タイではこのところ、コロナの新規感染者ゼロの日が続いている。たまに5人、10人単位で感染者が出ても、そのほとんどが海外から帰国してきたタイ人たちである。そんな中、タイ政府は連日勝ち誇ったように感染者の少なさを発表すると同時に、第2次感染波のリスクを理由に今も非常事態宣言を解こうとしない。
しかし、タイの知識層は、コロナ感染が落ち着いたにもかかわらず、遅々として進まない政府の経済復興策と急激に進むタイバーツ高により、このままではタイ経済は同じアセアンのインドネシアやフィリピン、ベトナムにも追い越されてしまうと危惧している。
実際、IMFによる今年の実質GDP成長率予測でも、タイはマイナス6.7%と周辺アセアン諸国に比べて突出して悪い。非常事態宣言の下、都市のロックダウン、県間移動規制、夜間外出禁止令、そして外国人入国禁止という非常に厳しい措置を取った結果、経済が受けたダメージが顕著に出ているのである。
ところで、ここにコロナ制圧に関するタイの今の状況を評価している2つのレポートがある。1つは、マレーシア政府等の協力を得てPEMADUアソシエイツというところが出しているGlobal COVID-19 Index(GCI)という各国のコロナからの回復度を示す表である。
ここでは、まさにタイ政府が自画自賛している通り、見事コロナをコントロールして新規感染を抑え込み、コロナからの回復に成功したということで、世界で2位にランクされている。
一方、日本はどうかといえば、世界で24位とまだまだコロナと悪戦苦闘中という評価だ。今も毎日、数十人単位で新規感染者が出て、夜の街ではクラスターも発生するというちょっとお粗末な状況なので、これも仕方なしかという気もする。
ただし、タイのロックダウンの実態は、レストランはすべて閉鎖され、なぜかわからないがスーパーでお酒を買うことも禁止されたので、筆者などは自宅での家飲みにも不自由した。酒屋がヤミでお酒を売っているのが見つかると警察に捕まるというほど厳しいもので、日本のように自治体が居酒屋等での飲酒の自粛を求める、などどいう緩いものではなかった。だからこそ、ここまでコロナをコントロールできたのかもしれない。さすが軍事政権だけあって、強制的に国民の行動を規制するというのはお手のものである。
しかし、この厳しい規制の結果、タイ各地で失業やストレスによる自殺者が相次ぎ、タイ経済もGDPがマイナス6.7%と大きな代償を払うことになったのである。
もっとも、筆者はタイ政府の早期非常事態宣言は正しかったと思っているし、厳しい規制が奏功して周辺諸国に先んじてコロナから回復できたとも思っている。ただ問題は、今も非常事態宣言が解除されていないし、ロックダウンや夜間外出禁止令も段階的な解除と、あまりにスローすぎて一体どこまで経済を犠牲にするつもりなのかと思うのである。
さて、そこでForbesで紹介されているもう1つのランキングを見てみる。これは香港の投資会社が組成するコンソーシアム、ディープ・ナレッジ・グループ(Deep Knowledge Group)による「コロナに対してもっとも安全な100か国(The 100 Safest Countries In The World for COVID-19)」のレポートである。
ここで日本の評価がガラッと変わる。驚くことに、感染者を多く出しているドイツやシンガポールが上位につけ、日本も5位にランクされているのである。
一方、タイはなんと世界100か国の中でほぼ中央の47位でしかない。つまり、今もコロナの危険から逃げられていない国ということになる。これは一体どういうことなのだろうか。
この記事の説明によると、ここではコロナの感染が広がっていった当初は、いち早くロックダウン等の対応と取った国が上位にランクされていた。しかしある程度落ち着いた後は、国民の健康と安全を損なわずに、コロナによる経済的なダメージをもうまく軽減できている国が上位にランクされる。つまり、状況の変化とともに評価の基準も変わるということである。
例えば、スイスとドイツは感染者も多かったが、いち早く対策を取り、今は感染をコントロールしながら経済もうまく舵取りしているという点で、世界の2トップなのである。
これには筆者も全く同感で、いつまでもコロナ感染を阻止できたと誇っていても、そのせいで国の経済力が沈んでいくのではあまりに代償が大きいことになる。まさに韓国がそうだと思うが、政府の経済的な無策がやがて国民に思い荷物を背負わせてしまうことになるのである。
一方、タイではトヨタ、ホンダ、ニッサン、マツダ、イスズといった日本の自動車メーカーが進出し、現地生産をしている。2018年には216万台もの車を生産し、その約半分を輸出してタイの貿易黒字にも貢献した。そして、今ではタイはアジアのデトロイトとまで呼ばれるようになっている。
しかし、昨年12月、日本のメディアが、2018年の終わりから始まった急激なタイバーツ高による採算悪化により、日本の自動車産業が工場をほかのアセアン諸国に移すことを検討していると報道し、タイでも話題になった。
この件は、その後の世界でのコロナ感染拡大と同時に始まったバーツ安で一旦は落ち着いたものの、4月に入りタイ国内でコロナが落ち着いてくるにつれて、またタイバーツの独歩高が始まったのである。しかしながら、タイの中央銀行や軍事政権がこの問題に対して今もほとんど無策であり、このままではタイ経済が沈むとタイの知識層は危惧しているのである。
そういう意味では、最も安全な国トップ10として高く評価されている日本の安倍政権は、何だかんだと国内では野党から叩かれているが、タイという外国に住んで見ていると、決して国の舵取りは失敗してないように思えるのである。
同時にタイ政府も、コロナ制圧を自画自賛するだけで経済無策の韓国政府の轍を踏まず、現地の日本企業を含む早急な経済復興策を打ち出してほしいものである。
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藤澤 愼二(ふじさわ しんじ) バンコクの不動産ブロガー兼不動産投資コンサルタント
2011年、アーリーリタイアしてバンコクに移住。前職では「RREEF・グローバル不動産投資ファンド」のシニア・アセットマネジャーとして、不動産ポートフォリオのアセットマネジメントを行ってきた。