北米大学のオンライン授業の是非

コロナの影響で北米の大学は1月から始まる春学期の途中からオンラインクラスに変わりました。大学によっては夏学期が今行われていますが、こちらは全面的にオンライン、そして最大の注目は9月からの新学期をどうするか、ということでした。

ハーバード大学のオンライン講座サイト

私どもは大学に教科書を卸す事業がある関係でカナダの大学の状況はある程度把握しています。現在、各大学と秋学期に向けた教科書をどうするのか、調整しているのですが、オンラインクラスにするという大学が主流となっています。コロナの緩和措置は進みそうで、大学も基本的には一定条件下で通常授業に戻れるはずですが、それでもオンラインにするのはなぜでしょうか?

私は留学生の激減と授業料収入の問題があるのだろうとみています。

北米の大学における留学生の割合は全体でみると5%強ですが、留学生に人気がある大学は偏りがあります。そして通常、留学生は地元の学生の3倍程度の授業料を払わねばなりません。

ということは大学側から見れば留学生収入は15%、そして留学生に人気ある大学となると比率がさらに高いので経営的に極めて大きなインパクトが生じてしまいます。

留学生は来ないのか、といえば例えば交換留学生の場合は交換元がコロナを受けて交換先の授業体制がどうなるかを見極めている最中で今年の秋クラスはほぼアウトになりそうです。例えば私の出身大学も多分今年は中止という判断をしそうですし、逆に北米から日本への留学も厳しい状況になります。

そんな中、少しでも「交換」ではなく、一般留学生を取り込むため、あえてオンライン化にしているところもあります。オンラインで海外から履修ということも考えているのでしょうか?

次に学資ローンを抱えた一般学生もオンライン授業では学費と授業のクオリティで間尺に合わないと考えるでしょうし、学生数の現象を招きかねない状況になります。

「オンラインでも大丈夫ではないか」と日本では報じられていますが、それはシステムやプログラムのフローの問題であってクオリティが伴っているかは全く別問題。そしてそれが成果として試験結果に表れるのはもっと先になります。すでに大学の先生がオンライン授業は学生の反応がわからず疲れるという話もあるようですが、授業を受ける学生も身に入らないという弊害は確実に出るとみています。

ところで日本には放送大学というものがあります。1983年に設立され、当初、国立だったのですが、現在国が設立した私立という形をとっています。この大学の評価はある意味、オンラインクラスの評価に類似していると思われます。その中身は講義/授業やアクセスについては高い満足度がある半面、研究室、就職、学生生活、友人の項目はほぼ最低点であります。つまり、画面越しの先生と自分との一対一である独学に近いものなのでしょう。

大学の教育意義といえば個人的には「社会人育成のステップ」が重要なエレメントの一つだと思っています。これは北米でも同じ。特に北米は広いキャンパスで様々な出身と野心を持つ学生がいる中で、議論し、悩み、切磋琢磨し、それを同じ学生同士が支援するといったシステムが完備し、一人で悩まないようにするメンタルサポートすら充実しています。

そういう意味では放送大学で就職には有利ではないというのは学びながら人間形成をするのに十分に機能せず、就職に結びつかないということを如実に表しているともいえるのでしょう。研究所に残り、一心不乱に打ち込むのなら学問というエレメントだけを抽出すればいいでしょう。

しかし、高い学費を出してそれでも一流の北米大学に通うのはそこから生まれる人脈と将来のステップそのものなのです。

当地でビジネス系の集まりの会話で出身大学が同じだとわかると急速に関係強化されるのをまざまざと見せつけられ北米大学の意義を強く感じています。

その点を考えると北米大学がオンライン授業を継続するのは教育資産価値の遺棄と言い切ってよいと思います。間違いであり、学生にサポートされにくくなります。アメリカでは大学の30%が赤字経営とされます。オンライン化すれば赤字大学はさらに増えるでしょう。その意味は大学が淘汰され、大学に行けた者といけない者の二極化を生み出し、格差意識がより高まってしまうように感じます。

私は大変懸念しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月31日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。