昨年5月、米国の空母エイブラハム・リンカーンが率いる艦隊に唯一外国からスペインのフリゲート艦メンデス・ヌニェスが同行していた。スペイン海軍にとって名誉な同行であった。それはスペイン・フリゲート艦F-100の性能の見せ場でもあった。
ところが、米国はイランとの関係緊張化から急遽この艦隊にペルシャ湾に赴くように指令した。それに対して、スペインのマルガリータ・ロブレス国防相はメンデス・ヌニェスに同艦隊からの撤退を指令したのである。何故。ペルシャ湾のホルムズ海峡を通過することは当初の両国の合意事項にはなかったというのが理由であった。
しかし、撤退の真の理由は米国とイランの間で武力衝突が起きた場合、メンデス・ヌニェスがそれに巻き沿いになることを避けたいと判断したらであった。
ロブレス国防相は著名な判事で法律には詳しいが、国際外交は素人だ。だから、この撤退に海軍は非常に立腹し、今後米国から招待を受けることはないであろうと考えるようになっていた。またスペインのナバンティア公営造船所も米国からフリゲート艦20隻の建造の注文を貰う機会を失うのではないかと懸念するようになっていた。
これらのことが国際政治に素人のロブレス国防相には読めなかったようだ。また、サンチェス首相も国際政治には疎いところがある。
ナバンティアが懸念していたことが事実となった。先月、米国国防省はイタリアの造船会社フィンカティエリと契約することを正式に発表したのである。
しかも、この決定が如何にスペインへの報復を意味するものかということを示すものとして、米国は発注にはイージスシステムを搭載していることというのが必須条件としていたが、フィンカティエリはこれまでイージスシステムを搭載した戦艦を製造した経験は一度もない。一方のナバンティアのフリゲート艦はイージスシステムの搭載には十分なる経験を積んでいる。(参照:outono.net)
更に、トランプ大統領がスペインに強い不満をもっているのは、スペインはNATO加盟国の中で軍事費への出費はGDPの1%も満たしておらず、ラホイ前首相の政権時に増額することを約束したが、現在の比率は加盟国の中で一番低い比率であるということ。NATO加盟国の軍事費への増額を強く要求しているトランプ大統領にとって、スペインの姿勢には強い不満を持っている。それを反映してか、昨年12月に開催されたNATO会議の中枢部会にはスペインは外された。(参照:okdiario.com)
サンチェス首相とは距離を置きたがるトランプ大統領(参照:okdiario.com)ということで、当初ナバンティア造船所はワシントンにオフィスも構え、ジェネラル・ダイナミクス社のバス・アイアン・ワークス造船所と協力してこの受注の獲得に動いたことが無駄となった。ナバンティアの経営陣は昨年5月のメンデス・ヌニェスが米国艦隊から撤退した時点で嫌な予感がしていたというのが的中したことになった。
計画では20隻の建造ということになっているが、当初はまず9隻を建造する。その予算は55億8000万ドル(6000億円)としている。建造は米国の造船会社が担当し、受注したフィンカティエリの場合もナバンティアと同様に技術部門やその他ノウハウを提供することになっている。
仮に、ナバンティアが受注していればバス・アイアン・ワークス造船所が建造を担当し、ナバンティアは技術部門の支援とノウハウの提供をすることになっていた。
因みに、フィンカティエリの場合は昨年買収した米国のマリネティ・マリン造船所が建造することになっている。マリン造船所もイージス艦の製造経験はゼロである。勿論、今回の受注にはそれを採用するとしている。しかし、これまでイージス艦の建造経験を豊富に持っているナバンティアと比べ、フィンカティエリとマリネティ・マリンのコンビがこれにどのレベルまで対応出来るのか注目される。
スペインの武器製造企業のある幹部が指摘しているのは、「この種の契約では、決定には政治が重要なカギを握っている。技術的な分野がどうであれ、ホワイトハウスが最終的に決めるのだ。外交関係がうまく行っていない場合は、契約が日の目を見ることはない」と電子紙『OKDIARIO』の取材に回答したという。(参照:okdiario.com)
サンチェス政権はスペイン海軍の米軍からの評価を落とすことに一役買い、また造船業界が不振の中、期待されていたナバンティアの米国からの受注も消滅させてしまった。それに対して、サンチェス首相が何らかの責任を取るべきであるが、それで辞任するということもない。