「私もその部屋に居た」とポンペオ、不発に終わる?ボルトン暴露本

高橋 克己

ボルトンの暴露本「それが起こった部屋(The Room Where It Happened)」の抜粋が17日水曜日、ウォールストリートジャーナルに公表され、米国各紙もその抜粋に基づいて記事を掲載した。

ポンペオ国務長官(左)とボルトン氏(Wikipedia)

これに対しポンペオ国務長官は翌18日、「私もその部屋に居た」と題するボルトン批判文を国務省として公式に発表した。(以下何れも拙訳)

私はその本を読んでいませんが、私の見た公表されたその抜粋から、ジョン・ボルトンは多くの嘘、作り話に溢れた半分の真実、そしてあからさまな欺瞞を広めています。 ジョン・ボルトンの最終的な公的役割が、国民に対する神聖な信頼を侵害することによって米国に損害を与えた裏切り者の役割であるということは、悲しくそして危険です。 世界中の我々の友人の皆さん、あなた方はトランプ大統領の米国が世界の善のための力であることを知っています。

米国各紙(無料でネット閲覧可分。文末にリスト)が伝える、その抜粋のポイントは概ね以下のようだ。

  • トランプは、英国が核保有国と知らなかった上に、フィンランドがロシアの一部であるかどうかポンペオに聞いた。ポンペオは恥ずかしいといった。
  • トランプは、彼の大統領選勝利を保証するよう習に説き、選挙での米国農民の重要性と大豆と小麦の中国による購入の増加を強調した。
  • 習が大阪G20でトランプに、ウイグルでなぜ強制収容所を建設するか説明すると、トランプはキャンプ建設を進めるべきだと述べた。
  • NSAのポッティンジャーからも、17年の訪中でトランプから同じことを聞き中国制裁のリストからウイグル問題を消せると思った、との話を聞いた。
  • 中国やトルコを含む、トランプが好む独裁者に個人的な好意を与える彼の傾向に関し、バー司法長官が懸念しているのに遭遇した。
  • トランプはトルコのエルドアンに、米国南部の検察官はオバマ側の人物だが、入れ替えれば片付く問題と説明した。それはエルドアンが、検察官が調査しているトルコの会社は無実と主張するメモを、トランプに渡した後だった。
  • トランプは、ロス商務長官らが求めたHuaweiやZTEの制裁を、習に個人的な思わせ振りをする機会として見て、ZTEへの罰則を取り消した。

ポンペオが「私もその部屋に居た」と述べた以外にも、各紙には、これらボルトンの記述を否定する政府要人の談話が載っている。

  • 米国通商代表ライトハイザーは水曜の上院公聴会での演説で、トランプが中国の選挙への支援を求めていたというボルトンの主張は「絶対に真実ではない、決して起こらなかった、私はそこにいた」と述べた
  • 司法省は水曜、バー司法長官とボルトンは(*トルコ企業の)調査に対する「個人的な好意」や「不法な影響」については議論しておらず、バーはボルトンに、外国の指導者とのトランプのいかなる会話も不適切であると伝えなかったと述べた

これらを読んでの筆者の印象は、トランプならやりそうなことだが、どれも大した問題ではないのでは、というもの。報道されている安倍総理のトランプ評などでは、彼は相手の話を非常に良く聞くという。独裁者が好きかどうか知らぬが、ディールに有利ならその素振りもできるのではなかろうか。

フィンランドの確認然り、ウイグルのことでも習が悪い話をするはずがないから、うっかり賛意を示したかも知れぬが「ウイグル人権法」に署名した。穀物購入は中国がするのだから米国にはプラス。HuaweiとZTEは目下制裁されている。北もそれなりに自制中。あくまで政治は結果だろう。

ところでブルームバーグは16日、中国がバイデンよりトランプが次期大統領に好ましいと考え始めた、との中国政府関係者9人のインタビュー記事を報じたが、中国がボルトン本の中国関係の暴露内容を知った上で、米国民を混乱させるプロパガンダを発したのではあるまいか。

さて、ボルトンを否定する説得力のある主張には、彼が「召喚状の下で上院弾劾裁判の一環として証言する意思があると述べた」にも拘わらす、「下院の弾劾捜査官の前で証言させる取り組みに抵抗し、民主党が召喚状を発すれば」、「法廷で召喚状に異議を申し立てることさえ脅した」ことがある。

つまり、ボルトンは「本の売り上げを最大化するために」法廷での証言に抵抗したとの主張だ。「事前に情報を提供した場合、本の売り上げに支障をきたす」、「それで、彼はそれが国民にとって価値があるであろうときでさえも控えた」と共和党のケイン上院議員は述べている。

このケイン議員の話を載せた18日のPolitico紙の記事は「ワシントンの誰もがジョン・ボルトンを嫌っている」との表題だ。そこには共和党議員はもちろんのこと、民主党議員のボルトンに対する酷評がいくつも載っている。金の亡者は「敵の敵でも、味方ならず」という訳か。

オハイオ州民主党のブラウン上院議員は、彼は「公共への奉仕よりも自分の本をより気にしている」と述べ、コネチカット州民主党のマーフィー上院議員は、彼は「明らかに国を救うのではなく、お金を稼ぐことに興味がある」と述べている。

マーフィー議員は一方で、「彼の動機を考えると、人々は彼の書いたものに疑問を投げかけるかもしれないことを理解している。それは論理的な懐疑論だ」、「だが、彼が書いたことは、トランプが過去3年間に公に行っているのを私たちが見たすべてと一致しているようだ」とも述べる。

そこで上院民主党はボルトンに、特にトランプの習との会話に関する追加情報を求め、「本で提示された問題のいくつかは、もし本当なら、私の見解では米国の利益を損なうので、テストする必要がある」と外交委員会トップのニュージャージー州民主党のメネンデス上院議員は述べている。

トランプ本人はといえば、木曜日の朝に「酷い批判を受けているボルトン本は、嘘をまとめて作り上げた物語であり、すべて私を悪く見せるよう意図されている」、「彼は病気の子犬のように、彼を首にしたお返しをしようとしているだけだ!」とツイートした。

この先だが、共和党が優位な上院がボルトンの説明を求める可能性は低い。上院情報委員会委員長マルコ・ルビオも、回顧録の機密事項について質問するためにボルトンをパネルに連れてくることに否定的だ。司法省は本に機密情報が含まれていると出版差し止めを提訴した。暴露は不発に終わりそうだ。

参考にした米紙の表題を以下に記し、リンクを張っておく。