今週は清原和博さんが執行猶予を満了したニュースが駆け巡りましたが、さすがスーパースター清原さんだけあって、多くの人が応援メッセージを寄せていて、依存症問題に関わる私たちも大変嬉しく思っています。
だけどかつては薬物事犯の再起に関してはこういうムードだったんですよね。1987年に尾崎豊さんが薬物で逮捕された際には、わずか半年で「夜のヒットスタジオ」に出演されました。しかもずっとTV出演をご自分のポリシーから拒まれていた尾崎さんが、たった一度だけ最初で最後の出演となったのがこの回なんですよね。
この時、番組のMC柴俊夫さんは
「世間をお騒がせしてしまった、尾崎豊さんなんですけれども、社会的にもね、ずいぶん制裁を受けまして、いろいろ考えてもやはり天性のものが音楽に関してあるものですから、その才能を発揮して、そしてこういう場で才能を発揮し続けることが、一番今後の方向として良いんじゃないかと。それは番組側ももちろんそうですけども、本人の意志でもある訳ですよね?」
と問いかけられたんです。すると尾崎さんははにかんだような笑顔を浮かべ「ご迷惑をおかけしました」とだけおっしゃってステージへと立たれました。当時は、まだ薬物で逮捕された芸能人に対して「治療」という観点はまるでなかったと思いますが、それでも「みんなで再起を応援しよう!」というムードがありました。
ここ数年ですよね想像力のないタレントたちが、エセ正義感を振りかざし「一発アウト」などという排除の理論が強まったのは。
ここにきて多少揺り戻しがあったのは、行き過ぎたエセ正義感にうんざりしたこともあると思いますが、最近の薬物で逮捕された有名人の方はみな「治療」に繋がり、しかもその回復過程を自己開示されています。清原さんもそうです。その姿勢を見た方々が、応援団になっているのかな?と思います。だって頑張ってる人が再起するのに文句ないですもんね。
ところが、一部にはまだいるんですよ。
「どうせまたやる」とか「薬物は一生やめられない」と、天下り役人がせっせと自分たちの老後ポジションのためにやっている「ダメ、絶対」教育を聞きかじったような人たちが。
確かに、日本の薬物事犯の再犯者率は高いと言われますけど、だとしたら薬物に対する刑のあり方自体に問題があるわけですよね。
減ってないんだから、減るような方法を模索しなくてはならないのに、それを自己責任論で片付けていたのではなんの解決にもなりませんよね。
そして、薬物で再犯を繰り返すということは、依存症である可能性が高い。だから依存症の回復支援を行わなくちゃならないのに、それが十分できていない訳ですよ。
ここに国立精神・神経医療研究センターと法務省法務総合研究所とが共同で刊行した「覚せい剤事犯の理解とサポート」という調査報告書がありますが、これを見ると受刑者のうち退所後なんらかの支援機関に繋がってきた人は、専門病院23.9%、保健機関5.8%、回復支援施設12.9%、自助グループ16.5%しかいません。これでは回復率はあがりませんよね。全然広報が足りない、もしくは繋げる努力が足りない、システム自体が機能していないという問題があると思われます。
けれどもですよ、刑務所に何年も入れられて、そこから出てまた治療を受けてなんてやっていたら、どれだけ時間がかかることでしょうか。そんなモチベーション刑務所出所後に保てないですよね。
だからこんな非効果的で、税金の費用対効果の悪い方法はもうやめよう!というのが現在の世界の流れな訳ですよ。罪には問うけど、逮捕後は刑務所に入れる代わりに、治療施設につなげる。もちろん回復する気がない人や、売人は刑務所に収監される。
あるいは自己使用の場合は、非犯罪化して「捕まらないから、治療においで」という具合に間口を広げて、回復率をあげるという方法がとられるようになっているんです。実に効率的ですよね。
そして、こちらは回復施設「ダルク」に繋がってきた人の追っかけ調査です。実に驚くことに施設に繋がった人は、薬物依存の重症度が下がり、1年6ヵ月後の完全断薬率はなんと69%もあるんです。しかもアルコールの51%より高くなっているんですよ!こんなこと世の中の人は殆ど知らずに、「薬物の再犯率は高い!」って叫んでいるんですよね。
薬物事犯も、治療に繋がった人、繋がらない人、重症率の違い、過去の虐待やトラウマの有無などで経過は全く違います。
ましてや清原和博さんや高知東生さんらのように、現在、回復プログラムに向かっている人に「またどうせやる」「薬物は一生やめられない」「再犯率が高い」といった再犯ハラスメントは絶対に止めましょう。
「努力しても認められない」という社会では、誰も回復できません。税金投入を減らし、安全な社会をつくりたいのなら、回復を応援する姿勢を見せて下さい。再犯ハラスメントをする人こそ、薬物に手を貸していると肝に銘じて下さい。