ遠い先になるであろう。