すでにGDP速報値(1〜3月期)は2四半期連続でのマイナス。4~6月期は▲20%を超えるとの予測もある中、V字回復への道をたしかなものにするために、まずは、第2次補正予算を充実させねばなりません。自民党は2次補正編成に向け、4つのプロジェクトチーム(PT)での検討を進めてきましたが、私はその中の「資本性資金の供給」PTに所属し、経営難に苦しむ企業への資本支援策の議論に参加しています。
重みを増す「経済安全保障」
雇用や地域経済をいかに守るかと言う命題は、すでに十二分に突きつけられている通りです。
そして、これは同じくらい重要な割にいまひとつ世の中の関心が高いと言えないのですが、日本経済の現下の危機に便乗し、日本の国益を損ねるような外資による企業買収などを未然に防ぐことがもうひとつの大きな課題になっているのです。いわゆる「経済安全保障」の問題です。
ひと頃前まで「経済安全保障」という言葉は政治家、官僚、学者など間での“業界用語”だったと思います。それがここ最近、読売新聞が10回も連載をし、BSフジの2時間番組でも取り上げられるなど、にわかに認知度が広がっているように思います。
大きなきっかけは政府のNSC(国家安全保障局)に4月から経済班が設置されたことでしょう。経産省、総務省などから人員を集め、5Gやサイバーセキュリティ対策、AIなどの最新技術の保護などに取り組んでいます。
もともと「経済安全保障」の概念自体は、古くからありました。安全保障というと軍事を思い浮かべますが、それは狭い意味でのこと。経済、国益を守ることも不可分で、それこそ太平洋戦争で日本が南方の油田地域に進出し、戦後もシーレーンの安全確保に血道を上げてきたわけです。
近年は激化する米中貿易戦争において、トランプ政権のファーウェイ制裁がまさに象徴的な事例で、通信網の安全確保が名目でした。自国の経済と技術を守ることが国家の死命を制するという認識に立っているわけです。
ドイツでは国が買収防衛支援
そして、いま新型コロナ渦中で各国の経済対策はすでに経済安全保障の観点抜きに語ることができなくなっています。
先述したアメリカ以外でも、たとえばドイツでは中国がここ数年、ロボットや自動車部品、精密機器などの製造業者に対して積極的なM&A攻勢に乗り出していたため、国による規制を強化しています(参照:JETROレポート『中国からの直接投資とドイツのジレンマ』)。
コロナの経済対策で設置した72兆円規模の「経済安定化基金」でも、12兆円ほどは重要技術を持つ企業の資本注入に充てており、国による買収防衛の目的も公にしているようです(参照:日経ビジネス細川昌彦氏コラム、JETROビジネス短信『中小企業への給付金など、新型コロナ経済対策を大幅拡張』)。
そして、ここにきてトランプ大統領が中国との断交を示唆するなど、米中の対立がまたピークになろうとしています。日本はいたずらに中国と事を構える必要はありませんが、しかし、アフターコロナの世界はグローバリズムからの揺り戻しという大きな波が襲ってくる可能性が高く、日本としては国内の雇用、景気対策と並行して先手を打っておかねばなりません。このあたりも自民党の「資本性資金の供給」PTで討議する内容に入っています。
サプライチェーン回帰と国家ファンド
もちろん、サプライチェーンの国内回帰にはかなりのコストがかかるわけですが、これに補助金をつける(既に2,200億円が一次補正で措置済みだが、全然足りていません!)、あるいは減税等の措置を行なって支援しなければなりません。
中国には、自動車以外も、電子部品、建設機械、家電、医療機器など多種のジャンルで数千社の日系企業が進出しており、喫緊の課題です。
もうひとつ、日本の国益にとってセンシティブな技術を持つ企業のM&A対策も不可欠です。先述したドイツのように基金を創設して活用するのは一手でしょう。ある日本の大手自動車メーカーが中国資本のターゲットとして取り沙汰されていますが、早めに対策を打たねばなりません。
ただし、日本の場合、ドイツほどの財政的な余力がありませんので、直接的な財政出動だけでなく、政府系金融機関による「国家ファンド」の活用も検討すべきところです。
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秋のアメリカ大統領選の結果次第で、米中関係に変化が生まれるかもしれませんが、中国を脅威としてとらえるのは超党派の認識という見方もあります。いずれにしても日本としては世界の趨勢にも目を向けながら、コロナ経済対策を打っていくべきで、その一歩目、二歩目がこの補正予算と支援策になります。