ファミレスは本当に終わってしまうのか

関谷 信之

Thouvenin/flickr

ファミレスの凋落が止まりません。

ファミレス大手ロイヤルホストの、2020年5月の売上は前年同月の54%。目を覆わんばかりです。売上減・大量閉店が報道され、ファミレスはもう終わったかのような意見も散見されます。

悲観的な意見は、

  1. 広いフロアのため、家賃など固定費が高い
  2. コロナの影響で、客足が遠のき売上が減っている
  3. テイクアウト商品が脆弱

などの要因を根拠としています。

本当にファミレスは無くなってしまうのでしょうか。
ロイヤルホストをモデルに考察してみたいと思います。

現状分析

上記、根拠の「1」固定費から考えてみましょう。

一般飲食店の費用中に占める固定費の比率は66%、ロイヤルホストは68%(*)です。とりたててロイヤルホストが高いとは言えませんが、固定費が大きな負担であることは間違いないでしょう。

次に「2」の売上の減少について。
コロナの影響を受けた直近の売上前年比をみてみると
4月42%、5月54%
と、大幅な減少です。

現状は、かなり厳しいといえます。

(「3」については前記事「コロナ禍のロイヤルホスト、生き残り策はあるのか?」で考察したので割愛します)

環境全体を眺めてみると

環境の分析ではSWOT分析という手法が頻繁に用いられます。
企業内のプレゼンなどでも多用されているため、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

SWOT分析は、自社をとりまく環境を、

自社の要因
・強み(Strength)
・弱み(Weakness)

自社以外の要因(市場など外部要因)
・機会(Opportunity)
・脅威(Threat)

の4つに区分し、分析する手法です。

上記の「根拠」を区分すると

1.広いフロアのため、家賃など固定費が高い→「弱み」
2.コロナの影響で客足が遠のき売上が減っている→「脅威」
3.テイクアウト商品が脆弱→「脅威」

となります。「弱み」と「脅威」のみを対象とし、「強み」と「機会」を考慮していないことがわかります。

では、今のファミレスにどのような「強み」と「機会」があるのでしょうか。

「弱み」は「強み」

まず「強み」について考察します。

この先暑くなりエアコンが増える中でのコロナ対策、特にエアロゾル対策では「換気」が最も重要と言われています。

ファミレスは広いフロア面積が必要なため、1フロア丸ごと借りることが多くなっています。1フロアだと複数方向に窓があるので、換気にはうってつけです。広いフロアを持つファミレスこそ、最もコロナ対策がしやすい、と言えます。

つまり「弱み」と思われていた広いフロア面積は、「換気」という「強み」でもあるのです。

新しい生活様式という「機会」

次に機会について考察します。

ニューズウィークの記事によると、公共交通機関を敬遠し自家用車の利用が増えている、とのこと。また、菅長官が自転車通勤の拡大を歓迎する発言の報道もありました。

今後、移動手段が大きく変化する可能性があります。

自家用車や自転車での移動が増えるということは、巨大な駐車場を持つファミレスに有利に働きます。

つまり生活様式の変化は、自家用車などでの来店客増加という大きな「機会」になりうる、と言えます。

安全・安心の訴求

上記の「強み」と「機会」を活用するプランを考察します。

まず強みである「換気」の活用です。換気による「家族にとって安全・安心な食事空間」を訴求したいところです。

具体的な訴求案としては
・30分に1回の換気実施の店頭告知
・空気が循環しているCG映像の作成、ウェブサイト等への掲載
などが考えられます。

来店客を逃さないために

次に、自家用車などでの来店客を獲得するためのプランを考察します。

筆者が、緊急事態宣言直前に行ったロイヤルホストでは、使えるテーブルは一つ置きでした。ソーシャルディスタンスにより少なくなった席数を、フル稼働させる必要があります。

そのためには、美容院や旅行業者などサービス業の手法を採り入れることが有効です。

差別価格制の導入

繁忙期には料金を高めに、閑散期には安めに設定し、来客時期を分散させる手法です。

ランチタイムなど混む時間帯を割増料金に、夕方前など空席の多い時間帯を割引料金にします。遅めのランチや早めの夕食の顧客を増やし、少ない席数でも、常に埋まっている状態を維持します。

多くのファミレスでは既に深夜は割増料金になっています。これを全時間帯に拡大するだけなので、導入は容易なのではないでしょうか。

予約制の導入

ファミレスの多くは、予約は大人数(パーティープランなど)しか受け付けていません。これを、小人数でも予約できるよう拡大します。アプリ等により、車からでも簡単に予約できる仕組みを作り、予約のハードルを下げます。事前予約によって、満席時の離客など機会損失が防止できます。

また、席状況をアプリやウェブサイトで公開することで、満席時は割引時間帯へ誘導するなど、差別価格制との相乗効果も期待できるはずです。

「最大の強み」とは

ロイヤルホールディングスの発表によると、今年度の売上予想は前年度の57%(*)。費用削減や投資の先送りを行うとはいうものの、前途多難です。

先日、筆者のもとにロイヤルホストのメルマガが届きました。いつもは新メニュー紹介や割引クーポンなのですが、今回は趣が異なり、以下の一文が追加されていました。

「店舗や従業員、お客様相談室に多くの励ましのお言葉をいただいておりますこと、心より感謝申し上げます」

愛着を持ってくれている顧客の存在こそ、コロナ危機を乗り越える「最大の強み」なのかもしれません。

 

参考資料
ロイヤルホスト
・2020年(令和2年)ロイヤルホスト月次売上(既存店前年比)
ロイヤルホールディングス
・2019年12月期 決算短信
・四半期報告書
・直近の営業状況および緊急対策等取組み
(*)の数値はロイヤルホスト単独値が無いため、ロイヤルホールディングス値を用いています

一般飲食店の固定費比率算出参考
「1カ月休業で5カ月の利益が消える一目で分かる飲食店の収益構造」PRESIDENT Online