6月定時株主総会-株主の出席を制限することへの(さらなる)素朴な疑問

先週金曜日(5月29日)は、6月の定時株主総会を完全延期する上場会社が急増しましたね(合計8社が7月以降に完全延期、そのうち3社が配当基準日も変更を決定)。6月に入りましたが、決算発表を延期した企業を中心に、まだまだ完全延期に踏み切る上場会社が増えそうな予感がいたします。

(写真AC:編集部)

さて、本日(6月1日)の日経朝刊や最新の週刊東洋経済(6月6日号)などでは「バーチャル総会への関心が高い」「株主総会のオンライン化が進む」といった特集記事が出されており、有事における6月総会の話題はまだまだ関心が高いことがうかがわれます。厳密に考えるならば、コロナ禍における株主総会の簡素化の適法性問題とバーチャル株主総会の適法性の問題とは別個の問題であります(この点、メディアの解説は、やや混同されているように見受けられます)。ただ、おそらくコロナ禍における緊急避難的な定時株主総会の開催が、今後の「バーチャル株主総会」の実施に向けて「大きな契機」となることは間違いないでしょう。

6月の定時株主総会は完全延期すべき、とする立場の私としては、定時株主総会の簡素化について「伊藤忠商事の定時株主「出席自粛要請・役員のみ開催」総会に関する素朴な疑問」なるエントリーで素朴な疑問を述べたところです。さらに、経産省Q&A指針に従う形で、5月28日にはエイベックス社が「当社役員のみで開催する定時株主総会」について、伊藤忠社とほぼ同様のリリースを出しました。役員自身も株主のケースが多いので「株主ゼロ総会」とは言いませんが、少なくとも「一般株主の参加を予定しない定時株主総会」を開催する上場会社は、「株主の皆様の健康配慮を最優先と考えて」今後も増えるものと推察いたします。

この「株主総会の簡素化問題」については、5月中旬以降、著名な学者の方々や総会実務に詳しい法律実務家の方々の論稿、座談会記事等が多数出されておりますので、可能な限り拝読するようにしているのですが、やはり私としては(考えれば考えるほど)素朴な疑問を払しょくできません。有事の問題(コロナ禍という緊急避難的な状況だからこそ適法とする視点)であれ、平時の問題(そもそもコロナ禍でなくとも、バーチャル総会を可能とする視点)であれ、一般株主の総会出席を制限できる根拠、というものは理解できますし、議論する実益もあると思います。

しかし「一般株主の入場を一切認めない定時株主総会」については、なぜ違法ではないのか、私には理解できません。たとえば現実出席を認めない代わりに議決権の事前行使(書面投票制度、電子投票制度)が推奨されるわけですが、電子投票制度の採用は、各社とも(総会ごとに)取締役会で決めることになっています(書面投票制度については、上場会社の場合は会社法で強制されることになります)。この電子投票制度について、神田先生(学習院大学教授、東大名誉教授)の基本書を読みますと

株主の承諾がなくても取締役会決議で総会ごとに電子投票制度の採用を決めることができる。その理由は、株主は常に株主総会に出席する機会が確保されているからである。・・(中略)・・・なお、そのような会社(注 議決権を行使できる株主が1000人以上存在する会社)以外の会社が書面投票制度を採用する場合も、同様に取締役会決議で決めることができるが、その理由も同様である(文中の傍線ならびに注書きは筆者作成)

と解説されています(「会社法<22版>」神田秀樹著 201頁)。つまり、株主が(定時株主総会に)出席しようと思えば現実に出席する道が確保されているからこそ、書面投票制度や電子投票制度が取締役会決議によって導入できるわけです。ということは、そもそも株主の出席を認めない株主総会を開催するのであれば、たとえ緊急時の定時株主総会であったとしても、書面投票制度やインターネット投票制度は使えない、ということになりそうです。

書面投票制度や電子投票制度の実務からみても、たとえば書面投票を行った株主が、現実に出席をしたり、誰かに委任状を交付した場合の取り扱い(現実出席した場合には、その時点で書面投票は無効とされる)や、書面投票と電子投票を重複して行使した場合の取り扱い(定款に定めがある場合には、当該定款に沿った取り扱いを行う)に関する慣行や通説がみられます。こういった実務慣行や通説に従うならば、株主総会における事前の承諾や事後における総会参与権限の確保があって、はじめて事前の議決権行使(書面投票制度、電子投票制度)に関する取締役会決議の有効性が是認できることになります。

経産省Q&Aなどは、「出席を一切認めない株主総会も(議決権の事前行使の機会を確保することで)可能」とされていますが、このあたりの理屈はどうクリアになっているのでしょうか。私としては、「一般株主の出席は認めない」とは記載されていなくても、「一切認めない」ように読める書きぶりであれば、それだけでも会社法違反の可能性が出てくるのではないかと考えます。そして、当該瑕疵については、裁量棄却の法理や権利濫用の法理といった「株主総会の効率的な運用」を重視した考え方では払しょくできないものではないかと考えます。

毎度申し上げますとおり、株主総会の決議の効力を判断するにあたり、会社運営の効率性を図ること(裁量棄却や権利濫用制限法理)と、株主の総会参与権を保障することとのバランスをどこで図るべきか、という視点で検討しなければならないことは、私自身も心得ております。しかし、前回5月18日のエントリーで述べたように「株主総会における立憲主義と民主主義」の発想で考えた場合には、たとえ平時におけるバーチャル株主総会の在り方を検討する場面においても、また有事における緊急避難的総会の在り方を検討する場面においても、多数決原理の根本を支える株主権(公益権と自益権)は例外なく保障される必要があると考えます。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。