日産バルセロナ工場の従業員による抗議デモは続く

日産がバルセロナ工場を今年12月に閉鎖することを528日に発表して、従業員は働く意欲を喪失しているという。従業員による閉鎖反対の抗議は毎日のように続いている。

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日産モトール・イベリカ公式ツイッターより(編集部)

日産がバルセロナから撤退することが明らかになって数日後に聴取率がトップのラジオ『カデナ・セール(Cadena SER)』からのインタビューを受けたレイエス・マロト産業相は「大規模な国家プロジェクトを持っているが、その為の時間がなかった」と述べて、それをコロナウイルス感染によるパンデミックのせいだとした。

政治家はいつも都合の良いことを並べて責任を回避しようとする。マロト産業相のこの回答もそのひとつだ。日産のバルセロナ工場が低迷していたのは今に始まったことではない。2009年の従業員の削減、そして2014年にはパルサー導入の失敗という二つの出来事を前に、当時の社会労働党サパテロ首相(2009年)と国民党ラホイ首相(2014年)政権、そしてカタルーニャ州政府は傍観していただけだった。

そして2年前から社会労働党のサンチェス首相が政権を担っている。マロト産業相はサンチェス政権が誕生してからこのポストに就いている。だから日産を支援するプロジェクトを披露する期間はこれまで2年間あった。パンデミックのせいで提案できなかったのではないということだ

このパンデミックによる打撃を受けて、フランス政府は自国の自動車業界の支援に80億ユーロ(9600億円)の投入を決め、ドイツ政府も自動車の販売促進の支援金として25億ユーロ(3000億円)を用意するとした。両国とも対象になる自動車メーカーは自国企業であるが故に支援も容易となる。

スペインは自動車の生産量においては世界で9位にランキングされているが、国産の自動車メーカーは存在しない。スペインで誕生したセアット(SEAT)はあるが、既にボルクスワーゲンの子会社となっている。

このような事情を抱えているスペインでは政府にプロジェクトがあるといってもそれをどのように適用するのかということに大きな疑問がある。これまで唯一カタルーニャ政府が実行して来たのは日産バルセロナ工場の従業員の社会保障費軽減のための補助金や、バルセロナで存続してもらうための僅かの支援金といったものであった。工場の設備をより近代化させるための投資といったようなことはスペイン政府もカタルーニャ州政府も日産に対しては実行していない。

両政府が認識せねばならないことは、多国籍企業がスペインに進出する魅力は既になくなっているということだ。1980年代までスペインは安価な労働力と技術レベルの高さ、労働争議のリスクの低さ、政治的な安定などの要素が、多国籍企業にとってヨーロッパ市場での伸展を図る際、スペインへの投資に魅力を感じさせていた。

しかし、今ではスペインよりも条件の良い国は東欧や北アフリカなど多くある。だから、スペインは現存している多国籍企業が今後もスペインで生産を続けるための対策をプラニングして実行することが必要である。ところが、そのようなプランはスペイン政府はこれまで具体化させたことはない。それを持っていないからである。スペインへの外資企業の投資の魅力は既に失われているという危機意識も欠如している。

日産バルセロナ二つの労働組合が主体になって日産の経営者側との交渉に臨む委員会のカルロス・ビセンテ委員長は「(経営者側は)我々死ぬようにさせてしまった。もう長年、車種をフランスや英国に持って行かれていることに警告し続けて来た」と述べて、それが競争力を失った要因だとした。「(経営者側は)新たに車種を増やしたとしても我々が競争力を持つことはできないと言っている。彼らはバルセロナ工場を維持したくないからだ。それを許すことはできない。それを撤回させるのだ」と強調し、「明日、そしてこれから毎日抗議集会を続けるのだ。日産は残留せねならない」と威勢よく従業員を前に語ったのである。(参照:elpais.com

日産バルセロナ工場の労働者委員会のミゲアンヘル・ボイサ委員長は無期限ストを続行することを発表し、それに抗議運動も交互に加えて行くことを明らかにした。そして彼は「工場を閉鎖させないのが我々のプランだ。彼らが間違っていたと理解させるべく働こう。今回のことはルノーと強い関係があることを知るべきだ」と述べた。(参照:elconfidencial.com

銀行ローンと子供を抱えた一人暮らしで15年勤務しているクリスチーナ・モンテロは「厳しい知らせだ。想像はしていた。でもそれが本当になるとは思わなかった。多くの家族を抱えている。失業することはできない。でも、何もできない。怒りでいっぱいだ」と語った。

21年勤務の組み立て部門にいるアレックス・ナバッロは「もう長く会社はうまく行っていない。そして今、すべてが崩壊した」「これから交渉が始まる。プレッシャーを掛けねばならない」と述べた。(参照:elpais.com

クリスチーナ・ロサ・デ・パスとマティアス・インファンテの夫婦は2009年に解雇されたが、彼女はその後再雇用された。主人は日産の下請けで勤務を始めた。日産の撤退で下請けもその影響を受けることは必至だ。彼は53歳ということでこれから新たに職場を見つけることは先ず不可能だ。13歳と17歳の娘二人がいる。

日本総領事館の前で抗議集会を開いた後に、クリスチーナは「(工場と関連企業の)25000人がどこで仕事を見つけるというのだ。もう仕事はない」と表明して失望感を露わにした。

「工場の閉鎖は幹部らが宿泊するこの地域のホテルやレストランにも影響が出て来る」と指摘しているのは生産コントロール部門を担当しているパブロ・ベニトだ。(参照:eldiario.es

マリア・フェルナンデスは「これまで政府が従業員を維持するために日産に投入したお金は雇用維持に役に立っているはずだ。関係当局が介入することを望んでいる」と表明して日産への憤りをあらわにした。(参照:20minutos.es

これから年末にかけて日産従業員は自らの生計を犠牲にして工場閉鎖を中止させるための必死の闘いを続けるであろう。