専門家会議議事録、アメリカの暴動など

石破  茂 です。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議と略)の議論が、議事録ではなく概要でしか示されないのはやはり不適切ではないでしょうか。概要では誰が何を主張し、それに誰がどう反論し、どのような議論の展開の末に結論が得られたのかが分かりません。

3月19日の専門家会議後の記者会見(NHKニュースより:編集部)

「政策の決定または了解がなされる会議は議事録の作成が義務付けられる」ということで、専門家会議はこれに該当しないのだそうですが、専門家会議の見解は最大限に尊重されているのでしょうし、少なくとも後の検証のためにも詳細な議事録は残しておくべきだと思います。

発言者が明らかになると闊達な議論にならない、とはよく言われることなのですが、政府の意思を大きく方向づける会議のメンバーとして選ばれている方々なのですから、責任をもって自らの立場を明らかにされることと思います。

もし外交や防衛のように機密事項に関わる案件が今回にも一部あるのであれば、一定の期間の経過後に国民に明らかにするべきでしょう。

政府が1世帯に2枚を早急に届けると約束した「布マスク」が、未だに全世帯に行き渡らないことも問題となっています。日本の優れた郵便事情であれば、発送すれば数日で全国に届くはずであり、生産が間に合わないのか、封筒詰めや宛名書きが遅れているのか、何か原因があるはずで、それを明らかにしないと国民はさらに不信感を持つのではないでしょうか。

さらに、届いたマスクには生産したメーカーの名も、連絡先も記載がありません。マスクには法的な表示義務はないものの「全国マスク工業会」の自主的な表示基準として記載すべき事項が列挙されているのですが、これら事項の表示もありません。

内閣総理大臣肝いりの政策がこんな杜撰なことでよいわけがありません。総理が自らご指示されたにもかかわらず、目標が達成されていないのは、行政組織のどこかに不具合があるのではないでしょうか。

持続化給付金の再委託問題も、基本的な無責任の構図は同じなのではないかと懸念します。これを糾すのは野党よりも我々与党の責務です。

ミネアポリスの暴動(Hungryogrephotos/flickr)

アメリカ各地で発生している暴動は1960年代の公民権運動を彷彿とさせますが、小学校高学年の頃に何度も読んだケネディの伝記(世界偉人伝全集第50巻・細野軍治著・偕成社・1966年)の中に出てくる、ケネディ大統領が人種差別問題に取り組んだ際の場面を今も鮮明に記憶しています。

1962年、ミシシッピ州やアラバマ州で起こった大規模なデモに対してケネディは最終的に連邦軍を出動させたのですが、直後に「アメリカ人は何人(なんびと)もその人種や皮膚の色に関わりなく、アメリカ人である特典を享有できるものでなければならない」と訴え、黒人の公民権を広く認める公民権法案を議会に提出したのでした(ケネディ暗殺後、後継のジョンソン政権下で成立)。私はケネディ大統領を全面的に礼賛するものではありませんが、軍の派遣に懊悩し、多くの反対に直面しながらも高い理想を掲げ続けた彼の政治姿勢には、子供心に強い共感を覚えました。

「軍は国家に隷属し、警察は政府に隷属する」という言葉は日本では全くと言っていいほどに語られることはありませんが、文民統制の必要性を明確に述べたものであり、同時に軍の国内における極力抑制的な行動を求める根拠ともなるものです。

トランプ大統領の今回の一連の言動はこの基本的な考えに反しており、軍人出身であるエスパー国防長官およびマティス前長官が安易な軍の介入に否定的な発言をしていることは正しいものと考えます。

わが国でも、60年安保闘争の時、鎮圧のため自衛隊に治安出動を命じようとした岸信介総理に対して、赤城宗徳防衛庁長官が職を賭してこれを阻止したことがありました。

「猛犬」とのニックネームで呼ばれながらも軍内部での信頼が厚かったマティス元海兵隊大将を政権初代の国防長官に起用しながら、シリア撤退で政策が一致しなければ更迭し「彼は最も過大評価されている将軍だ」と突然に酷評するトランプ大統領の思考は、どうにも一貫性がないように見えます。そもそも彼がそのような人物だったのであれば、起用した大統領の責任です。唯一の同盟国の指導者の、他人の意見を聞く耳を持たず、自分に付き従う者のみを重用するような姿勢には、大きな違和感を覚えます。

4日に31周年を迎えた天安門事件について、「残酷だったが、力で抑え込んだ。我々の国は弱いとみられている」と、肯定的とも受け取れる見解を述べ、民主党系の知事たちに対しても「弱腰だ。圧倒しなければ時間の無駄だ」と発言し、マケナニー・ホワイトハウス報道官がエスパー長官の更迭まで示唆する、という一連の報道を見ていると、秋の大統領選挙を控えたアメリカは一体どこへ行くのか、との危惧を感じます。

香港、台湾など、我が国を取り巻く情勢は米中の対立を軸に今後更に緊迫するものと思われ、決して対岸の火事ではありません。

東京都は独自の「東京アラート」を発令しており、なお警戒が続いています。このアラートの意味は今一つ判然としませんが、赤くライトアップされた都庁を見物に多くの人が訪れる光景を見ると、なんだかなあ…という気がしないではありません。

永田町の日程も徐々に通常モードに戻りつつありますが、他道府県への移動はまだ制限があり、今週末も在京の予定です。

7日日曜日は「激論!クロスファイア」(午後6時・BS朝日・収録)、週明け8日月曜日は「報道1930」(午後7時半・BS-TBS)に出演致します。

今週の東京は夏日が続きました。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2020年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。