ギリシャ神話に「トロイアの木馬」というのがある。ギリシャがトロイアを陥落させるのに大きな木馬を用意した。ギリシャ軍が撤退したかと思わせるようにしてそこにその大きな木馬を残した。「木馬は女神アテネの怒りを鎮めるためで、トロイアに奪われないように城内には入らないほどの大きなものにした」ということを、そこから逃げ遅れたと思わせるような一人のギリシャ人がトロイア軍に説明した。
トロイアではその大きさの前に門を壊して勝利の印としてそれを城内に入れた。ギリシャ軍が撤退したことを祝福すべくトロイア人は祝宴を挙げて酔いしれた。
寝静まっている間に木馬の中に潜んでいたギリシャの兵士が外に出て来て、待機していたギリシャ軍を中に引き入れた。酔いしれていたトロイアの軍人らはギリシャ軍の攻撃の前に何もできずトロイアは滅亡した。
このギリシャ軍に相当するのが中国、一方のトロイアというのが現在のイタリアだ。中国はヨーロッパを征服するのにイタリアをその入口と見なしている。その前に中国はギリシャを手中に収めている。しかし、ギリシャではヨーロッパを征服するにはその重みがない。イタリアとなれば、EUにおいてGDPでは英国が抜けるとドイツ、フランスに次いで3番目の国となる。イタリアはギリシャに比べ遥かに影響力のある国だ。
現在のイタリアは長期の不況に喘ぎ、金融事情も良くない。現在のイタリアにとって中国は期待できる国だ。それを証明するかのような発言が五つ星運動のルイジ・ディ・マイヨ外相より3月12日夜にあった。
その日、イタリア・ローマのフィウミチノ空港に中国から医療品第一便とコロナウイルスに取り組む専門医9人が中國東方航空にて到着したのだ。その到着にルイジ・ディ・マイヨ外相は「我々は一人ぽっちではなかった」と言って喜びを表明し、「多くの国がイタリア向けのフライトそして接触を中断した。今、我々の側についてくれる全ての人たちのことは忘れない。我々はそれを将来も温存して行くつもりだ」と述べて、コロナ感染拡大で危機的状態にあるイタリアを助けてくれる中国に感謝を表明したのである。
この救援到着の2日前に、彼は中国の王外相と電話会談をもってイタリアの要望を伝えたのが今回の到着に繋がったのであった。
その中身は人工呼吸器1000台、防護服2万着、コロナウイルス検出試薬5万キット、マスク200万枚とその内10万枚は高性能マスク。イタリアを優先して提供したものだという。(参照:hoy.es)
中国から医療物資そして専門医がローマ・フィウミチノ空港に到着した時のイタリア人の歓迎ぶりは中国でも国営放送で映像されたという。そこでは中国国歌が演奏され、イタリア人が「中国ありがとう」と叫んでいた。中国が恰もイタリアの救世主のごとく演出されたのであった。中国の方で映像が操作されていたというのは後日フィナンシアル・タイムズが明らかにしている。
トランプ大統領の補佐官だったマクマスターも彼の著書「The Fight to Defend the Free World」の中で「イタリアはヨーロッパにおける中国の木馬になってしまった」と指摘しているという。
フランスの高官のひとりも最近のル・フィガロに「中国はヨーロッパにおける浮力地帯としてイタリアを選んで、その筋書きに従って動いている」と述べた。イタリアで自由自在に動こうとしているということだ。
同様にドイツ紙ビルトも中国が医療物資を優先的にイタリアに送ったことについて、「それは友情ではない。微笑みの中に隠されたインペリアリズムだ」と指摘した。(参照:es.gatestoneinstitute.org)
そのような批判はイタリア政府には眼中にはないと言った感じで、シルクロード開発プロジェクトにイタリアが参加することを昨年3月に五つ星運動と同盟の連立政権下で中国と合意している。この合意にはEU委員会は快く感じていなかったが、特に同盟はEUからの離脱を支持している政党でこの合意を率先して進めた。
更に、中国とイタリアの関係が強化されつつある裏付けとして、五つ星運動の創設者ジュセッペ・グリロはローマの中国大使館を頻繁に訪れている。また、マテオ・レンツィー元首相も中国から招待されて講演で北京を訪問している。
2015年には中国国有化学が143年の歴史をもつイタリアのタイヤメーカーピレリを買収した。この5年間に中国がイタリアで買収に使った資金は100億ユーロ(1兆2000億円)。その期間中の中国のイタリアでの投資額は全投資額の3分の1だという。このような出来事から中国はイタリアを征服することが狙いだというのは明白である。それはあたかも南米におけるブラジルのような存在になることにイタリアが向かっているということを意味するものだ。ラテンアメリカにおいて中国のブラジルへの投資はトップを占めている。
ブラジルで中国が行って来たように、ヨーロッパにおいて中国はまず南欧のインフラをコントロールするというのが第一の目標である。その意味でギリシャの最大港ピレウスは既に中国の影響下にある。イタリアの重要な港の4港への投資を中国は開始、イタリアのプラトとフィレンツェにある産業への投資を視野に入れているという。(参照:es.gatestoneinstitute.org)
観光で潤っているベネチアまで中国は進出を開始している。ベネチアの中心地区にある伝統ある3つのバルも中国人が買収したそうだ。筆者が在住しているバレンシアと同じように気が付いた時には一区画には中国人が経営している店舗ばかりになったということが今ベネチアで始まっているということだ。(参照:elconfidencial.com)
4月17日に実施された統計によると、イタリア人の50%が中国を「友達の国だ」とみなしているというのである。米国の友達という回答は17%だったそうだ。また37%のイタリア人が中国にもっと接近すべきだという回答に対して、米国との関係強化は30%だったそうだ。(参照:es.gatestoneinstitute.org)
これが意味するものは、中国のイタリア人を洗脳するのがうまく行っているということである。イタリアの繊維産業は安価な中国製品の前に犠牲にされたということは、今のイタリア政府や多くの市民の間ではもう過去のことだと思っているようだ。