村山 恭平(朝日新聞創業家)
本日(6月24日)、朝日新聞社の株主総会が大阪市北区で開かれます。社主家制
さて、前の記事を書き上げた直後に、面白い情報が入ってきました。6月8日付の総会招集通知に、株主に出席を控えるよう「強く要請」する「お願い」があるようです。以下、該当部分を引用します。
「お願い新型コロナウイルス感染拡大防止のため外出自粛が強く要請されている状況に鑑み、本株主総会につきましては、極力、事前の議決権行使をいただき、当日のご来場をお控えいただくよう強くお願い申し上げます。」
見ようによっては株主を脅迫しているようです。「来てもいいけど、感染するかも知れないよ」と言っているわけですから。
朝日新聞社は伝統的に株主を大事にしない会社です。たとえば、少なくとも数年前まで総会が開場するまで参加者は立ったまま開場の外で待つのが恒例でした。その間、社長以外の役員たちは、控え室で茶菓などを楽しみながら結構くつろいでいました。
株主の大部分は、現役幹部達の先輩で、中には社長経験者もおられるのですが、それでも、会場前の廊下でオールスタンディングでした。村山家では、密かに株主虐待制度と呼んでおりました。株主総会の議論に全くリスペクトがないのが、こんなところにも出ています。
さて、今回の「お願い」。笑ってすませてもいいのですが、3つだけコメントしておきましょう。
まず、これはダブルスタンダードだということ。
今年3月3日になくなりました前社主村山美知子の「お別れの会」は、会社側の提案では5月15日開催でした。200名規模の立食形式で、全国からVIPを含む高齢者が多数集まってくるという話。
何を考えているのかと思い、「やるのは勝手だけど、村山家は誰も参加しないよ」とタンカを切って、ようやく延期にさせました。美知子クラスターなんか発生したら、会場のホテルも村山家もたまらないからです。
あまり緊急性も重要性もない大規模セレモニーを、緊急事態宣言中に強行しようとしながら、大阪の状態が落ち着いてる今、株主に「総会へ来るな」とはどういうことでしょう。
次に、必要な努力を全くしていないということです。
当たり前のことですが、株式会社は株主総会での出席者の安全に関しては全責任を負う立場です。感染の可能性を少しでも感じたら、なんらかの対策をとらなければなりません。確かにリスクゼロは無理ですが、だからと言って何もしないでいいわけではありません。
たとえば、今回、完全なリモート開催は難しいかも知れませんが、朝日新聞社には東京・名古屋・大阪・福岡の4つの本社があるのですから、分散開催にすれば議決権の集計など技術的問題の解決は可能なはずです。
こうした措置がどうしてもできないのならば、細かくその事情を説明し、まずは株主に謝罪するべきでしょう。大部分は不可抗力とはいえ、相手の権利を侵害しているという自覚があまりにもありません。こういうメンタリティーを私は「朝日脳」と呼びます。
最後に、こんな「お願い」を素直に聞く株主がいるのかという問題です。
株主の大部分は、社員か元社員です。入社以来、夜討ち朝駆けで鍛えた編集系のみならず、販売にしろ広告にしろ、「まず現場」という文化で育ってきた歴戦の猛者たちです。若造が「コロナだから来るな」などと言って萎縮効果があると思っているのなら、よほど先輩方を馬鹿にしているとしか思えません。
長い厳しい議論が予想されるのは主催者にとって気の重い問題ですが、もし、朝日新聞社が本当に言論機関としての矜持があるのなら、こういうときこそ、できるだけ多数の株主の方に集まってもらい、じっくりと時間をかけて熟議をするべきだと思います。
少なくとも、子供じみた「脅迫」で出席者を少しでも減らして、議論の盛り上がりを削ごうとするのは、かなり恥ずかしいことだと思うのですがいかがでしょうか。
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村山 恭平