新型コロナの感染時期で新たな発見

長谷川 良

現代のシャーロックホームズはもはや虫眼鏡を持参して事件現場を捜査することはなく、都会の下水路を散策し、そこから採集した下水のサンプルから新型コロナウイルスのリボ核酸を見つけ、新型コロナが中国側の公式発表である「昨年12月末」前にイタリアでウイルスが広がっていた事実を突き止めた。

「イタリアの新型コロナ感染者をケアする医者と集中治療室」(イタリアの「ANSA通信」から、3月19日)

具体的には、イタリア国立衛生研究所(ISS)は今月18日、昨年10月から今年2月にかけて採集したロンバルディア州のミランとピエモンテ州の州都トリノ市の下水のサンプルを調査したところ、昨年12月18日に採集した下水から新型コロナウイルスのリボ核酸を見つけたというのだ。ただし、10月から11月に採集した下水からは見つからなかったという。

この調査結果が私たちに教えてくれている点は、

①中国共産党政権が昨年12月末に発表した新型コロナ感染報告が全くの嘘だったことが明らかになったこと

②イタリア北部ロンバルディア州で新型コロナ大感染が起きる数カ月前にウイルスが同州に広がっていた

という2点だ。ちなみに、ロンバルディア州で今年2月21日、新型コロナの初の集団感染が報告された。ISSのこの発見は新型コロナの発生時期を知る上で大きな情報となることは間違いない。

現代のシャーロックホームズは「骨」を分析し、事件発生の時期、性別、当時の状況などを解明する一方、その人間の歴史を覚えている「細胞」を解析する。そして今日、人間が日々消費し、排出する物や廃水が溜まる下水からも貴重な情報を収集できることが分かってきた(「『骨』がその人の歴史を語り出す時」2018年12月18日参考)。

例えば、ドナウ川の水質を調査していた学者によると、ドナウ川の水質が最近、悪化してきたことだけではなく、その水に麻薬類の痕跡が見つかることが多いという。川の水を調査することで、その河川沿いにある都市の麻薬摂取状況がデータとして出てくるというわけだ。

最近では、新型コロナの発生地、中国湖北省武漢市の中央病院周辺の駐車状況を撮った人工衛星の写真を分析した米ハーバード大学医学部のチームによると、昨年10月ごろ、武漢市の病院周辺で車の数が急増していたことだ。その情報から、中国共産党政権の「昨年12月末」ではなく、ひょっとしたら昨年10月には武漢市で新型コロナの感染が広がっていたのではないか、という推論が出てくるわけだ。中国政府は7日に公表した「新型コロナウイルス白書」によると、「武漢市で昨年12月27日に『原因不明の肺炎』を確認し、今年1月3日に世界保健機関に報告した」ということになっている。

話をロンバルディア州の新型コロナ感染問題に戻す。先述したように、中国側の12月27日説ではイタリアの新型コロナ大感染の謎は解明できない。武漢市は2月23日にロックダウンを実施している。その数日前の同月21日にロンバルディア州で新型コロナの初の集団感染が出ている。ということは、イタリアではその数カ月前に新型コロナの感染が広がっていたと考えるほうが理にかなっているわけだ。

武漢市のロックダウン前に多くの感染した中国人がロンバルディア州周辺で中国本土と同州の間を自由に行き来していた。換言すれば、中国企業が定着し、多くの中国人の行き来があったロンバルディア州には昨年12月初めには新型コロナウイルスが侵入していた可能性が考えられるわけだ。

同じことがドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW)で感染が拡大した背景には、中国経済との密接なつながりがあったからだ、という指摘がある。同州には多数の中国企業が進出し、多くの中国人コミュニティが存在する。

それだけではない。フランスで昨年12月、肺炎と診断された患者は実は新型コロナに感染していたことが明らかになった。BBCが5月5日報じたところによると、フランスで新型コロナ感染が初めて確認されたのは今年1月24日、3人の男性感染者といわれてきたが、実際は同国で1カ月前に感染者が出ていたことになる。ちなみに、欧州で最初に新型コロナの確認感染者は1月19日、ドイツ人男性となっている。

中国共産党政権は新型コロナの発生源や発生時期について偽情報を流し、事実を隠蔽する一方、武漢市のウイルス感染者の病状に関する情報提供を求める米国らの要求を拒否。その裏では、治療薬とワクチンの製造に腐心し、新型コロナ用ワクチンをいち早く開発して世界での影響力の拡大に躍起となっている有様だ。

人工衛星の写真分析や下水からの廃水分析から、「事件の核心」は次第に明らかになろうとしている。特に、ISSの今回の報告は、「新型コロナウイルスがいつロンバルディア州に侵入してきたか」という謎の解明に一歩近づく。そして新たに浮かび上がってきた情報は中国側の主張とは一致しない。欧米社会は中国共産党政権の正体を曖昧にしたままで中国との経済関係を深めていけば、もはや非道徳的と糾弾されても仕方がないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。