イタリア五つ星運動:ベネズエラのチャベス前大統領から政治献金か

この一週間余り、イタリアで最大の話題になっているのは、現在政権を担っている五つ星運動(M5S)が2010年にベネズエラのウーゴ・チャベス前大統領から政治献金として350万ユーロ(4億2000万円)を受け取っていたと、スペイン紙『ABC』が今月16日に報じたことである。

同紙によると、2010年に当時の外相で現大統領のニコラス・マドゥロが350万ユーロ(4億2000万円)を詰めたトランクをイタリア・ミラノのベネズエラ領事館に送ることを許可したというのである。それが同領事館の領事ジャン・カルロ・ディ・マルティノを介してM5Sの創設者のひとりジャンロベルト・カサレジオに渡されたされている。

同紙によると、この情報の根拠になったのはベネズエラの軍事諜報局(DIM)の極秘書類を基に信頼できる情報筋から伝えられたものだとしている。

この政治献金の目的はアンチ資本主義で左派政党を支援するためである。ベネズエラのボリバル社会主義革命を理解してイタリアでもそれを推進する政党の育成を当時のチャベスは望んでいたからであった。

これと同じような行動は、スペインの極左政党ポデーモスの創設に資金を提供したことで知られている。ポデーモスの場合はおよそ720万ユーロ(8億6000万円)が提供されていたとされている。(参照:elconfidencial.com

当時のベネズエラは原油の値も高く、資金的に豊かであった。チャベスはボリバル革命に同調する国を募るために特にラテンアメリカ諸国に原油を餌にして安価にそれを提供していた。その一貫で、ヨーロッパにも同じような政治活動をするための政党を探していたということである。

『ABC』が報じた内容に対し、M5Sの党首であるビット・クリミは勿論それを否定し、2006年にも同じような風評があったことを指摘した。そして彼は「我々の選挙キャンペーンは市民から提供してくれた少額の資金と手段を基に実施したものだ」と述べて、ベネズエラからの選挙資金の提供があったことを否定した。

ジャンロベルト・カサレジオの息子ダビデはメディアに「フェイクニュースだ。これまでもあったことだ。最後のそれは2016年にあった」と語って、「偽造されたことについてはこれから提訴するようになるだろう」と指摘した。(参照:infobae.com

それに対して、フォルツァ・イタリアのリーダーのひとりで欧州議会の前議長アントニオ・タジャニは「ABCが明らかにした極秘情報のお陰でマドゥロのベネズエラに対するイタリア政府の姿勢が理解できるようになった」と言及し、これを機縁に「ヨーロッパで誰がどれだけの期間ベネズエラ政権から違法資金を受け取っていたか」についてEU外交・安全保障上級代表のジュセップ・ボレイルにその調査を要請する意向であることを表明した。

タジャニがイタリア政府の対ベネズエラへの外交にこれまで不審感を抱いていたのは同国のファン・グアイドー暫定大統領の存在をM5Sは否認して来たからだ。だから、チャベスから政治資金を受けたM5Sがグアイドー暫定大統領を認めないのは合点がいくとタジャニは理解したということである。

そのグアイドー自身も昨年5月にイタリア紙『ラ・レプブリカ』からのインタビューを前にM5Sにチャベスの資金が渡されたことを告発している。(参照:infobae.com

『ラ・レプブリカ』は今回のスキャンダルについて「ABCが明らかにしたことと時を同じくして、長く沈黙を守っていたジュセッペ・グリッロが党の立て直しにジュセッペ・コンテ(首相)を党首にさせようと動き出したのは奇妙な一致だ」と報じ、「(ABC紙面に掲載された)書類が本物であれば、信頼を失うM5Sが政権に留まることは容易ではなくなる」と言及した。(参照:abc.es

一方、イタリアの代表紙『コリエーレ・デ・ラ・セラー』はABCが掲載した書類について疑問的な見方をしている。それは3つの疑問点から生まれている。

①問題の書類に記載されている「Ministerio de la Defensa」という箇所に「poder popular」という言葉が抜けている。それは2007年1月の特例でその記載が義務付けられているはずだということ。
②スタンプも疑わしく、その中の白馬が左に走っているべきなのに、右の方に走っている。しかも、頭が後ろの方に向いている。
③スタンプは青色で、Julioが「Jul」と略称されている。ところが、署名は黒で日付が15にJulを挟んで2010となっている。これはあとから付け加えたように思える。ということから同紙ではこの書類は偽造されたものではないかという疑いをもっている。(参照:abc.es

ポデーモスの場合もそうであるが、ベネズエラからの政治献金の解明は容易ではない。チャベス政権で財務相だった人物がそれを実証しているが、現在彼はマドゥロに追跡されて米国に亡命している。スペインでポデーモスへの疑惑が生まれたのは昨年4月である。それから1年が経過したが、未だに解明の伸展はない。特に、ポデーモスが現在連立政権に加わっているということも尚更調査を困難にしているようだ。イタリアでもM5Sが政権に就いている限り、解明は容易には進まないであろう。