中米の貧しい国の1つ、エルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領(38)は、同国に蔓延る若者の暴力組織に対して「警察と軍隊は自らの生命と市民の生命と安全を守る為に彼らの犯罪を取り締まるのに必要とあらば死に至らしめる手段を講じても良い」と表明した。「目には目を…..」としたのである。(参照:abc.es)
Nayib Bukele autorizó el uso de la fuerza letal para enfrentar a las pandillas en El Salvador que “se aprovechan de la pandemia” https://t.co/dSb7zB18A1
— infobae (@infobae) April 27, 2020
というのも、最近まで若者による殺害事件は減少していた。ところが、コロナウイルス感染拡大で軍隊と警察がその方面の拡大防止に取り組んでいる隙をぬってまた彼らによる殺害件数が急増したというのが今回のブケレ大統領の決断を誘ったのである。
エルサルバドルには2つの狂暴な若者の暴力組織が存在している。マラ・サルバトゥルチャ(Mara Salvatrucha: M-13)とバリオ18(Barrio 18: B18)だ。この2つの組織が誕生した背景には、彼らの家族による米国への移民がある。
それは丁度エルサルバドルが内戦下にあったことが影響している。彼ら若者は幼少の頃にその内戦の残虐さを見て育ったのである。そして家族と一緒に内戦を逃れて米国に移民したが、彼らの家庭は貧困で米国社会から差別的な境遇を受けた。そこで自分たちを守ろうとして結成したグループがM-13である。
彼らが行使する暴力は内戦で見た残虐さを再現させたような凶暴さであった。それに手を焼いた米国の治安当局は彼らを本国エルサルバドルに送還させたのである。それがM-13がエルサルバドルで蔓延るきっかけとなった。
その後、それに対抗して生まれたのがB18であった。なお、B18は現在2つのグループに分かれている。「B-18夢」と「B-18革命」である。
この数年、彼らによる殺害事件は減少していた。今年3月も65人が殺害されただけで、これまで一番低い結果となっていた。その背景には新しく2か所の刑務所を建設し彼らを収監させて完全に外部との接触ができないようにしたからだ。更に、暴力組織の基盤となっていた都市サン・ペドロ・スラを徹底して取り締まった。また、彼らと癒着していた警官も解雇した。このような努力が実ってこの数年彼らによる犯罪は減少していた。例えば、2015年に10万人あたり年間で103人が殺害されていたのが、昨年は36人まで減少した。
(参照:infobae.com)
ところが、コロナウイルス感染拡大で警察と軍隊はその拡大阻止に集中し、暴力組織への取り締まりが手薄になっていた。その隙をぬって犯罪組織は4月24日には24人を殺害、25日は8人、26日には19人ということで僅か3日で51人を殺害するという事態が発生したのである。
この急激に増加が復活し始めたのを重く見たブケレ大統領は警察と軍部に向かって「自己防衛並びにエルサルバドル市民の防衛のための致死力のある実力行使は許可される」とツイートで大統領の考えを伝えたのである。。更に「正直な市民の生命を守ろうとして不当に批難された場合も政府がそれは正当防衛であると弁護する意向だ」とも付言した。
(参照:abc.es:laprensagrafica.com)
同時に政府は彼ら犯罪組織のメンバーを収監している刑務所に対しても非常事態を発令と同時に監視を強化。当初、この2つの暴力組織ごとに刑務所を分けていたが、今後はひとつの独房に異なった暴力組織のメンバーを収容することにした。そうすることによって、リーダーや幹部が外部とコンタクトを控えるようにさせたのである。一つの独房に複数のグループのメンバーが収容されていれば、ライバルへの情報漏れを警戒して外部への指図を控えるようになるはずだと判断したからである。
現在、安全警備体制の維持に2万3000人の警察と7000人の軍人が当たっているが、これまでの経験から、彼らが権力を乱用して人権を犯してまで犯罪防止に動く可能性もある。というのも、これまでの経験から安全を守る警察や軍隊が法外な強硬手段を用いて犯罪組織を取り締まったことがあったからだ。
大統領の政党は第3政党で弱小政党ということもあって、ある法案を可決させるにも軍隊を議事室に入れて他政党の議員が賛成するように脅迫するということもあった。ブケレ大統領は独裁者になりつつあるという批判もある。しかし、彼の任期は2024年までで、彼の政党が弱小ということもあり、議会制民主政治を尊重していると暴力組織に対抗する適切な手段を行使できないとブケレは考えたようだ。