河井夫妻逮捕、イージスアショアの計画停止など

石破 茂

石破  茂です。

先の内閣改造において河井克行氏を法相に起用したのは、国家国民にとって最も適材適所であったのか。昨年の参院選挙広島選挙区において案里氏を破格の厚遇で支援したのは何故か。

捜査の行方は分かりませんし、現時点では両氏に推定無罪が働いていますが、私が素朴に疑問に思うのはこの2点です。

家宅捜索を受け記者会見した河井夫妻(NHKニュースより編集部引用)

河井氏が法相を続けていれば、国会で大議論となった検察庁法の改正を担当したはずです。「検察官も国家公務員である以上、(定年について特別法である検察庁法ではなく)国家公務員法が適用される」という内容は、特別法が一般法に優先する法の常識や、従来の政府答弁を根本から覆すことから、相当な困難の予想されるものでした。また、法務大臣が検事総長に対する指揮権を有していることも軽視してはなりません。

閣僚ポストは国家国民のためにある。このようなあまりに当たり前のことを言わねばならないことを、とても悲しく、情けなく思います。

案里候補に破格の資金を提供し、異例の厚い選挙応援体制を敷いてまで実現したかったのは何であったのか。「2人区の広島で2議席を確保する」と言うのは簡単ですが、過去、広島で自民党が2議席独占できたことはありません。新人とはいえ、衆議院当選7期で総理の側近を自任しておられた克行氏の配偶者であり、県議を4期務め、2009年には県知事選にも立候補した案里氏にはそれなりの知名度もあったはずです。

各種の指標に基づいて精緻に分析した自民党の世論調査に基づく情勢判断はかなり的確で、幹事長在任中に「選挙は科学である」ことを心底実感した覚えがあります。接戦区においては、さらに精密な調査を行い、最も効果的な支援を行えるように情報収集します。

昨年の参院選では、秋田、山形、宮城、滋賀、大分など、接戦の末に自民党候補が野党候補に敗れた選挙区がいくつかありました。河井案里候補に投入した支援体制をこれらの選挙区にも効果的に配分していれば、自民党はもっと多くの議席が獲得できたのではないかと思うと、残念な思いがします。

今回の河井夫妻の逮捕を、自民党のあり方を見直す機会としなければなりません。国会で説明することもなく、時が過ぎればやがて国民は忘れる、などと考えてしまえば、次期総選挙で国民から厳しい審判を受けるのは必定です。

イージス・アショア(地上イージス)について、河野防衛相は「山口県と秋田県への配備計画を停止する」と述べられましたが、「停止」とはいったい何を意味するのか、判然としません。

ハワイのイージス・アショア・サイトでの発射訓練(防衛省サイトより)

ミサイルに対する抑止力はミサイル防衛システムだけで万全なものではなく、「米国の核の傘(拡大抑止)」「ミサイル防衛システム」「国民の避難計画やシェルターの整備などの国民保護体制の構築」の三者が一体となって機能するものであり、単に費用対効果だけで論じられるものでもありません。

「停止」は「中止」ではなく、現在の候補地の他に、ブースターが落下しても被害が生じないような適地があれば計画を再開するのか、陸上に適地がなければイージス艦を増隻するのか、対空護衛艦としてのイージス艦ではなく、ミサイル防衛機能にのみ特化した洋上のシステムを整備するのか(私は現時点ではこれが一番適しているのではないかと考えています)。

「策源地(ミサイル発射地)攻撃能力」保有の是非等々を整理し、解決しなければならない課題は多くあるのですが、それらの議論の道筋が示されないままに混乱だけが生じているのは全くよくありません。安全保障はウケ狙いやその場の思い付きだけでやってはならないものであり、法律も、能力も、安全保障条約の内容もきちんと理解している専門家を中心に早急に議論を詰めなくてはなりません。

なお「抑止力神話の先へ」(自衛隊を活かす会編・かもがわ出版・2020年)は、抑止力についての頭を整理するのにとても役立ちます。

ウイルス感染の爆発的拡大は抑えられ、規制も段階的に解除されつつありますが、これは一時の静けさであるように思われます。ワクチンと治療薬の開発への更なる資金の投入、PCR検査体制の整備、医療体制の強化、給付金の対象から外れて困窮しておられる方々への支援(予備費の最大限の活用)など、早急に行うべきことは明らかです。

百年に一度、と常套句のように評される今回のウイルス禍ですが、この言葉の持つ意味をよく考えなくてはなりません。第一次世界大戦(1914~1918)、スペイン風邪の世界的大流行(1918~1920)、世界大恐慌(1929)、第二次大戦(1939~1945)、というのが百年前に起こった一連の出来事であり、当時のグローバル経済は終焉し、世界経済に占める貿易依存度が再び第一次大戦前の水準に戻ったのは1970年代後半。その間に約60年の歳月を要しました。

百年前と今とで多くの状況が異なっていることは当然ですが、その近似性にも改めて驚かされます。世界史の大変革期において、ウイルス禍はその一つの契機にしか過ぎなかったのであり、歴史の大きな流れを見据えなければなりません。「グローバリズムが世界を滅ぼす」(エマニュエル・トッド、中野剛志、藤井聡、柴山桂太他著・文春新書・2014年)を読んで、そのように思いました。

昨日の東京は朝から雨模様の肌寒い天気でした。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2020年6月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。