先日、収録と放送中止が発表されたフジテレビ系のバラエティ番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さんの死が大きな問題になっています。番組の中身までは説明しませんが、今回の件、自殺であることとその原因がネット上における誹謗中傷ということはほぼ間違いないようです。私もこれまでネット上で誹謗中傷を浴びてきましたから、誰よりも深く受け止めています。
もちろん、私の意見や態度に対しての反論、その言葉がとげとげしかったり、かなり激しいものであっても自身のおかれた立場を考えれば仕方がないなと受け止めてきたところもあります。しかし、事実とは全く違うことであったり、事実そのものがないことを書かれたり、言われたりすることは当然受け入れるわけには行きません。
そういったことをいくつも経験しました。例えば、某週刊誌の週刊現代を訴えたこともあります。その時は、全面的に勝訴し、裁判所からの命令で週刊現代が謝罪文と訂正文を出しました。けれども、ネット上にはその延長線上の情報がいまだに載っています。当然ネットでそうした書き込みをしている人を訴えることも考えました。ところがハードルが高いんです。まず匿名人物を特定することの難しさ、もともとこちらはお金が欲しいわけではありませんが、賠償金支払能力などです。さらには、仮にそのことまでたどり着いたとしても、そういった人たちは名前や発信元を変えて引き続き嫌がらせをするという可能性も十分にあるわけです。
そして世の中の無理解というのがありますね。私も言われましたが有名人だったら有名税と言われ、政治家という立場でもありましたから当然だと考えられたり、「火の無い所に煙は立たぬ」というような言われ方もありました。
先ほどハードルが高いと言いましたけれども、そのハードルの一つがネット事業者です。今回の場合はSNSの事業者ということになりますけれども、そうしたネットへの書き込みや画像の削除を事業者に求めてもまず応じません。書き込んだ相手を特定する情報開示は本当に複雑です。裁判を前提に弁護士を入れてやらなければいけないし、それでも応じるかどうかわかりません。私の場合はヤフーやグーグルに対して行いましたけれども全く駄目でした。ですから、国会議員時代にはそうした法整備にも取り組みました。児童ポルノ禁止法改正を私が手掛けた時もそうでしたが、「表現の自由」が問題となってなかなか進みませんでした。
実は今回、総務省は匿名発信者の特定を簡単にすることなどの法的な対応について先月4月30日に「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を開催し、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の在り方等について検討を始めていました。これ、被害に遭っている人だけの問題ではなく、まさに表現の自由そのものが危うくなっていくということでもあります。プロバイダの責任制限法がありますが、これにとどまらず効果的な法改正と法整備をぜひ進めなければなりません。
私の場合、私の敵対政治勢力が仕立て上げたと裁判ではっきりした女性の画像がいまだに出ていたり、朝鮮からの帰化などと事実と異なる件、誹謗中傷などネットにたくさん存在します。日本や韓国をはじめ、ネット上の誹謗中傷で有名人やそうでない人の自殺が今までいくつもあります。ヨーロッパ諸国では法整備が進んでいましたけれども、日本の場合は先ほども言ったようにようやく進み始めたところで、今回の木村花さんの残念な件で、社会の後押しという機運が高まってきました。しかし、こうした事件が発生しないと進まないというのはいかがなもんでしょうか。
編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。