「外部免疫効果」がコロナのR0と臨床試験に大きな影響 --- サトウ・ジュン

アゴラ

「外部免疫効果」という用語/概念を導入し、その大きさを可視化する

この年代別グループ分析の記事で、私は個体免疫の効果よりも集団免疫の効果の方が大きいことを示しましたが、誰かがそれらを数値化してくれるといいですね。しかし今のところ誰も行っていないようです。この点を強調しつつ、それが臨床試験の設計や基本再生産数R0の計算にどう影響するかをこの記事で述べておきたいと思います。

また、「集団免疫」という言葉は今では非常に誤解を招く言葉なので、表現を変えさせてください。代わりに、「外部免疫効果」という言葉を使うことを提案したいと思います。

nakashi/flickr

私は昔、大学時代に経済学を勉強していました。経済学では、(私の記憶が正しければ)あるものがその費用を負担していない人に便益をもたらすことを「外部経済/外部経済効果」と呼びます。これはワクチン接種や免疫全般に起こっていると思います。家族や親しい友人がよく風邪をひくと自分もよく風邪をひくようになりますし、その逆もまた然りです。

個体免疫の効果については、「個体免疫効果」を使い続けたいと思います。

前と同じ分析をイタリア、スペイン、ポルトガルについて最新のデータを使って行い、外部免疫効果と個体免疫効果がどれだけ大きいかを可視化してみました。またこれらの国のBCGワクチン政策の概要はこちらです。

  • イタリア:一度もBCG義務化なし
  • スペイン:39歳から78歳までがワクチン接種を受けている
  • ポルトガル:3歳から78歳までがワクチン接種を受けている

グラフを見ると、個体免疫効果もありますが、外部免疫効果の方が個体免疫効果よりもはるかに大きいことがわかります。

これが、同じコミュニティ/国の中でBCG接種を受けた人と受けていない人の間に大きな差が見られない理由です。BCG仮説を否定している論文に対する私の反論については、以下の記事をご覧ください。いずれも、外部免疫効果が個体の効果よりもはるかに大きいという事実を考えずに否定しようとするものばかりです。

High-quality analysis of the former East/West Germany testing the BCG hypothesis… if the herd immunity effect is added…

BCG説の否定論文著者はイスラエルの状況を分析し直せ

ハンガリーに関する以下の記事も、外部免疫効果を考慮に入れていません。

新生児へのBCGワクチン接種は高齢者をコロナウイルスから守らない 

外部免疫効果を無視してBCG効果を否定するプレプリント(査読前論文)がまた出てきました。

BCGワクチンは新型コロナウイルスに対する防御を与えない。スウェーデンの自然実験からのエビデンス

臨床試験は「外部免疫効果」を考慮して設計されるべき

これは臨床試験の設計に影響を与えるので、決してささいな点ではありません。

BCGと新型コロナに関する臨床試験は、すべて無作為化とミッスク法という標準的な臨床試験の方法を用いて設計されています。これらの方法は個体免疫効果を証明できても、その効果は重要でないと結論づけるかもしれません。それはある意味ではその通りです。

BCGワクチンは新型コロナウイルスに対する特定ワクチンではありません。特定ワクチンは新型コロナウイルスを100%近く予防するのに対し、BCGワクチンは新型コロナに感染する確率を30%低下させるかもしれません。30%の低下は個体への効果としては小さいかもしれませんが、その外部免疫効果を含めれば重要であり、強力な集団免疫を生み出すことになります。

もし私が臨床試験を設計するとしたら、3つの村をピックアップして、ある村ではBCG接種100%、別の村では50%、最後の村では0%とします。この臨床試験なら、外部免疫効果がどれだけ大きいかを教えてくれるでしょう。

感受性のわずかな低下が集団になるとR0を著しく低下させる

感染症には、基本再生産数R0、実効再生産数Rt、感受性、伝播といった専門用語があります。簡単に言えば、R0は人の感受性とは無関係に病気によって決まります。またRtは感受性の関数であり、伝播はRtの関数であるか、それに相当するものです。以上は私の推測ですが、間違っていたら訂正してください。

新型コロナのR0は国によって著しく異なるようですが、その理由は人々の感受性がわずかに違うことにあると思われます。はい、その通りです。私は著しくとわずかにと書きました。感受性の小さな変化がどうやってR0の大きな変化をもたらすというのでしょうか? 

ここからは私の仮説/理解です。日本人がイタリア人よりも新型コロナに感染する確率が30%低いとすると、伝播は0.7 * 0.7 = 0.49のように減少するので、R0は日本はイタリアより30%低いだけということにはならないでしょう。このメカニズムにより、R0は日本はイタリアの半分以下でありうると思います。

この記事を読んで、専門家が、

1) 新型コロナの R0は世界共通ではなく国ごとに計算されるべきものであること
2) 臨床試験の設計・評価に再考が必要であること

に気づいて頂けることを期待します。

本分析の出典(6月10日にアクセス):
Population of WORLD 2019 – PopulationPyramid.net
COVID-19 pandemic in Italy – Wikipedia
COVID-19 pandemic in Spain – Wikipedia
COVID-19 pandemic in Portugal – Wikipedia


編集部より:この記事はサトウ・ジュン氏のブログ「JSatoNotes」2020年6月10日の記事より和訳して転載させていただきました。快く転載を許可してくださったサトウ氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJSatoNotesをご覧ください。