天馬社の経営権紛争-注目される監査等委員会の動向

5月27日の日経ニュースでも取り上げられていましたが、プラスチック成型大手の天馬社の(株主総会を前にした)経営権争いが厳しさを増しているようです。当ブログでは、当初は天馬社の外国公務員贈賄事件に注目しておりましたが、どうも(このたびの海外贈賄事件については)従前からの創業家間における経営権争いが表面化する契機となった意味のほうが大きかったようです。

(天馬社HPから:編集部)

27日は会社側、大株主側双方からリリースが出ていますが、私的に注目したのは大株主側(前名誉会長側)の立ち上げたHP「天馬のガバナンス向上を考える会」のリリース内容です。海外贈賄の事実を知った経営陣が、会社対応を協議する場に監査等委員である取締役らを除外していたという事実が読売新聞で報じられ、私的にはとても悲しい気分になりました。

しかし、その監査等委員会は「取締役責任追及委員会」を設置していたのですね(資料4シート参照)。3名の監査等委員の方々が創業家出身者を含めた取締役の責任追及に動くとは。。。うーん、これは驚きました(といいますか、こんな重大な事実については適時開示の対象にならないのでしょうかね?実務の詳しいところは存じ上げないのですが・・)。

ひょっとすると、これだけ監査等委員会に独立性、中立性があるからこそ、不祥事対応の場面で疎外されていたのかもしれません(勝手な推測ですが)。しかし天馬社が定時株主総会を控えて、現経営陣および大株主のいずれの側からも取締役選任議案が上程されているわけですから、監査等委員会として、さらに果たすべき職責があるはずです。そうです、平成26年会社法改正以来「抜かずの宝刀」とされてきた監査等委員会の経営評価機能の発揮であります。具体的には会社法342条の2、第4項に基づく取締役選任議案に対する意見陳述権の行使です。

ちなみに、会社法342条の2、第4項の条文とは、

監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任若しくは解任又は辞任について監査等委員会の意見を述べることができる。

というものでして、監査等委員会設置会社には指名委員会、報酬委員会が設置できないので、そのかわりに(指名委員会等設置会社における委員会に準ずる役割を果たすために)監査等委員会が取締役の人事議案や報酬議案に関する意見を形成し、意見があればこれを株主総会において陳述する権利があることを規定しています。

なお、平成26年改正会社法制定当時の立案担当者(法務省大臣官房参事官)の方の解説によれば、

・・・そして、監査等委員会が選定する監査等委員が、株主総会において業務執行者を含む取締役の人事についての監査等委員会の意見を述べることによって、監査等委員会の意見が広く株主に知らされ、株主による議決権行使に影響を与え、株主総会における業務執行者を含む取締役の選解任および報酬等の決定を通じた株主による監督も実効的に行われることになります

とのこと(坂本三郎編著「一問一答平成26年改正会社法」42頁)。そしてこの趣旨を受けて、会社法施行規則74条1項3号により、監査等委員会の意見の内容(正確には「意見の概要」)は、株主総会参考書類において開示されることになっています。

大株主と現経営陣との間で経営権紛争が表面化した以上、一般の株主にとってはまさに監査等委員会の意見を聴取したい場面です。少なくとも、社内の業務執行を担当してきた会社側提案の取締役候補者については、選任されることが妥当かどうか、監査等委員会としては意見を陳述すべきではないでしょうか。もちろん「意見陳述権」なので、監査等委員会から選定された監査等委員は意見を述べる法的な義務はありません。ただ、こういった場面のためにこそ、監査等委員会には経営評価機能を果たすことが期待されているわけでして、今後の天馬社における監査等委員会の動向には注目が集まるものと思われます。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。